小林可夢偉が3位表彰台で鈴鹿の大観客を歓喜させた2012年以降、日本のF1は盛り上がりのゲージが大きく上がることはなかったが、今季終了後、待望のニュースがファンの心を高揚させた。日本人として10人目のフルタイムドライバーが誕生したのである。

 角田裕毅、20歳。来季、アルファタウリからF1デビューする期待の新星だ。

 2005年5月11日に神奈川県相模原市で生を受けた彼の、ここまでの人生の大部分は、レースによって形作られてきた。わずか4歳でカートに乗り、7、8歳の時に富士スピードウェイで生のF1に感銘を受け、16歳で鈴鹿サーキットレーシングスクール・フォーミュラに入校、フォーミュラカーレースに参戦、以降カテゴリーを上げながら現在に至る。

 そして、そのキャリアは輝きと栄光に包まれている。2006年、5歳で中井インターサーキット・キッズクラスのシリーズチャンピオンという初タイトルを手にすると、毎年のように様々な大会を制し続け、2016年のフォーミュラーレース初年には、いきなりスーパーFJで優勝を飾り、F4でも最年少優勝記録などを打ち立てて日本の頂点に立った。
  海外挑戦を開始した2019年、日本人2人目のレッドブル・ジュニアチーム所属ドライバーとなってからはさらに勢いが加速し、F3でやはり1年目にして勝利を飾ると、翌年(つまり今季)にはF2にステップアップし、3勝を挙げて年間ランキング3位につけるとともに、「ピレリ・トロフィー」「アントワーヌ・ユベール・アワード」(新人賞)といった個人賞も獲得した。

 早くから、未来のF1ドライバーとして期待をかけられていたが、今年11月のトスカーナ・グランプリ後にイモラ・サーキットで行なわれたテストで、「2018年型のマシンでセッションを重ねるごとに進歩を見せ、エンジニアに良いフィードバックを返していた」とアルファタウリのフランツ・ドスト代表が振り返るように、ドライビング能力と開発能力の高さを示した日本人は、ついに頂点の舞台へ招かれる。
  まさに、一気に階段を駆け上がってきた驚異の20歳。その最大の武器は、何と言っても攻撃的なドライビングである。自身も「見てほしいのは、オーバーテイクと他のドライバーよりも奥に突っ込めるブレーキング。どちらも自信がある」と語っている。予選のミスで最後尾スタートを強いられながらも6位フィニッシュを果たした今年のバーレーンGPは、その強みを余すことなく見せつけた代表例である。

「一発の速さ、アタックをかける時のタイムの出し方、タイヤマネジメントも評価されていると思う」と自己分析する角田に対し、レッドブル・ジュニアチームの責任者ヘルムート・マルコは「驚異的なスピードを有している」と評価。さらに「F1全体に影響を与えるカリスマ性もある」と、称賛の幅はドライバーとしての枠だけにとどまらない。

 もちろん、ルーキーが四輪レースの最高峰で競争力を発揮するには、クリアすべき課題がある。前述のテストでF1のブレーキング時における減速Gの大きさを痛感した彼は、「今はまだ、レースで最大のパフォーマンスを発揮できるフィジカルにない」と自覚し、新シーズン開幕までに、主に首の筋肉面の強化に取り組んでいくようだ。
  精神面の安定もとりわけルーキーにとっては不可欠な要素だが、F2時代から取り入れているメンタルトレーニングの効果が出ているという。「他のドライバーが犯しやすいミスが少なく、適切なレースができる」というF2時代の欧州メディアの評価は、技術だけでなく、精神面の改善にもよるものだろう。もっとも、前述のバーレーンGP予選では他車に邪魔をされたことで心を乱したのがミスに繋がっており、本人は「改善の余地あり」と語っている。

「ミハエル・シューマッハー、ルイス・ハミルトンが達成した7回のワールドチャンピオンという記録を抜きたい。2035年までにそれができれば嬉しい」と野望を語る20歳だが、ルーキーイヤーの2021年、まず成すべきはF1に慣れること。そして、その舞台で走るに相応しい走りを見せることだが、自身の力を知る(あるいは示す)上での指標となるのが、チームメイトの存在だろう。
  24歳のフランス人、ピエール・ガスリーは今年、波乱のレースとなったイタリアGPで初優勝を飾っており、角田が最初の越えるべき壁は高くて厚い。昨年にはシーズン途中でレッドブルからトロロッソ(アルファタウリの前身)へ“降格”させられるという屈辱を味わっており、そこから高みに到達したことは、ガスリーに強さと自信と与えた。

 角田は、このチームメイトについて「素晴らしいドライバーで、たくさんのことを学べる」とリスペクトするとともに、2012年を「彼を負かすシーズンにしたい」と強気の姿勢を見せる。
  彼がF2時代に所属したカーリン・モータースポーツのオーナー、トレバー・カーリンは、「マックス・フェルスタッペン(レッドブル)と同じ何かを持っている」と評価する角田の1年目について、「ナチュラルな才能を活用すれば、欧州ラウンドを迎える頃には、ガスリーに並べるだろう」と予想する。

 来季も中段争いを展開すると予想されているアルファタウリで、車の限界を引き出し、それをチームにフィードバックして能力向上に貢献すること、ガスリーとの競争で可能性を示すこと、そして「攻める姿勢で見ていて迫力のあるドライビング」(本人談)を発揮し、可能な限り多くのポイントを獲得することが、1年目の目標ということになるだろう。これらを完遂した先に、レッドブル昇格、そして夢のワールドチャンピオンがある。

構成●THE DIGEST編集部