トレードの成功・失敗はどのように判断すればいいのか。交換した選手同士が、いずれも移籍先で活躍するのは“理想的なトレード”かもしれないが、獲得した選手が放出した選手の成績を下回っていたら、その球団にとって成功とは言えない。

「成功したトレード」を決めるには基準が必要だ。投手と野手の交換トレードが成立し、投手が次の年10勝、野手が20本塁打したとして、どちらが得をしたのか一見しただけでは分からない。野手同士でも出した選手が打率3割、取った選手が30本塁打だったとき、優劣は判断しづらい。だが、投手と野手で共通の評価基準があれば、判断は可能になる。

 メジャーリーグでは、守備や走塁も含めた選手の総合的な勝利貢献度を示すWARという指標が開発されていて、日本でも計算はされている。けれども、過去の詳細な守備成績は入手できないため、古い時代と現代の選手の正確な比較は難しい。
  そのため、ここでは野手を平均よりどれだけ多くの得点を稼ぎ出したかを示すRCAA、投手は平均よりどれだけ多くの点を防いだかを示すPRというセイバーメトリクスの指標を使い、これを総合した数値を「プレーヤーズ・バリュー(PV)と名付けて評価基準とした。なお、RCAAは守備力が考慮されない攻撃力だけの指標なので、PVに変換するにあたっては、過去の打撃成績を参考にして守備位置ごとの“得点創出難易度”を割り出し、以下のような補正をかけた。

捕手1.24、一塁手0.87、二塁手1.10、三塁手0.97、遊撃手1.13、左翼手0.93、中堅手0.97、右翼手0.97、指名打者0.83

 これは、RCAAの数値が同じでも、守備の負担が大きい捕手が稼ぎ出す数値には1.24倍の価値があり、守備の負担が少ない一塁手は0.87倍の価値しかないことを示す。この作業により、守備面もある程度反映させられる。

 PVを用いることで投手と野手を同一の基準で評価できるし、今と昔の選手の比較もできる。これをトレードで移籍した選手に応用すれば、移籍後のPVを計算することで、トレードの損得を数字として表すことができる。
  具体例を挙げてみよう。1975年6月、阪急で通算338勝を挙げていた米田哲也が無償トレードで阪神へ途中移籍した。シーズン終了までに8勝3敗、防御率2.27と好投、移籍後のPVは12.9だった。翌76年は2勝2敗、防御率4.50と成績が下がり、PVも−1.7で自由契約となった。近鉄に入団した77年のPVは−5.2で、同年限りで引退した。

 阪急を退団してからの2年半で、米田のPVは(+12.9−1.7−5.2)で合計+6.0。これは阪急から見ればそのまま6.0のマイナスとなり、阪神へ放出した無償トレードの損得は−6.0となる。

 一方、阪神からすると、算出の対象は75、76年の2年間になる。この間の米田のPVは11.2。近鉄への移籍は自由契約で、トレードではなかったから計算には入れず、阪神が得たPVはそのまま+11.2となる。したがって、米田のトレードの収支は以下のようになる。

阪神 +11.2/阪急 −6.0
  もっと複雑な例も見てみよう。2009年オフ、巨人は二岡智宏と林昌範を日本ハムへ放出し、その代わりにマイケル中村と工藤隆人を獲得する2対2の交換トレードが成立した。

 日本ハムでの二岡は、故障もあってDHや代打での出場がほとんどだった。代打として09、12年のリーグ優勝に貢献したが、守備につかなかったためPVにはマイナスの守備位置補正(0.83)が加えられる。そのため、47打点を挙げた10年もPVは−13.5と大幅なマイナスになった。結局、二岡は13年を最後に引退し、日本ハムでの5年間のPVは−22.7だった。林は日本ハム移籍後の3年間は中継ぎとして好投し、PVは+3.3だった。12年にDeNAへ移ってからの4年間は−0.5で、巨人を出てからの7年間は+2.8となる。

 一方、巨人が得た2人はどうだったか。工藤は巨人での2年間は−2.4。その後はロッテと中日でも8年間プレーして、トレード後の総PVは−7.5だった。日本ハム時代は25セーブ以上を3度記録したマイケルだが、巨人ではそれほど活躍できず、巨人での3年間はPV+1.0だった。12年には西武に移ってPV+0.4を記録し、日本ハムを退団してからの合計PVは1.4だった。
  このトレードでの両球団の損得はどうなるか。巨人から見ていくと、マイケルは在籍3年間で+1.0なので、そのままプラスにカウントされる。そして、移籍後にマイナスとなった二岡のPVは、巨人のプラスとしては計算しない。移籍先でマイナスのPVでも、元の球団にとってプラスにはならないからだ。放出した選手のPVがマイナスだった場合は損得として数えない。

 では、移籍先でのPVがプラスだったらどうか。阪急にとっての米田のケースがこれに当てはまるが、この場合、チームにプラスをもたらすはずの選手を出したわけだから、放出球団のマイナスとして計算する。すなわち、林が移籍後に残したPV+2.8は、巨人の損失として考える。したがって、マイケル獲得で得た+1.0は、林の−2.8で帳消しになり、二岡のマイナスは無視するので、ここまでの損得は1.0−2.8=−1.8となる。

 では、巨人が獲得したもう一人の選手、工藤のマイナスは巨人の損失として計上すべきか? いや、そうすべきではないだろう。放出した選手のマイナスをカウントしないのだから、獲得した選手のマイナスをカウントするのは整合性がない。放出にせよ獲得にせよ、PVはプラスの場合のみ集計対象となる。したがって工藤は計算に入らず、このトレードの巨人側から見た損得は−1.8となる。

 今度は日本ハム側から見てみよう。巨人での工藤と同様、二岡のマイナスは数えない。林は日本ハムでの3年間のみが対象で+3.3。放出した2選手に関しては、退団後のPVがすべて対象なので、マイケルは西武時代も含めた+1.4が損失分となり、工藤は巨人・ロッテ・中日時代を含め−9.9だったので計算には入らない。よって林で得た3.3から、マイケルで失った1.4を引いた+1.9が、日本ハム側の収支となる。二岡+林⇔マイケル+工藤のトレードは、以下の数字が最終的な収支となった。

巨人 −1.8/日本ハム +1.9
  このような作業を、2リーグ分立後の1950年以降に成立したすべてのトレードに対して行った。すべてデータに基づいて算出したもので、個人的な見解は差し挟んでいない。そして最もPVのプラスが多かった、すなわち獲得側の球団が最も得をしたのは、以下の5件だ。

 1979年
真弓明信、若菜嘉晴、竹之内雅史、竹田和史(西武)⇔田淵幸一、古沢憲司(阪神)
阪神 +260.9/西武 −257.3

1987年
落合博満(ロッテ)⇔牛島和彦、平沼定晴、桑田茂、上川誠二(中日)
中日 +257.0/ロッテ −274.4

1998年
矢野輝弘、大豊泰昭(中日)⇔関川浩一、久慈照嘉(阪神)
阪神 +159.9/中日 −159.9

1988年
ラルフ・ブライアント(中日)⇒近鉄(金銭)
近鉄 +125.6/中日 −125.6

2013年
糸井嘉男、八木智哉(日本ハム)⇔大引啓次、木佐貫洋、赤田将吾(オリックス)
オリックス +118.4/日本ハム −182.9

 これらのトレードの詳細について、次回から一件ずつ取り上げていく。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。