菅野智之(巨人)と大野雄大(中日)の沢村賞争いが注目を集めている。菅野は球団史に名を刻む開幕13連勝を飾ってリーグ連覇に貢献すれば、大野は現代野球では異例の6完封や45イニング無失点を記録と、互いに一歩も引かぬ活躍で高レベルの争いを演じてきた。

 今から9年前の2011年にも、パ・リーグで2人の投手が同じように別次元の投球で沢村賞を争った。主演は田中将大(当時楽天)とダルビッシュ有(当時日本ハム)だ。

 高卒1年目の07年に新人王を受賞した田中は、翌年から北京五輪やWBC代表にも名を連ねるなど球界を代表する投手となったが、タイトルとは縁がなかった。対して2歳上のダルビッシュは、沢村賞に輝いた07年から4年連続防御率1点台と圧巻の成績を収め、11年開幕時点ですでに5つのタイトルを獲得。難攻不落の絶対的なエースとして君臨していた。
  2人は11年シーズンを迎えるにあたり、さらなる飛躍を果たすための布石を打っていた。前年に故障もあって奪三振率がリーグ平均以下に落ち込んでいた田中は、新たに習得したスプリットに手応えを得た。一方、メジャー挑戦を見据えて肉体改造に着手していたダルビッシュは、体重を約10kgも増量。オープン戦で当時の自己最速タイ156キロを叩き出すなど、これまで以上に力強さを備えた姿が注目を集めていた。

 シーズンの滑り出しは対照的だった。4月12日の開幕戦で先発したダルビッシュは、西武打線に自己ワーストの7失点とまさかの大炎上。ライバル視していた涌井秀章に敗れ、開幕マウンドは3連敗となった。一方の田中は、開幕4試合目のオリックス戦に先発。東日本大震災の発生により、甲子園でのホーム開幕となった一戦で、自責点2の完投勝利を収めた。

 開幕戦で打ち込まれたダルビッシュだが、2登板目から8連勝。5月10日〜6月15日にかけて球団記録の46.2回連続無失点を樹立するなど、相手打線を沈黙させ続けた。負けじと田中も、6月1日〜7月7日まで6連勝。そうして迎えた前半戦締めくくりの7月20日、東京ドームで両雄の投げ合いが実現した。
  今も語り草となっているこの一戦は、平日開催にもかかわらずチケットは売り切れ、4万4826人の観衆が詰めかけた。試合は2回にダルビッシュが先制点を許したが、田中も4回に3失点。その後は2人ともスコアボードに0を刻み続け、互いに最後まで投げ抜く意地と意地のぶつかり合い。わずか2時間23分で決着し、ダルビッシュが13勝目(2敗)を手にした。

 敗れた田中だが、6月に続いて7月も月間MVPを受賞。8月27日のソフトバンク戦では歴代2位の1試合18奪三振を記録した。10月にはパ・リーグ史上初となるシーズン3度目の月間MVPを受賞し、後半戦だけで10勝(2敗)を挙げてダルビッシュを追い抜いた。統一球導入の影響があったにしても、防御率はリーグ史上2位の1.27と近代野球では信じがたい水準に達した。

 ダルビッシュは後半戦5勝4敗と運に恵まれなかったが、史上初の5年連続防御率1点台をマーク。全試合で7イニング以上を投げ抜き、28先発のうち14試合は2ケタ奪三振と「凄み」は田中をも凌駕した。
  2人はともにキャリアハイを塗り替えるとともに、先発投手のタイトルを2人で独占。沢村賞の選考基準7項目も、以下のようにすべてクリアした。

※( )はリーグ内順位
■25試合以上:ダルビッシュ 28 田中 27
■10完投以上:田中 14(1位) ダルビッシュ 10(2位)
■15勝以上:田中 19(1位) ダルビッシュ 18(3位)
■勝率6割以上:田中 .792(1位) ダルビッシュ .750(4位)
■200投球回以上:ダルビッシュ 232.0(1位) 田中 226.1(2位)
■150奪三振以上:ダルビッシュ 276(1位) 田中 241(2位)
■防御率2.50以下:田中 1.27(1位) ダルビッシュ 1.44(2位)

 沢村賞の選考委員長を務めた土橋正幸は「2名でという話も出た」が、40分もの激論の末に「競馬で言ったら写真判定。それも拡大しないと差が出ないくらい」の僅差で田中の初受賞を決めたのだという。

 投手にとっては最大の名誉とも呼べる沢村賞。昨年は該当者なしだったが、今年は大野と菅野のどちらが授かるのか、当時のように熱い議論が交わされそうだ。

著者プロフィール
ふじわら・あきら/1984年生まれ。『SLUGGER』編集部に2014年から3年在籍し、現在はユーティリティとして編集・執筆・校正に携わる。ツイッターIDは@Struggler_AKIRA。