7月29日(日本時間30日)に開催される、今年のNBAドラフト。過去2シーズンはギリシャ出身のヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)が、今季もセルビア人のニコラ・ヨキッチがシーズンMVPに輝いたように、ヨーロッパ出身選手の活躍が目覚ましい近年、ドラフト候補生にも将来有望な“欧州産の原石”が潜んでいる。この連載では、そんな期待のヤングタレントたちを数回にわたって紹介する。

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 最初に紹介したいのが、“トルコバスケットボール界の未来を担う逸材”と期待されているベシクタシュ所属のビッグマン、アルペラン・センギュンだ。
  ドラフトの4日前に19歳の誕生日を迎えるセンギュンは、今季、18歳にしてトルコの国内リーグ、バスケットボールスーパーリーグ(BSL)のMVPに選出された。BSLといえば、今季のユーロリーグチャンピオンのアナドルー・エフェスや、ファイナル4常連のフェネルバフチェを筆頭に、多い時はユーロリーグに4チームを送り込むハイレベルなリーグ。そこで彼はスターティングセンターとしてチームを率い、平均28分のプレータイムでレギュラーシーズンは平均19.2点、9.4リバウンドと、ダブルダブルに迫る数字を叩き出した。

 身長206cmに対し体重は95kgと、フィジカル面はまだまだ鍛える必要があるが、足元のステップは軽妙で、上半身が柔らかく、稼働域が広い。オフェンスリバウンドをゲットするポジショニングセンスに長け、ボールハンドリングも巧みでオープンシューターを見つけてパスも出せる。ディフェンスでの貢献度を上げるといった課題はあっても、オールラウンダーぶりはこの世代では傑出していると言っていい。

 トルコの北側、黒海沿岸の街ギレスンで生まれたセンギュンは、幼少時から両親の勧めで水泳を習っていた。しかしバスケットボールをやっていた兄の練習を観に行くうちに興味を持ち、8歳の頃から自分もプレーするようになる。やがて水泳との両立が難しくなると、彼はバスケットボールを続けることを選んだ。
  ティーンエイジャーになる頃には、スカウトの間では知られた存在となっていて、12歳でイスタンブールに近いバンドゥルマにあるプロクラブ、バンヴィットと契約。

「いくつか興味を持ってくれたクラブがあったなかで、自分の可能性を最大限に生かせそうな場所を選んだ。コーチのアフメッド・ギュルゲンがキッズの大会に誘ってくれて、そこで話をして入団を決めたんだ。『きっと君にとってここは理想的なクラブだ』と彼に言われたことが間違いでなかったことは、入団してから実感できたよ」

 センギュンは当時をこう振り返っているが、このトルコメディアとのインタビューからも、12歳の頃から相当成熟した考えを持っていたことが伺えよう。
  トルコバスケ界の英雄、ヒドゥ・ターコルー(元オーランド・マジックほか)が会長を務めるトルコバスケットボール連盟は、若手の育成に力を入れている。2017−18シーズンには、各プロクラブのユースチーム同士が対戦するバスケットボールユースリーグ(BGL)を新設。これにより、各クラブはよりいっそう若い世代の育成に真剣に取り組むようになった。多くのチームがユースリーグに出場する主力メンバーをシニアチームのトレーニングに参加させる手法を取り、戦力となりそうな選手をプロリーグの試合に起用することも珍しくない。

 センギュンも、まさにそのようなシステムのなかで育った1人だ。16歳になると、ユースチームではBGLに出場しつつ、トレーニングは提携しているプロクラブ、クルミジの選手たちとともに行ない、2部リーグにあたるトルコバスケットボールリーグ(TBL)の試合にも出場した。

 その2018−19シーズン、BGLでバンヴィットはファイナル4に進出し、初代チャンピオンのアナドルー・エフェスを91−68で下し優勝。この試合で26得点、21リバウンド、4スティール、2ブロックと驚異的な活躍を披露したセンギュンは、シーズンMVPにも選出された。そしてTBLでも、成人チームに混ざってプレーした16歳ながら、平均10.8点、6.8リバウンドという立派な数字を残している。
 「常に年長の選手とトレーニングしていたことで、飛躍的に成長できたと感じた。TBLでの最初はもの凄くハードだったよ。でも時間とともにリズムを掴めるようになって、自分自身にも自信が持てるようになったんだ」と、彼自身も手応えを語った。

