『全日本ベテランテニス選手権』50歳以上男子シングルスのディフェンディングチャンピオンで、過去にも40歳以上、45歳以上の各シングルスを制した崔城薫(チョイ・ソンフン)さんに、前回はベテランテニスの大会へのエントリーの仕方、体調や時間の管理などについてお話ししていただいたが、今回は実際の試合で必須となるテクニック、強くなる人たちの共通点などについて触れていこう。

 現在も50歳以上男子シングルスでランキング1位(2020年11月30日付)をキープしている崔さん。ダブルスでボリス・ベッカーを破った経験を持ち、元全日本ダブルス王者でもある石井弘樹氏が主宰する石井テニスアカデミー(山梨県甲府市)にて普段はコーチを務めているが、いち競技者、また、指導者としての目線でベテランテニスを語り尽くす。
 スライスは体力温存の意味でも有効

 ベテランの試合を観戦した経験がある方は、スライスを多用する持久戦のような印象を持っているかもしれない。では、実際にどのようなショットが有効なのだろうか。

「体力が必要なことは前回お話ししましたが、テクニックも大事ですね。ショットはスライスが基本的に多いです。それが有効ということもありますが、昔からプレーされているベテランの方々が若かった頃は、まだトップスピンをかける打ち方がそれほど盛んでなかったということもあるでしょうし、ドライブで打ち続けると体力を消耗しますから体力温存の意味でもスライスで“返して返して”という展開になることが多いですね。
 皆さん、技術が高く、スピン系の強いボールを打っても簡単に返されてしまいます。よほど良いボール、コースに打たないと一発で決まりません。それはジュニアにもいえることで、普段から“作って作って作って、決める”というテニスを教えています。
 理想はチャンスになったら前に出てボレーで決めたり、ドロップショットを打ったりなんですが、実際にそういう方はあまりいません。とにかく一所懸命“つなげてつなげて”相手のミスを待つ(笑)。だから体力がものをいうということもあるでしょうね。みんなボールに対する執着心がすごいです。やはり結果を残せるのはディフェンス力が強い人、それと体力がある人たちですね。そういったベテランの方たちは尊敬に値します」と崔さんは話す。
  リターンのテクニックに長けた選手が多いベテランテニスだけに、サービスもエースを狙うというよりいかにポイントを奪えるかが重視されるという。

「そんなに速いサーブを打ってくる人はいないですね。それよりコースをうまく狙って相手のリターンミスを誘ったりです。やっぱり簡単にエースは獲れませんから。そこも確率重視ですね。これはベテランに問わず、いえることですね」

 コーチを生業とする崔さんは、一歩ずつ技術を習得し、積み重ねていくことこそが、勝利への近道だと考えているようだ。
 「今できないからといってあきらめず、普段の練習やスクールでのレッスンの中で無理をせず少しずつ技術を習得するのが一番ではないでしょうか。
 ラケットの真ん中にうまく当たらないんだったら“まずしっかり当てる”ように努力する。それができたら今度は“ボールの種類を打ち分ける”といったように感覚を磨いていく。基本的なことを積み重ねていかないと、どんなテクニックを覚えようとしても結局は形になりません。
 スピン、フラット、スライスの打ち分け、そしてスピンだったら若干ボールを落としてつなげる。この4種類の基本ショットをどうやって覚えるか……。いきなりドロップとかのテクニックに走らず、まずは真っすぐ当てるところから始め、次に球種の打ち分けと順に進んでいくことが大事だと思います」
 特殊なラケットセッティングで王者戴冠

 全日本ベテラン出場者の多くは、フレームが100インチ前後、ポリエステルのストリングを50ポンド前後で張り、ストリング込みで320〜330gのラケットを使っているそうだが、崔さんはラケットに独特なセッティングを施している。

「ラケットはダンロップのCX200を使っています。私のセッティングは少し特殊で、365gと重く、ストリングのテンションは24ポンドと緩くしているんです。大事な試合の時にはナチュラルを張りますが、普段のレッスンなどではナイロンです」

 ストリングは一般的に50ポンド前後のテンションで張られることが多いので、24ポンドは驚きの数値だ。ストリングを緩く張るほど、パワーが増すが、その一方、コントロールするのは難しくなる。
 「飛び過ぎるんですが、それを技術でコントロールしています。当たる時の感覚ですね。
 重くしているのはラケットヘッドをぶらさずにしっかりスイングするためです。重いからこそしっかり無理しないで丁寧に芯へと当てることに集中できます。緩くしているのは昔からの自分の好みです。テクニックがあればコントロールできますが、緊張しすぎるとバコーンと違うところに飛んでいってしまいます(笑)。
 高いテンションで張ったラケットで打つと自分の力でどんどん振っていかなければなりません。試合後半になって体力が落ちるとスイングがぐちゃぐちゃになってしっかり振れなくなってくるので、それを補う意味もあります。
 重いラケットは体力を使うように思いますが、強くスイングしなくても丁寧にインパクトして、当たる瞬間だけ力をポンと入れてやれば良いので、それほど疲れません。とにかく当たる瞬間の“タッチ”を大切にしたテニスです。当たる時の力の入れ加減、どのタイミングで力を入れるか……。でもそれを可能にするには“足の体力”が必要ですね」

