今季のF1はマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とルイス・ハミルトン(メルセデス)が熾烈なチャンピオンシップ争いを展開した。

 同ポイントで迎えた最終戦のアブダビ・グランプリでは、残り5周までハミルトンが盤石の走りでトップを堅守。ところがセーフティーカー(SC)の導入によって状況が一変。ファイナルラップでのレース再開後にフェルスタッペンがトップに躍り出るという劇的な形で、新たな王者が誕生した。

 ニコラス・ラティフィのクラッシュが起こるまで、ハミルトンに10秒以上の差をつけられ、希望はほぼ潰えていたレッドブル。ヘルムート・マルコ顧問はこの時のことを振り返り、「奇跡が必要であり、心の内ではSCの導入を必要としていた」と正直な気持ちを明かしている(モータースポーツ専門メディア『MOTORSPORT-TOTAL.COM』より)。

 そして奇跡は本当に起こり、マルコ顧問は「これは、我々にとってのイースターであり、クリスマスであり、明らかに世紀の大チャンスだった」として、これを活かすべく「すぐにマックスのタイヤをソフトに変えさせた」という。

 しかし、この間も彼らは「震え続けていた」(同メディア)。なぜなら、このままラティフィの車の処理に時間がかかれば、再開の前にレースが終了して、ステイアウトしたハミルトンの優勝が決まってしまうからだ。
  しばらくして撤去作業は終わった。だが今度はハミルトンとフェルスタッペンの間にいた5台の周回遅れの車が邪魔であり、これらがSCを抜いて隊列の後ろにつくよう、レッドブルはレースディレクターのマイケル・マシにも訴えた。その結果レース再開の直前に、これが受け入れられ、優勝を懸けたラストバトルを妨げる最後の要素も取り除かれた。

「スポーツの観点からも、マシは正しい判断を下したと思う。作業が終わってマーシャルがコースから退いた後であれば、周回遅れの車をSCの前に行かせない理由は何もなかった。これにより、我々が利益を得、メルセデスが敗者とならざるを得なかったのは事実だ。メルセデスが怒り、失望したこと、そして(マシの判定に対する)反応やその後の動きも理解できる」
  このように見解を示したマルコ顧問だが、レッドブルに「幸運」をもたらすクラッシュを起こしたのがラティフィで良かったと捉えているようだ。

 彼の所属するウィリアムズはメルセデスからパワーユニットを供給されているチームであり、すなわち「レッドブル側のドライバー」(マルコ代表)ではないため、人々に疑惑を抱かせることがなかったということだ(ラティフィ自身はSNSなどで誹謗中傷や脅迫を受ける羽目となったが……)。

 オランダの元F1ドライバーで、現在はコメンテーターも務めるロバート・ドーンボスは「クラッシュしたのが(レッドブル・グループの)アルファタウリなら、何か企みがあったと思うだろう」と指摘。2008年にはルノー所属のネルソン・ピケ・ジュニアがチームの指示でクラッシュを起こしたと告白した「クラッシュゲート」が起き、F1界を大きく揺るがしたこともある。
  この件について、マルコ顧問は「もしユウキ(角田裕毅)がクラッシュしていたなら、ちょっとした事件が起きていただろう」とコメント。「レッドブル側のドライバー」という意味で日本人ドライバーの名前を出したわけだが、あえて「アルファタウリのドライバー」という言い方で濁さなかった。これは今季、幾度もクラッシュを起こした角田に対し、その都度、苦言を呈してきた78歳の御大らしい言動である、と言うのは穿った見方過ぎるだろうか?

構成●THE DIGEST編集部

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