メンタルコーチ(スポーツサイコロジスト)を付けているテニス選手が多くなりました。それだけメンタル的に追い詰められているという現実もあるのでしょう。あとは、賞金額が昔と比べて上がったことも、背景にあると思います。

 例えば、2019年ウインブルドンの1回戦の賞金が約700万円ですが、私のファーストキャリアの時は、ベスト4に入ってそれぐらいの賞金でした。グランドスラム本戦に出場できる人でもコーチしか付けられなかった時代から、自分が強くなるために必要なことにお金を費やせるようになったわけです。

 メンタルコーチがプラスになるかは、選手によります。私のように言われたことと違うことをしたくなるタイプは合いません(笑)。でも、すがりたくなる時があるのは理解できます。

 迷ったり、うまくいかない時、何も考えたくない時もあります。そういう時、信頼できる人がずっと側にいて、パッと吐き出して、心に入ってくる言葉を見つけてくれるのであれば、ある意味楽だと思いますし、安定した心理状態でいられます。

 ただし、メンタルコーチがいても、最後に扉を開けなくてはいけないのは、自分自身です。次の変化を生み出せるのは自分ですし、誰を信じようが自分が変わらなくていけないというのが私の考えです。
  メンタルのことなので、大坂なおみ選手についても触れておきます。私には彼女が追い詰められて悩んでしまう心理状態が、わかる部分もあります。選手の立場で言うと、同じ質問をされる感覚はあるものです。でも、多数いるメディア側にとっては、質問をした人が初めて聞く場合もあるわけで、そこにギャップが生まれるのは仕方がありません。くだらない質問も以前はもっと多かったですし、私もカチンときたことがあるのは事実です。

 選手に求められるものが増えた現状もあります。大坂選手は元々器用な方ではなく、内向的ですし、自分の言葉で発信するよりは文章にする方が得意なタイプでもあると思います。だけど会見では即座に言葉にしなくてはいけないし、自分の考えていることが伝わらないというフラストレーションもあったと想像できます。

 現状に一石を投じることが本来の目的であれば、もう少しやり方があったと思います。でも、あの時のあの方法が彼女にとっての精一杯のやり方だったのでしょう。ただ、苦手なサーフェスの前というのは、隠しきれないものがありますね。

 根本にプレッシャーから逃れたいという思いがあり、罰金を払ってすむならそれで解決したいと思う。一方で問題提議をする一石を投じたいという思いもある。そういうことが混ざってのことだったのかなと想像しています。影響力があったのは間違いありませんし、問題提議という点では、大きな意味があったと思っています。

文●伊達公子
撮影協力/株式会社SIXINCH.ジャパン

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