今オフの日本ハムは、大きな岐路に立っていると言っても過言ではない。すでに報道のある通り、昨年に最多勝を獲得して今季パ・リーグ最多3完投を記録した有原航平と、盗塁王3回のリードオフ・西川遥輝がポスティングシステムを利用してメジャー移籍を目指すことになった。

 先発投手が不足している今オフのメジャーのFA市場では有原の需要が高く、日本人野手がメジャーでなかなか活躍できていないことを受け、移籍報道で見ても「有原>>>西川」といった印象を受ける。確かに“パワーレスな外野手”の西川に、どれだけの球団が獲得の意向を示すかは不透明である。

 もっとも、日本ハムという球団単位で見た時、西川がチームから抜けるようだと、有原以上に「ダメージ」を負う可能性がある。今季リーグ5位に終わった日本ハムは493得点が3位、528失点が5位だった。ここだけを見れば、イニング数が稼げる先発1番手の有原の方が痛手に思えるが、そう簡単ではない。
  西川の凄さは、今季もリーグ2位の42盗塁、チーム盗塁数の50%以上を稼ぎ出したスピード面ばかりが強調される一方、真価は「出塁能力」にある。レギュラーに定着した2013年以降、西川の出塁率は打率よりも毎年1割近く高く3割台後半を維持。16年は.403、今季は規定打席に到達した両リーグ全53選手中で4位となる出塁率.430をマークした。

 ボール球スウィング率は2016年以降、毎年両リーグトップ3に入り、18、20年は1位。今季の四球率17.6%はチームメイトの近藤健介に次ぐ両リーグ2位の数字であり、西川の選球眼は本当の意味で「ボールを見極めて稼ぎ出す」ことができる稀有な能力なのである。

 しかも西川はスピードがあるから、シングルヒットで簡単に三塁やホームに還ってくる。昨年は19盗塁と彼にしては少ない数にとどまったものの、UBR(盗塁、盗塁死を除いたベースランニングでどれだけ得点をもたらしたかを示す)は両リーグダントツ1位。

 西川が塁に出ればそれだけ得点機会が多く生まれるわけで、彼が一塁にいることで相手バッテリーは盗塁も警戒しなければならない。それを防ぐためにストレート中心の配球になればしめたもの。後続の打者は狙いを絞った打撃ができるようになり、「打線の潤滑油」としての役割も果たしているわけである。
  今季の日本ハムのチーム出塁率は.330で、楽天(.341)と広島(.331)に次ぐ両リーグ3位だった。もっとも、日本ハムで今季50打席以上に立った19選手のうち、この“平均値”を超えたのは近藤(.465)、西川(.430)、渡邉諒(.348)の3人だけ。圧倒的な出塁能力を持つ近藤と西川が押し上げた数字であり、西川の数字を抜いた時、チーム出塁率は.330→.317まで下降し、これは両リーグ10位に相当する。

 4番の中田翔が今季打点王を獲得したが、これも近藤&西川コンビがかなりの高い確率で出塁してくれていたという要因も大きく、「ポスト西川」の穴は思っているよりも大きいはずである。

 日本ハムは今年のドラフト会議にて、2位指名で“サニブラウンに勝った男”、大学球界最高の韋駄天・五十幡亮汰を獲得した。スピードを生かした外野守備も魅力であり、昨年の契約更改の段階でメジャー移籍をにおわせていた西川の穴を埋めるという意味でも的確だったと言えるだろう。しかし、五十幡の大学通算出塁率は.308に過ぎず、打撃面でどれだけ貢献できるのか不透明だ。スピード+出塁能力を超ハイレベルで示してきた西川の代わりを、すべて彼に期待するのは酷というものだろう。
 「気がつけば、いつもあなたがいた」

 来季のプロ野球が開幕した時、もしかしたら日本ハムのファンの多くはこんなフレーズが頭をよぎるかもしれない。チームの切り込み隊長としてヒットも打つし、四球を稼ぎ出す。高い成功率で盗塁を決め、後続のシングルヒットでも先の塁を奪い続ける天性のリードオフ(しかもイケメン)不在を嘆く事態は十分にあり得る話だ。

 複数の選手が出塁へのマインドを高めない限り、その穴はぽっかりとあいたままになってしまうかもしれない。

文●新井裕貴(SLUGGER/THE DIGEST)