「今、我々は“ワークカルチャー”を確立しようとしている。これまで努力をしていなかったというわけではない。皆が一生懸命にやってきたが、意識を高めることが大事なんだ。成功への近道なんてないからね」

 ワシントン・ウィザーズのウェス・アンセルドJr.HC(ヘッドコーチ)がそう話したのは現地時間9月24日(日本時間25日、日付は以下同)。この日行なわれた会見でチームの現状について前述のようにコメントし、さらにこう続けている。

「NBAでは休みがほとんどない。そのなかで1日1日をどう生かせるか、今何をすればシーズンに向けて向上していけるか。このチームにはいくつか課題点があるが、そのひとつがディフェンス。これも意識の問題なんだ。そしてそれは1人で解決できる問題ではない。一人ひとりが、日々ディフェンスに対する強い意識を持たないといけない。そういう基盤が構築されれば、効果が出てくると思う」
  昨季のウィザーズは、3シーズンぶりにプレーオフ進出を果たした。だが結果はフィラデルフィア・セブンティシクサーズの前に1勝4敗でファーストラウンド敗退。その後チームはラッセル・ウエストブルックという強烈なリーダーシップを持つベテランを、5チーム間の大型トレードでロサンゼルス・レイカーズへと放出した。

 その見返りとして、ウィザーズはレイカーズからカイル・クーズマ、ケンテイビアス・コールドウェル・ポープ、モントレズ・ハレルを獲得。さらにブルックリン・ネッツからスペンサー・ディンウィディー(サイン&トレード)、インディアナ・ペイサーズからアーロン・ホリデーなど、即戦力を複数獲得することに成功した。

 今季の予想スターターは、バックコートにブラッドリー・ビールとディンウィディー、フロントコートはクーズマ、八村塁、ダニエル・ガーフォードというラインナップとなっている。ただ、指揮官は「(ポジション争いについては)決まっていない部分が多い。このチームの選手たちは競争心が激しくて層も厚い。駒が多すぎて悩み事だと思うかもしれないけど、私はそれを利点だと見ている。今後、難しい決断を迫られることもあるだろう。でもチームにとって何がベストなのかを優先する。コート上で最もかみ合う組み合わせを優先していきたい」と話している。
  NBA3シーズン目を迎える八村としても、決して先発の座が約束されているわけではない。パワーフォワードにはクーズマとハレルがスライドでき、ベンチにはダービス・ベルターンスとデニ・アブディヤも控えているほか、今年1月に左ヒザ前十字靭帯を部分断裂したトーマス・ブライアントが戦列復帰となれば、フロントコートの出番争いはますます激化することだろう。

 もっとも、アンセルドJr.HCは、八村が今夏に行なわれた東京オリンピックで、日本代表として戦い抜いた経験を高く評価している。

「(ルイはNBA)2年目終了後に、日本を代表してオリンピックで戦った。彼にとっては貴重な経験だった。オフェンスの中心選手であり、チームのリーダーでもあったと思う。この経験は彼の成長を加速させただろう。彼の成長は、我々にももの凄く良い影響をもたらすと思う。先程、このチームの層の厚さと選択肢の多さについて触れたが、(ルイも)経験豊富だ。まだ若いが、(NBAで)これまでたくさんの出場経験がある。大きな舞台にも立ったしね。オリンピックの経験は実際に肌で感じてみないと得られないものなんだ。この先、その時に得た経験が彼自身にもチームにも生かされるだろう」
  ウィザーズは28日からトレーニングキャンプがスタート。10月5日からプレシーズン4試合をこなし、20日にトロント・ラプターズとのレギュラーシーズン開幕戦を迎える。

「我々の仕事は戦うこと。どのようにして毎試合で勝利する形を作れるか。私はこのチームならそれができると信じている。選手たちはキャンプ開始に向けて準備万端だ。オフの間にしっかりと取り組んできた。トレーニングキャンプ、プレシーズン、そしてレギュラーシーズン開始に向けて、良いスタートが切れればと思っている」

 新陳代謝の激しいNBAでは「トレードはビジネス」と言われるほど選手の移籍が激しく、ウィザーズも例外ではない。八村がルーキーとして入団した2019−20シーズンから今もチームに残っているのは、今やビールとベルターンス、ブライアントの3人だけだ。

 指揮官やチームメイトたちが大きく変わった今季は、八村にとってキャリアにおけるターニングポイントとなるかもしれない。しかし、そんな新シーズンに向けて飛躍が期待されるなか、チームから「八村が個人的理由でトレーニングキャンプ開始に遅れる」ことが発表された。日本の至宝にとって不安な今季の幕開けとなったが、この苦境を乗り越え出番を掴み取ってほしいところだ。

文●秋山裕之(フリーライター)

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