先月4日に起きた中田翔のチームメイトに対する暴行事件の余波は今もくすぶっている。

 一度は日本ハムから無期限の出場停止処分を受けたが、わずか10日足らずで巨人への無償トレードが決定。出場停止はあくまでも日本ハムによるものだったため、移籍に伴ってリセットされて一軍に復帰した。球団からの事情説明が遅れた影響もあり、中田の去就や処遇は多くのファンやメディアから批判が殺到する事態に発展した。

 もっとも、海の向こうのMLBでは選手同士のいざこざはよく起きている。

 2019年9月にはパイレーツでこんな事件が起きた。クラブハウスでかける音楽をめぐって、クローザーのフェリペ・バスケスと中継ぎのカイル・クリックが殴り合いの喧嘩に発展。結局、後者が右手人差し指を骨折し、残りシーズンを欠場する羽目になった。

 言うまでもなく「みっともない」の一言に尽きる一件だ。だが、いずれも球団から特に処分は受けなかった(というより、直後にバスケスが児童性的虐待で逮捕されたため、それどころではなくなった)。

 この手の事件はMLBにおいては、かなりの頻度で起きている。そのため、しばらく経てば忘れ去られてしまう。だが、なかには今も多くのファンの記憶に残っているものもある。
  その代表格が、2002年に起きたバリー・ボンズとジェフ・ケントという2人のスーパースターによる試合中の大喧嘩だ。

 ともにMVP受賞者で、ジャイアンツでは3、4番コンビを組んでいたボンズとケントは、犬猿の仲でも有名だった。派手なプレースタイルで"オレ様"ぶり全開のボンズと、自他ともに認めるオールドスクールのケントはまさに水と油の関係だったのだ。

 事件が起きたのは6月25日。試合中に守備でミスを犯したチームメイトをケントがダグアウトで叱責しているところに、ボンズが割って入り、激しい口論に発展。小突き合う2人の姿はテレビカメラにもしっかり収められた。

 当然、メディアでも大きく取り上げられたが、当時のダスティ・ベイカー監督は「こういうことは大抵、強いチームで起きる。弱いチームはいつも馴れ合いだからね」と涼しい顔。2人に何の処罰も下さなかった。

 ベイカー監督の言葉通り(?)、チームはこの年、サンフランシスコ移転後44年目にして初のリーグ優勝を達成。試合中に公衆の面前で揉み合ったのは、大人げないとしても、その後の対応は大人そのものという不思議な一件だった。

 ボンズとケントの事件から遡ること10年前には、シンシナティで監督とクローザーがクラブハウスで大乱闘を繰り広げた。
  当時、シンシナティ・レッズのクローザーを務めていたロブ・ディブルは、100マイルに迫る剛速球を武器としていたが、コントロールも性格も大荒れで、何度となく乱闘事件を起こしていた"札付き"だった。一方のルー・ピネラ監督も瞬間湯沸かしとして有名だった。

 ある試合でディブルを起用しなかった理由を報道陣に聞かれたピネラ監督は、「肩が痛いと言っていたから」と回答。その直後、ディブルが「そんなことは言っていない」と反論。面子を潰された指揮官は激怒し、報道陣の面前でディブルに襲いかかったのである。周りにいた選手たちに引き離されるまで、ピネラ監督とディブルはプロレスの場外乱闘さながらの揉み合いを続けた。

 翌日、2人はオーナーのマージ・ショット女史に直接謝罪(このショット女史も、ヒトラーを称賛する発言をはじめ数々の放言で知られた人物だった)。特に処罰は下されなかったが、ピネラ監督はその年限りで辞任した。

 ディブルとピネラ監督の一件は、トラブルとはいってもどこか笑える要素がある。だが、レッドソックスの主砲として活躍し、ユニークなキャラクターでも人気を博したマニー・ラミレスが起こした事件は趣が違う。

 08年6月にクラブハウス職員に関係者用チケットの手配を頼んでいたラミレスだが、手に入らないと伝えられて激怒。チームの古株で、当時64歳になっていた職員を突き飛ばした。
  ラミレスはすぐに謝罪し、球団からも特に処分は下されなかった。ただ、気まぐれだがどこか憎めないキャラクターだったラミレスの"ダークサイド"に多くのファンがショックを受けた。騒動の1か月後、ラミレスはロサンゼルス・ドジャースへトレードされるのだが、この一件が遠因になったと言われている。

 もし、中田の事件がMLBで起きていたらどうなっただろうか。良し悪しは別として、そこまで大きな問題にはなっていなかっただろう。スポーツに限らず、アメリカ社会では「争いごとは起きるもの」という認識があるからだ。「監督>選手」「先輩>後輩」という力関係が基本的にないため、トラブルが起きても個人同士の問題として処理される。

 ただ、中田のケースは、「後輩が先輩に服従する」という関係性が作用している面が少なからずあり、そこにアメリカにはない陰湿さが見え隠れしている。どこか後味の悪さが残るのも、そのせいではないだろうか。

構成●THE DIGEST編集部