7月29日(日本時間30日)、ブルックリンのバークレイズ・センターで開催される2021年のNBAドラフト。近年注目度が増しているヨーロッパのプロスペクトでは、スペインのウスマン・ガルバ、トルコのアルペラン・シェングンらが1巡目の指名候補に挙がっている。

 クロアチアのシボナに所属する18歳のパワーフォワード、ロコ・プルカチン、レアル・マドリーのガード、カルロス・アロセンら数人がエントリーを撤回したため、当初より欧州勢は少なくなりそうだが、モックドラフト(ドラフト指名予想)では2巡目に予想されている将来性のありそうな2人を、ここで紹介しよう。

■フィリップ・ペトルシェフ(セルビア/メガ・バスケット)
 NBAの今季MVPニコラ・ヨキッチと同じ、セルビアのメガ・バスケットからエントリーするのが、2000年4月生まれのビッグマン、フィリップ・ペトルシェフ(Filip Petrusev)だ。

 身長211cm、体重107kgの堂々とした体躯を誇る彼は、なかなか面白い経歴の持ち主でもある。首都ベオグラードで生まれ、FMPを皮切りに、レッドスター、パルチザンと、同市にある3つのプロクラブで育成を受けたのち、14歳でスペインの名門ラボラル・クチャ(バスコニア)に入団した。
  本人いわく「セルビアとは段違いに良いスペインでのバスケ環境」に非常に満足していたが、両親はより可能性を求め、息子をアメリカのハイスクールに入れることを選択。コネチカット州にある高校へと進学し、その後プレップスクールを経て、ゴンザガ大学に入学した。

 ゴンザガ大では、3年生にエースの八村塁がいたこともあり、1年目は平均11.4分しかプレータイムを得られなかったが、2年目になってよりチャンスを与えられると、かつてスティーブ・ナッシュも受賞したウエスト・コースト・カンファレンスの最優秀選手に選ばれるほどの活躍を披露。ちなみにこの賞を前年に受賞したのは先輩の八村だ。

 しかしここで、ペトルシェフは再び周囲の予想を裏切る行動に出る。ゴンザガ大を中退して故郷セルビアに戻り、メガ・バスケットとプロ契約を結んだのだ。早くからNBA行きを目標にしていた彼は、当初ドラフトへのアーリーエントリーを決めていたが、これを撤回し、母国で1年修行することを決めた。

 その理由は、ドラフトでの評価をより格上げするため。ヨーロッパに帰ることを決めた時、古巣のレッドスターやパルチザンも獲得に手を挙げるなか、メガを選んだのもそのためだった。

「自分の目標は世界最高峰のリーグ、NBAでプレーすること。もしヨーロッパでキャリアを積むなら、ユーロリーグやユーロカップに参戦しているクラブを選んだ。だがメガは、ほかとは違う。ここは若手が中心で、チャンスが与えられる。しかもひとつのコンペティションにしか参戦していないから、ハイレベルかつ練習する時間がたっぷりあるんだ」
  ペトルシェフのエージェントは、ヨキッチと同じで、メガのオーナーでもあるミスコ・ラジュナトビッチ。彼はペトルシェフについてさらに伸ばしたい部分を洗い出し、この1年間で徹底的に強化するプランを立てた。その柱がアウトサイドのシューティングの精度を上げることで、古典的なセンターだったペトルシェフを、現代のNBAで求められるセンター像に近づけたのだ。

 それはペトルシェフの発言にもあるように、ドラフト候補生を育てることを目的としているメガだからこそ可能な育成であり、ヘッドコーチも一緒になって、彼を改造・強化することをチーム戦略に盛り込んでシーズンを戦った。

 その結果、ペトルシェフはリーグ最多の平均23.6点、7.6リバウンドをマークして、アドリア海リーグのMVPに選出。1年前のゴンザガ大時代よりも、はるかにレベルアップした姿と実績を引っさげ、今年のドラフトに参戦する。

 ラジュナトビッチは、昨年17位でNBA入りした同郷のアレクセイ・ポクシェフスキーが所属するオクラホマシティ・サンダーや、デニ・アブディヤが入団したワシントン・ウィザーズあたりがペトルシェフに向いていると読んでいるようだ。もしウィザーズに入ることになれば、ゴンザガ大の先輩、八村との再会も実現するだけに、当日の指名が注目される。
 ■ジュハン・ベガラン(フランス/パリ・バスケットボール)
 そしてもう1人、ダークホース的ながら将来性が評価されているのが、フランスのパリ・バスケットボール所属のジュハン・ベガラン(Juhann Begarin)だ。

 彼は同じフランス人のNBA選手であるロドリーグ・ボーボワ(元ダラス・マーベリックス)、ミカエル・ジェラバル(元シアトル・スーパーソニックスほか)、ミカエル・ピートラス(元ゴールデンステイト・ウォリアーズほか)と同じ、カリブ海に浮かぶ西インド諸島のグアドループ出身だ。

 両親、兄もバスケ選手で、バスケを極めるために15歳でパリに来て、国立エリート養成機関INSEPに入学した。前述のように西インド諸島にあるフランスの海外県は多くのプロ選手を輩出しているが、島内ではまだバスケのレベルは高くなく、マルティニーク出身のロニー・トゥリアフ(元ロサンゼルス・レイカーズほか)も同じように、島からフランス本土に来てINSEPに入学している。
  ベガランはそのINSEPチームで、2019年のアディダス・ネクストジェネレーション・トーナメントに16歳で出場し、大会2位の平均19.8点をマーク。大会のオール5に選ばれると、同じ年にラトビアのリガで行なわれたバスケットボール・ウィズアウトボーダーズ欧州版でもMVPを受賞するなど、すぐに頭角を現わした。

 そしてその夏、パリ・バスケットボールとプロ契約を締結。同クラブは、2018年に設立されたばかりの新設クラブだ。これまでパリ市内にはプロチームがなかったため(パリ市外には国内トップリーグ所属のルバロワ、ナンテールなどがある)、「パリ市にプロバスケクラブを!」をスローガンに誕生。共同オーナーはNBAミネソタ・ティンバーウルブズの元球団社長、デイビッド・カーンが務めている。

 2部リーグ(ProB)からスタートすると、3年目の今季は準優勝を果たし、来季はトップリーグ参戦が決まっている。1年目は控え選手で平均4.8点止まりだったベガランも、2年目の今季は1試合を除く全試合に先発出場。平均11.9点と数字を大きく伸ばして昇格に貢献した。
  シュートの精度にはまだ改善の余地があるが、スピード、とりわけ一歩目の爆発的な加速を武器としたペネトレーションは目を引くものがある。196cm、84kgの体格も、競り合いに負けない強さを持っている。

 ディフェンスでは、ブロックやスティールなど反射神経を生かしたプレーが得意。攻守ともに本能に頼ってプレーしている感じで、ゲームビジョンや試合の流れを読むといった点は今後養っていく必要があるが、良い指導者に恵まれれば飛躍的に伸びそうなポテンシャルを感じさせる。デイビッド・カーンのNBAコネクションも含め、今後の動向が気になる逸材だ。

 トニー・パーカーがオーナーを務めるアスヴェルに匹敵する球団に急成長しそうなパリ・バスケットボールにも、来季はますます注目が集まりそうだ。メガ・バスケットといい、新興クラブが、欧州のバスケシーンの新たな主役になりつつある。

文●小川由紀子