 国内最高峰のスーパーリーグに初参戦した昨シーズンは平均5点、3.9リバウンドにとどまったが、2010年にはアレン・アイバーソン(元フィラデルフィア・セブンティシクサーズほか)や、2011年のロックアウト中にはデロン・ウィリアムズ(元ユタ・ジャズほか)も在籍したベシクタシュに移籍した2年目の今季は、前述のとおりMVP級の活躍。さらに昨年はバスケットボール・チャンピオンズリーグ、今季はFIBAヨーロッパカップと国際マッチも経験した。FIBAヨーロッパカップはグループリーグの3戦のみで敗退となったが、そのすべてでチームハイの評価点を出すなど、国際試合でもチームを牽引できるリーダーシップは、18歳の器をはるかに超えている。

 トルコ代表でも、いまや完全に主力の一員となり、ユーロバスケット予選ではバックコートのシェーン・ラーキンとともに出場権獲得に大きく貢献した。
  今シーズンのフィールドゴール成功率は64.6%、フリースローは81.2% 。決して悪い数字ではないが、本人は「シュートに恐怖心があった」と語っている。

「どうしても気持ちが昂ってしまい、その状態で打つと外す。でもいまはコントロールできるようになってきたよ」

 フリースローラインに立った彼が、ボールに向かって呪文を唱えるのもお馴染みの光景に。「これは凄く大事な1本だ。だから絶対に決めなきゃいけないんだ」と、自分に“おまじない”を唱えているらしいが、だいたいいつもそれで10秒ほど消費しているため、チームメイトからは、このルーティーンを変えるよう言われているそうだ。

「シーズン中はプレーに集中したい」という理由から、NBAについてはコメントを避けていたセンギュンだが、シーズンMVPに選出されたのとほぼ同じタイミングでドラフトエントリーを発表。
 「僕のなかには『まずはユーロリーグにいって1、2年経験を積んだ方がいいんじゃないか』という声と『NBAに行って、そこで学ぶ方がいい』という声がある。でも今は、すぐにNBAに行き、そこで成長したい」

 そう気持ちを吐露したセンギュン。現状、入団したいチームは特にないという。

「レブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)とプレーしたい、というのは誰もが夢見ることだと思うけれど、特にこのチームに行きたいという希望はない。心に決めたところがあって、そこに行けなかった時にがっかりするのは嫌だから」

 そう語る一方で、デンバー・ナゲッツのプレースタイルが好きだとも話している。

「理由はチーム全員でプレーしているから。ニコラ・ヨキッチのプレーがそれを象徴しているよね。こういうチームでプレーしたいと思うよ」
  ルーキーにとって、どのような状況のチームに入るかは、その後のキャリアを左右する大きな問題だ。ヨキッチも自分に合った球団に入れたことが、その後の成長を加速させたと言っていい。今シーズン、オクラホマシティ・サンダーに入団したテオ・マレドンとアレクセイ・ポクシェフスキーも、若手を中心に再構築しようとしているチームだったため、初年度から責任ある役割を任せられ貴重な体験を得ている。

 センギュンにとって強力な助っ人は、2004年にピストンズでNBAチャンピオンになった同胞の大先輩、メメット・オカーだ。彼とは2年前から連絡を取り合い、オカーがトルコに来たときには、一緒にワークアウトをしてNBA流のトレーニングを体験させてもらっているという。

「試合に出られるチームに行きたい。ベンチに座っているような状況になるのは嫌だ」と語るセンギュンは、モックドラフトでは1巡目20位前後、サンアントニオ・スパーズやゴールデンステート・ウォリアーズの名前がリンクされている。はたして、どのチームに入団することになるのだろうか?

文●小川由紀子

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