「フランスで20年に1人の逸材」

 NBAのサンアントニオ・スパーズで4度のチャンピオンに輝いたトニー・パーカーが太鼓判を押す、17歳のビッグマン、ビクトール・ウェンバニャマ。

 フランスのレジェンドであるパーカーはこの夏、自身がオーナーを務めるフランスのクラブチーム、アスベルにこの期待の新鋭を招き入れた。ということは、今シーズン、ユーロリーグの舞台で、彼の姿が見られるということだ。

 身長220センチ、ウイングスパンは240センチに迫る。ただ本人は「サイズは関係ない」と語るように、俊敏な動きやボールハンドリング、ロングシュートなど、ガード並の働きも得意とする、まさにモダンバスケットボールを象徴するビッグマンだ。

 ウェンバニャマは、2004年にパリ郊外で生まれた。母がバスケットボール選手で、姉のエヴァも、17年のU16欧州選手権で優勝したフランス代表のメンバー、というバスケ一家だ。

「子どもの時からいつもボールで遊んでいたから、シュートやドリブルは自然に覚えた」という彼が真剣にバスケットボールを始めたのは、10歳でパリ郊外にあるプロクラブ、ナンテールの下部組織に入団してからだった。

 14歳の時にはバルセロナでテストを受けたが、家族はナンテールでキャリアを積み上げることを選択した。同じく若くして注目されていたルカ・ドンチッチは、13歳でスロベニアからレアル・マドリーに飛び立ったが、ウェンバニャマ家がとったのは別の選択肢だった。
  彼が若くして注目されていた理由はやはりそのサイズで、15歳の誕生日を迎える頃には、すでに身長は218センチに達していた。

「僕のプレーを見たことがない人は、ただ身長が大きいということで注目して、それだけで僕がプロスペクトだと言っているのだと思う」

 19年、イタリアのウディネで行なわれたU16欧州選手権で国際トーナメントにデビューした彼は、自身をとりまく喧騒について、冷静に分析している。この大会で彼は、平均9点、9.6リバウンド、5.3ブロックという成績を残し、フランスは準優勝を収めた。

 平均5.3ブロックは驚異的な数字で、これはウェンバニャマの得意技のひとつだ。彼の長い腕がボールの軌道を遮り、面白いように相手のシュートをはたき落とす。その長さが大きな武器であるのはもちろんだが、シュートのタイミングに合わせていいポジションに走り込むセンスも傑出している。

 これはバスケを始める前にプレーしていたサッカーの経験が役立っていると、ウェンバニャマは語る。サッカー時代のポジションは、想像に難くないゴールキーパー。シュートに機敏に反応してブロックするGKの動きが、飛球にタイミングを合わせて動く感覚を養ったのだ。
  何度もの成長痛を乗り越えてきたのかと想像させられるが、本人は、「まめに身長を測るタイプじゃないのからいつ伸びたかわからない」と淡々としている。また身長が伸びても、シューティングやドリブルのフォームには影響しなかったそうだ。その理由は、幼少期から呼吸をするのと同じように手元には常にボールがあり、シュートやドリブルは、身体の一部だったから。

 ナンテールでは、まだユースチームに所属していた15歳の時に、トップチームのコーチに召喚されてプロの試合にも出場。ユースチームのコーチは「2004年生まれの彼は常に1999年組を相手にプレーしている。だからこうした試合でも自然に馴染める。今後はフィジカル面を鍛える必要があるのはもちろんだが、彼はしっかりした考えを持った家族に囲まれている。何も心配はいらない」と、ウェンバニャマの成長を見守ってきた。

 その翌年にはプロチームに定着し、約17分のプレータイムで平均6.8点、4.7リバウンド、そしてリーグハイの1.9ブロックを記録。リーグの年間最優秀ヤングプレーヤー賞にも選出され、この夏からは、フランスのチャンピオン、アスベルへとステップアップした。
  パーカーは入団に際し、「彼は世界でも類を見ないタイプの選手。素晴らしいキャリアを築くために必要なものはすべて備えている。NBAドラフトで1位指名になれる可能性もあるだろう。彼の成長をサポートし、彼自身の目標を達成する助けるため、我々は全力を尽くす」とコメントしている。

 ナンテールでもユーロカップ(ユーロリーグのアンダーカテゴリー)で欧州カップ戦の感触を味わっている彼は、昨シーズン、スロベニアのオリンピア戦では17分の出場ながら、5得点、6リバウンド、2アシスト、4ブロックという立派な数字を残した。

 先日の東京オリンピックでは、アメリカとフランスが決勝で熱戦を繰り広げたが、7月にラトビアで行われたU19ワールドカップでも、この両者が決勝戦を戦った。

 2歳年長の選手たちに混ざって出場したウェンバニャマは、81−83で惜敗したアメリカ戦で、ゲームハイの22得点、8リバウンド、8ブロックという、モンスター級の数字を叩き出した。

 しかし残り約2分に5ファウルで退場。相手のファウルトラップにはまった形だが、この経験も、彼にとって今後の糧になったことだろう。
  昨年のシーズン開幕前に、フランス代表の大先輩ルディ・ゴベア(ユタ・ジャズ)と2オン2で対戦したビデオでは、NBAナンバー1ディフェンダーのフェイスガードをかわして、頭越しにシュートを決めたり、一瞬でマークを振り切ってゴール下に回り込み、レイアップを決めるなど華麗な妙技を見せてくれている。ただその一方で、ディフェンスではゴベアのパワープレーに対抗できなかった。

 折れそうなくらいに細くて長い手足は、NBAの屈強な猛者たちと渡り合うには心許なく、本人も「フィジカルの強化」を課題に挙げている。

 ウェンバニャマのドラフトエントリーが可能になるのは23年。欧州のプロリーグでもまれ、身体を強化するには、ここからの2シーズンは格好の機会となることだろう。
 「プロスペクトとは何か、と聞かれたら、誰もがある意味で、プロスペクトなのだと思う。僕は自分について人が言っていることには注目していない。僕は自分のプレーと、いかに上達するか、ということにフォーカスするだけで頭がいっぱいだから」

 上記は彼が15歳の時の発言だが、内面も相当に成熟していることがわかる。本人は嫌う称号だが、“世界ナンバー1級のプロスペクト”と言われる彼の、今シーズンのユーロリーグ初見参が楽しみだ。

文●小川由紀子