「三菱 全日本テニス選手権95th」は11月1日に最終日を迎え、東京・有明コロシアムで男女シングルス決勝が行なわれた。女子はノーシードの秋田史帆が第1シードの日比野菜緒を逆転で下して優勝。17年、19年に続く3度目の決勝で、念願の初タイトルを手にした。

 秋田と日比野は同じ木曽川ローンテニスクラブ出身。日比野は、ジュニアのトップにいた4歳上の秋田に「小さい頃からずっと憧れていた」という。プロになってから立場は逆転し、今は秋田が日比野を「世界で活躍する、尊敬する選手」という間柄。そんな感情が多少なりとも決勝に表れたかもしれない。試合は心理面の動きで大きく局面が変わった。

 6年ぶりに出場した日比野は、立ち上がりから「知らず知らずのうちに硬くなり、なかなか緊張が取れず、これが全日本なのかと思った」と明かす。ムーンボールやスライス、ネットプレーなど、いつも通りの多彩な組み立てで第1セットを先取したように見えたが、実際は「理想のテニスじゃなく、何とか拾って拾って取った」というものだった。

 だから第2セットに入ると日比野は「心の緊張を解いて、自分らしいプレーをしたいと思い、しぶとさがなくなってしまった」。日比野のミスは目に見えて増え、逆に秋田は可能な限り前でボールを叩き、ポイントを重ねていく。秋田は第1セットを落とした後、シンプルにこう考えたという。
 「簡単なミスをしないこと。しっかりボールを見て打つこと」。それまで攻めながらもミスが多く、流れに乗れなかった秋田は、日比野のプレーが雑になるのとは対照的に、ショットの精度が増し、計ったように左右のコーナーに強打を突き刺していく。フォアで高いムーンボールを送り、バックで叩くという日比野の戦術もしっかり見切り、「ループを使われても下がらない。もしくは下がってもすぐポジションを上げる」という作戦もうまく機能し、秋田は常に前に入って攻め続けた。

 第2、第3セットは、世界71位を相手に、400位の秋田が何と12ゲーム連取。悲願の初優勝が見えても徹底して攻撃し続けられたのは、秋田に「彼女(日比野)と決勝をできたのだから、たとえ準優勝だったとしてもすごく価値のある試合になる」という気持ちがあったからだろう。最後はフォアの逆クロスへの強打で試合を決め、秋田は顔を両手で覆った。

 日比野は試合後「負けた相手が史帆ちゃんで良かった」と秋田に伝えたという。秋田はスピーチで「早く彼女と同じステージで戦えるように邁進していく」と誓った。度重なるケガもあり遠回りしてきた30歳の秋田だが、後輩との邂逅で大きな壁を越え、さらに上を目指すモチベーションも手にしたようだ。

【女子シングルス決勝の結果】
○秋田史帆(橋本総業HD) 5-7 6-0 6-0 日比野菜緒(ブラス)[1]●

取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部)

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