日本シリーズは最長でも7試合、4戦先勝という短期決戦だ。勢いに乗った選手が好調を維持したまま“シリーズ男”となることもあれば、最初につまずいて復調のきっかけすらつかめないまま、“逆シリーズ男”という不名誉な称号を与えられてしまう選手もいる。

 パ・リーグでは史上初となる4年連続での“日本シリーズ開幕投手”を担ったソフトバンクの千賀滉大は、頂上決戦におけるそうした“機微”を皮膚で感じている。「毎年、慣れるものではないですけど、初めてではないというところはあります」。ここで巨人打線を勢いづかせたら、自分の後に続く投手たちを、負の連鎖に引きずり込んでしまうかもしれない。だからこそ、最初が肝心なのだ。
  1回の12球のうち、9球が150キロを超える剛速球。千賀は立ち上がりから、まさしくエンジン全開で試合に入っていった。1回2死一塁、巨人の4番・岡本和真への初球は154キロの内角直球。岡本にとっても、今シリーズで初めてのスウィング。その瞬間のことだった。

 バキッ。

 コロナ禍で鳴り物も声援も自粛した京セラドーム内に、鈍い音が響き渡った。バットは真っ二つ。力のない打球は、バックネット手前でキャッチャー甲斐拓也のミットに収まるファールフライとなった。セ・リーグで本塁打と打点の二冠を手にした大砲を、力勝負で完全に圧倒したのだ。

 エースが主砲をねじ伏せたこの結果は、両軍の士気にも間違いなく影響した。これで勢いに乗ったソフトバンクは、直後の2回、クライマックスシリーズで2試合ともノーヒットに終わった栗原陵矢が2ランを放って先制。これで試合の主導権はソフトバンクが握った。
  一方の巨人打線も、千賀の低めへ落ちるフォークを徹底して捨てにかかった。2回先頭の丸佳浩はフォークを3球見逃してフルカウントまで持ち込んだが、最後は159キロの直球を内角に決められて見逃しの三振。攻撃前に円陣を組んで臨んだ3回には9番の大城卓三が6球連続ファウルで粘るなど必死の攻撃を見せたが、得点にはつながらない。

 ただ、「少し力が入りすぎているように見える。日本シリーズの初戦ということで、仕方ない部分だとは思うけど」と、投手コーチの森山良二も分析したように、この日の千賀は、7イニング中5イニングで走者を背負った。3回と4回にはいずれも三塁まで進まれるなど、中盤以降は苦しい投球が続いた。

 それでも、「良くないなりに、自分の中で行くべきところは行って、かわすところはかわしていた」と工藤公康監督が評した投球で、千賀はその後も好投。6回、坂本勇人にセンター前ヒットを許したが、続く岡本は内角に148キロを投げ込んで詰まらせ、丸には150キロを投じてまたもバットをへし折った。
  100球を超えての7回1死、中島宏之を空振り三振に打ち取った瞬間に両足がつるアクシデントもあったが、続くウィーラーも見逃し三振に仕留め、7回を無失点で投げ切って勝利投手に。チームにポストシーズン13連勝と、日本シリーズ新記録の9連勝をもたらした。

「少しボールにバラつきはありましたが、結果0点に抑えることができたので良かった。大事な初戦を、チームのみんなで良い流れに持っていくことができたと思います」

 千賀本人がそう振り返ったように、“開幕投手”の重責は十分に果たすことができた。昨年の日本シリーズでも、千賀は初戦で坂本、岡本、丸の3人に対して、執拗な内角攻めを行った。その“残像”が消えぬままだった3人は、4試合での打率が全員合わせてわずか.093に終わるなど、シリーズを通して深刻な打撃不振に陥った。今年もエースが投じた“撒き餌”が、2戦目以降もじわじわと効いてくるはずだ。

取材・文●喜瀬雅則(スポーツライター)

【著者プロフィール】
きせ・まさのり/1967年生まれ。産経新聞夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で 2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。第21回、22回小学館ノンフィクション大賞で2年連続最終選考作品に選出。2017年に産経新聞社退社。以後はスポーツライターとして西日本新聞をメインに取材活動を行っている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)「不登校からメジャーへ」(光文社新書)「ホークス3軍はなぜ成功したのか?」 (光文社新書)