 特殊なセッティングは“足の体力”がなせるワザ。技術を支えるのは、やはり体力ということなのだろう。

「踏ん張ったりする時に使うすねの筋肉、あと腹筋も大事です。体幹がしっかりしていないと、打てないし、走れません。過去には何試合も戦って痙攣することもありました。
 体力に関していうと、私は試合中、コートチェンジする時も椅子に座りません。日頃のレッスンで立ちっぱなしに慣れていることもありますが、そのまま立っていることで普段と同じリズムでプレーできますし、固くなることを防げます。対戦相手に“体力あるな!”とプレッシャーを与える効果もあります」
 とりあえず試してみる人が強くなる

 指導者目線で見ると、うまく、強くなる人たちには共通する点があるのだという。チャレンジ精神、好奇心が強い性格のほうが良く、頑固さは上達の妨げになる。

「ジュニアにも一般の方たちにも共通していえるのは、アドバイスをしっかり受け止めて、とりあえず試してみる人のほうが上達するということです。性格もありますが、こういうことかと聞くだけ聞いて、自分はこのスタイル、このプレーが好きだから試してみないという方は、伸びしろが少ないような気がします。実際、そういう人もいっぱいいます(笑)。
 フェデラーやナダルといったプロの真似をするのも悪くないですが、自分の身体、技術を考えてやらないと、怪我をしてしまいます。怪我をしたらテニスをやりたくてもできなくなってしまいますからね」

 プロでもある程度実績を残した崔さんが、ベテランテニスの大会に出ようと思ったきっかけ、どんなところに魅力を感じているのかにも興味が湧く。
 「最初は体力や試合の感覚を衰えさせないことを目的に出場し始めました。それで出てみたらいろんな方との出会いがあって、ベテランに出ている方たちは仕事もさまざまですし、話をしたりして、そこにも魅力を感じるようになりました。
 それとあきらめずに一所懸命やる姿ですね。そういった姿勢は仕事にもつながっているんではないでしょうか。あとテニスを大事にする姿勢。大好きだからこそ一所懸命取り組む、そういう空気にも魅力を感じます。うまい、強いからすごいというだけではなく、下手でも頑張るその姿が、本当にそのスポーツを愛する姿勢なんだと。
 皆さん、本当によくやってると思いますよ。身体をキチッとケアして、練習もしっかりやって。それもテニスが好きだからなんでしょうね。お互い尊敬し合えるので、アドバイスもします。いわれてすぐできるようになる訳でもありませんから私も聞かれたら何でも答えています」
  最後にベテランテニスの大会への出場を考える一般プレーヤーに『全日本ベテランテニス選手権』三冠王からメッセージを贈ってもらった。

「これから試合への出場を考えられている方には、時間がある時に走ったりして、まずは身体を作ることをおすすめします。
 普段の練習やレッスンの中で先ほど触れた4つの基本の打ち方をきちんと覚えて、人とプレーする時は自分のことだけでなく、相手のテニスをよく観察して、コートを広く使うことを意識していけば良い試合ができるようになると思います。急いで結果を求め、基本のプレーを忘れて、小手先のプレーに走ってしまうこともあるかもしれませんが、焦らないでゆっくり考えていけば徐々に変わってくるはずです。
 それとできればベテランの試合に出ている人たちとプレーして、教えを請いたほうがお得かなと思います。個々の技術と試合の作り方は別の部分もありますし、やっぱり経験があるので。そういう人のほうが広くテニスを考えていますね。
 私は(石井テニスアカデミーの)石井代表が協力してくれるからできてますが、会社員の方も家族やまわりの協力を得られるように普段からそういった人間関係を築いておくことが大切なのではないでしょうか」
 『全日本ベテランテニス選手権』を目指すには、気力、体力、経済力とかなりの覚悟が必要となることが改めてわかったが、出場すればそれ相応のリターンも得られるはず。いきなり高い目標を立てず、とりあえずJTA(公益財団法人 日本テニス協会)にベテラン選手登録をして公式戦に出場してみれば、あなたも普段とは違う、さらなるテニスの魅力を発見できるかもしれない。

崔 城薫(チョイ・ソンフン 1966年3月14日生まれ)
13歳の時に初めてテニスラケットを握る。1988年に明知(ミョンジ)大学を卒業後、1989年よりLGに所属してプロ活動を開始。27歳で引退し、指導者に転向後、2001年に来日。現在は石井弘樹氏が主宰する山梨県甲府市の石井テニスアカデミーでジュニアを中心に指導に当たる。元韓国代表。韓国ランキング最高6位。

取材・文●甘利隆
東京造形大学デザイン科卒業。都内デザイン事務所、『サイクルサウンズ』編集部、広告代理店等を経てフリーランス。Twitter:ama_super