新型コロナウイルスに振り回された2020年もまもなく終わり、新年を迎える。「オリ熱コラム」も今年はこれで最後になるので、今回はこの1年、現場取材で感じた印象的なエピソードを書きたい。

 今年は、春季キャンプとオープン戦で充実した取材ができたという手応えがあった。しかし、シーズン開幕が延期になると、新型コロナウイルス感染対策のガイドラインを作成したNPBの方針により、選手や監督、コーチとの接触は代表取材のみという制約が設けられた。そのため、オープン戦までは可能だった(他球団ではオープン戦から規制があった球団もあったと聞く)選手への独自取材が不可能になってしまったのは正直痛かった。

 そこで、京セラドームに足を運び、その内容からキャンプやオープン戦で取材したことを照らし合わせながら記事を書いていこうと腹を決めた。そんな中で、8月18日からの西武6連戦を迎えたが、チームは最初の2試合に敗れて3連敗。20日にオリックスが敗れ、ソフトバンクが勝つか引き分ければ早くも自力優勝が消滅するという状況を迎えた。
  この日は、まず西武の選手の不祥事が発覚したことから、急遽、夕方に球団幹部による謝罪会見が京セラで行われることになった。ビジター球団が他球団の本拠地でこのような会見を行うのは極めて異例。試合開始前はこの西武の会見に関する記事を書いていた。

 一方、試合は6回までにオリックスが5点のビハインド。「万が一」に備えてロッテ対ソフトバンク戦の動向もチェックしていると、7回表までソフトバンクが2点リードしていたが、その裏、ロッテが同点に追いつく。「引き分けかな」と思った矢先、延長10回にソフトバンクが2点勝ち越した。

 一方、京セラではオリックスが追い上げていた。しかし、ロッテが10回裏に3点を入れてドラマチックなサヨナラ勝ちを収める。

 ロッテが勝ったことで、オリックスの自力優勝が消滅することは「きょうはないな」と思った10分後、オリックスは4対6で敗れて4連敗。西村徳文監督はいつものように監督インタビューで敗因を述べると監督室へ入っていった。
  試合の記事を書き始めていると、懇意にしているマスコミ関係者から「この後、GMが会見をやるそうです」という知らせを受ける。私は作業を止めて、確実な情報が入るまで待つことにしたが、監督人事に関する会見であることは間違いない。周囲はこれまで見たことがないほどのバタつきようで、まるで緊急ニュースが入ったテレビ局の報道センターのようだった。

 その時点から、後任についていろんな名前が飛び交っていた。試合終了から30分経ち「監督代行は中嶋聡二軍監督、コーチも大幅入れ替え」という有力な情報が入ると、広報から情報解禁時間が記された新人事が送られてきた。この日は4時間を超えるロングゲームだったこともあり、福良淳一GMが会見を行ったのは午後11時を過ぎていた。
  私は森脇浩司監督、福良監督、そして西村監督と3人の指揮官の最後の試合をすべて現場で取材しているのだが、ここまで球団が一気にメスを入れたのは見たことがない。この日、京セラドームを出たのは日付をまたいだ深夜0時半。記事も複数本書くことになったので徹夜作業である。当然のことながら、翌日には中嶋監督代行の就任会見も行われる。練習前に行われることが予想されたため、寝ないで京セラに向かったが、この日の試合で一変したチームの雰囲気を見て眠気は吹っ飛んだ。

 まず、21日にはファンから一軍待望論が出ていた杉本裕太郎が昇格即スタメンで結果を出すと、この日まで沈黙していたジョーンズがホームランを含む2安打3打点の大暴れで逆転勝ち。中嶋監督代行がマンツーマンで鍛え直した山崎福也の好投も光った。
  チームは22、23日にも勝って中島監督代行就任から3連勝。ジョーンズは22日にも2本、23日にもホームランを放った。23日には二軍監督時代に重用していた富山凌雅、漆原大晟の2人を昇格させ、富山は初ホールド、漆原は初セーブを記録した。「無敵の中川を知っている」と不調に喘ぐ中川圭太を4番に抜擢する用兵にも驚かされた。

 また、二軍から昇格した辻竜太郎打撃コーチの“辻ガッツ”と呼ばれたガッツポーズやベンチ内の明るさは、後に大下誠一郎の支配下登録&一軍デビューにもつながっている。まさに、21日からチームは一変したのだ。
  6年間オリックスを現場取材しているが、8月20日の出来事は一生忘れないだろう。翌21日からの3連勝も含めて、現場にいなければあり得ない貴重な経験である。オリックスの2021年は、8月21日からスタートを切ったと言っても過言ではない。来年はこの変革が正しかったと胸を張れるように、結果で証明してもらいたい。

取材・文●どら増田

【著者プロフィール】
どらますだ/1973年生まれ。プロ野球では主にオリックスを取材し、週刊ベースボールの他、数々のウェブ媒体でも執筆している。書籍『ベースボールサミット 第9回 特集オリックス・バファローズ』(カンゼン)ではメインライターを務めた。プロレス、格闘技も取材しており、山本由伸と那須川天心の“神童”対談を実現させたことも。