2018-19シーズンの覇者トロント・ラプターズが、変革を迫られている。

 当時の優勝の原動力となったカワイ・レナード(現ロサンゼルス・クリッパーズ)とダニー・グリーン(現フィラデルフィア・セブンティシクサーズ)は、直後のオフに揃ってチームを退団。翌20年にはマルク・ガソル、サージ・イバカ(現クリッパーズ)のベテランビッグマン2人もFAで移籍し、今夏は9シーズン在籍したカイル・ラウリーがサイン&トレードでマイアミ・ヒートへと去った。

 ニック・ナース・ヘッドコーチの下で若手選手を育成し、現在は生え抜きのパスカル・シアカムとフレッド・ヴァンブリートを中心に据えているものの、昨季は7年続いていたプレーオフ出場を逃してしまった。

 ラプターズを退団したラウリーは、9月1日にCJ・マッカラム(ポートランド・トレイルブレイザーズ)のポッドキャスト番組に出演した際に、古巣へ向けた胸中を明かしていた。

「俺にとってはチャンピオンシップを手にするか失敗するかのどっちかだ。マイアミ・ヒートへ行くことは彼らがそれを望んでいると感じたから。あそこにはジミー・バトラーという親友もいる。マイアミはチャンピオンシップを勝ち取りたいと心底望んでいると感じたんだ」
  続けて、「もしチャンピオンシップのためにプレーしていないんだとしたら、いったい何のためにプレーしているんだ?」と持論を展開。「それが俺のフリーエージェンシーにおけるプロセスだった。『俺はどこに行けばチャンピオンになれるのか?』そればかり考えていた」

 ラウリーは昨季途中にトレードでの移籍が決定的となるも、デッドラインまでに成立せず、一旦はチーム残留となった。とはいえ、優勝した当時からチームが弱体化している状況に思うところがあったのだろう。

 昨季のラプターズは、新型コロナウイルスによる移動制限のため、フロリダ州タンパのアマリー・アリーナを仮のホームとして戦った。当然ファンからのサポ−トを十分に得ることはできず、ホームで16勝20敗と負け越し。迎える今季は2シーズンぶりにスコシアバンク・アリーナでホームゲームを開催できる許可が下り、トロントの熱狂的なファンとともにプレーオフ返り咲きを目指せる。

 もっとも、ラウリーとのサイン&トレードでゴラン・ドラギッチ、プレシャス・アチウワこそ獲得したものの、新戦力は新人のスコッティ・バーンズ、サム・デッカー、シヴィ・マカイルークくらい。お世辞にもチャンピオンシップを狙えるロースターとは言えない。
  さらに、在籍6シーズン目でチーム最古参となったパスカル・シアカムにはトレードの噂が付きまとっており、その去就に注目が集まっているというのが現状だ。

 シアカムの代理人を務めるトッド・ラマザーは8月下旬、『SiriusXM NBA Radio』へ出演した際に「彼はトロントを愛している。それにチャンピオンシップも勝ち取ったんだ。我々にとって、そう(チームを出たいと)思うことはないし、その思いは変わらない」とトレードの噂を一蹴。9月16日にはシアカム本人が米紙『The New York Times』へ口を開いた。

「僕が(トレードの噂に)苦しんでいることは確かだ。自分のことについてネガティブな話も飛び交っているからね。僕からすればおかしな話さ。僕は本来、本当にポジティブな人間なんだから」

 2016年のドラフト全体27位でラプターズに入団したカメルーン出身のフォワードは、当初はGリーグでも経験を積みながら、着実に主力へと成長を遂げてきた。19年にはMIP(最優秀躍進選手賞)に選ばれ、プロ入り3年でNBAチャンピオンにもなった。

 キャリア5年目となった昨季は平均21.4点、7.2リバウンドをマーク。一昨季(22.9点、7.3リバウンド)からわずかにダウンしたものの、アシスト(4.5本)とスティール(1.14本)はいずれも自己最高を残している。
  開幕まで約1か月に迫ったタイミングでインタビューに応じたシアカム。この男を最も悩ませているのは、どうやらチームとのコミュニケーションの部分のようだ。

 シアカムは「僕が感じているのは『我々は君とMAX額の契約を結んだ。だが君はそれに値するのか?』と思われている感じなんだ。僕が苦しんでいるのはそこだと思う。(これまでは)カイルがポイントガードとしていて、僕からすればラプターズ史上最高の選手と常にいたんだ。正直なところ、『ここは僕のチームだ』と感じたことは一度もない」とこぼしている。

 今季のラプターズでキャリア10年以上の選手はドラギッチのみ。このベテランの去就も微妙なため、シアカムやヴァンブリートら中堅組がチームを引っ張っていかなければならない。

 首脳陣としては、トレーニングキャンプで選手たちを観察し、誰をチームの舵取り役に任命するか決める算段なのかもしれないが、シアカムがチームの中核なのは紛れもない事実。互いに意思の疎通を図って、すっきりとした状態で開幕を迎えたいところだ。

文●秋山裕之(フリーライター)