「一昨日の段階で『アクセルが決められなかったら、もうオリンピックまで頑張るしかないのかな』って思いながらやっていました」

 12月23日、全日本選手権の公式練習で4回転アクセルに挑んだ後、羽生はそう振り返っている。2019年グランプリファイナル、2021年世界国別対抗戦の公式練習でも羽生は4回転アクセルに挑んでいるが、この時は4回転アクセルの形になるジャンプを跳んで降りており、成功に向けて前進していることを感じさせた。さらにフリー本番でも、回転不足で両足着氷ではあったものの、4回転アクセルを跳ぶ姿をはっきりとみせている。

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 今、羽生が競技を続けているのは、4回転アクセルを跳ぶためだといってもいい。全日本の時点で羽生は、完璧ではなくとも「形として4Aにはなっている」と自身が認める通りのジャンプを跳んでいる。

「本当は自分の中で『これくらいのアクセルでもいいんじゃないか』っていう思いもあります」
 「疲れたな」と羽生が感じるのは、誰も跳んだことがない4回転アクセルへの道程が、あまりにも険しいからだ。

 今季出場を予定していたNHK杯(11月)の前に、羽生は4回転アクセルを跳んで立てるようになっていた。しかし立てるようになった数日後に、右足首を負傷する。羽生の説明によれば、フリーを通して滑る練習で、4回転アクセルに続いて4回転サルコウを跳んだ際エッジが氷にとられたのだという。怪我をした直接的な原因は4回転サルコウだが、単発のサルコウであれば問題はなく、その前に4回転アクセルを跳んでいたことが影響していると羽生は分析している。「右足関節靭帯損傷」と診断された右足首の怪我のため、羽生はNHK杯に続きロシア杯も欠場を余儀なくされ、今季初戦として迎えたのがこの全日本だった。

 右足首の負傷には平昌五輪シーズンから苦しめられてきており、「右足の捻挫に関しては知り尽くしている」と羽生は言う。加圧や超音波、低周波など様々に手を尽くして治療を施し、全日本では「右足首に不安はないか」と問われ「そうですね」と答えるまでに回復していた。
  ただ、右足首負傷後の精神的なストレスは大きく、食道炎になり発熱。1か月もの間、練習できなかったという。

「その時点で『止めちゃおうかな』って思った」と羽生は振り返る。

「『まあ、ここまでこられたし。(4回転アクセルの)形にはなったし、こけなくなったしな』と思って」

 周囲の期待と裏腹に、羽生は限界を感じていた。

「(4回転アクセルを)誰も跳んだことないんですよ。誰もできる気がしないって言ってるんですよ。できるようにするまでの過程って、本当にひたすら暗闇を歩いてるだけなんですよね。だから毎回『頭打って、脳震とうで倒れて死んじゃうんじゃないか』って思いながら、練習していました」
  27歳になった羽生は、時間とも戦っている。

「正直自分の中でも結構焦っていて、早く跳ばないと体どんどん衰えていくのは分かりますし。自分が設定した期限より明らかに遅れているので、『なんでこんなに跳べないんだろう』って苦しさはある」

 それでも羽生は、前に進むことを選んだ。4回転アクセルは「僕だけのジャンプじゃない」と感じているからだ。

「跳ぶのは僕なんですけど、結局言い出したのも僕なんですけど、でも皆さんが僕にしかできないって言って下さるのであれば、それを全うするのが僕の使命なのかなって思いました」

「悩んで苦しんで、『せっかくここまできたんだったら、やっぱ降りたい』って言っている自分がいるんで。むちゃくちゃ皆さんに迷惑かけるかもしれないですけど、もうちょっとだけ頑張ります」

 誰にも理解できないレベルで苦闘する羽生は、その成果である4回転アクセルを、北京五輪で世界に見せようとしている。

取材・文●沢田聡子

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