連日、熱戦が繰り広げられているNBAプレーオフ。

 その中で、今シーズン初めてヘッドコーチ(HC)に就任したルーキー指揮官、ボストン・セルティックスのイーメイ・ユドカ、ニューオリンズ・ペリカンズのウィリー・グリーンの2人も、ペリカンズはここまで1勝2敗、セルティックスは3戦全勝と奮闘している。

 奇遇なことに、両者とも、1回戦で対戦しているのは、昨年アシスタントコーチとして在籍していた球団だ。ユドカはスティーブ・ナッシュ、グリーンはモンティ・ウィリアムズと、アシスタント時代に腹心を務めた指揮官を相手に戦っている。

 ネッツに対して先手をとっているユドカは、「同じ選手がたくさんいるわけだから、このメンバーのコーチをしていたことは大きなアドバンテージだ」と認めている。

「(ジェームズ)ハーデンはいなくなったが、(ケビン)デュラントと(カイリー)アービングはこのチームを象徴する存在だ。私は彼らのメンタリティやゲームへの取り組み方を知っている。だから、彼らがどのように機能するか、どのようなディフェンスで封じられてきたかを見てきたというのはメリットだ。それからスティーブや選手たちが打つ手について察しがつく点でもね」

 アービングも「イーメイは俺たちのことをよく分かっている。彼は宝箱の中に、自分の選手たちに渡す鍵をいくつか持っていると思う」と、ユドカにとってネッツでの経験は大きなプラスだと語っている。
  ユドカは昨季、球団のゼネラルマネージャー(GM)に就任した前任者のブラッド・スティーブンスが、後任として自らリクルートした人物だ。

 チャンシー・ビラップス、ジェイソン・キッドら何人か候補に挙がっていた中で、ユドカの存在は際立っていたと、スティーブンスはユドカ就任時にコメントしている。

「彼(ユドカ)は信頼できる人物で、タフでありながら非常に温かい。そして素晴らしい経験を携えている。選手としてのキャリアに加え、長年(サンアントニオ)スパーズで、そして過去2年間はフィリー(フィラデルフィア・セブンティシクサーズ)とブルックリンで、指導する側として全く異なるものを間近に見てきた。その経歴は実に素晴らしい」

 2012年にスペインのムルシアを最後に選手としてのキャリアを終えたユドカが、同年、指導者としての第一歩を踏み出したのが、現役時代にも3シーズン(2007-09、10-11)所属したスパーズだった。

 そこで師事したのは、NBAで最後に指導を受けた指揮官である名将グレッグ・ポポビッチ。

 彼のもとで7年間アシスタントコーチを務めた間、NBAファイナルを3回経験、そして2014年にはタイトル獲得を味わった。

 ポポビッチは以前、愛弟子について次のように語っている。
 「彼は自信に満ち溢れ、常に自然体だ。そして人々は彼のそんな部分に惹きつけられる。彼は指導者としての基本的な適性があり、彼自身もその能力を知っている。そして選手たちも、それを感じ取るのだ」

 選手時代に共闘した仲間や、アシスタントコーチ時代に指導した選手たちは、「練習熱心で教え上手、根気があってストイックなユドカは、将来NBAのHCとして成功する」、と口を揃えていたという。

 ポートランド・トレイルブレイザーズ時代に彼を指導した現アトランタ・ホークスHCのネイト・マクミランも、「彼を指導していた時は、いつか彼がサイドラインでコーチする側になるだろうと確信していた」と語っていた。

「彼のバスケットボールIQは非常に高い。彼はゲームを理解し、フロアで何が必要かを瞬時に察知し、選手としてチームにそれを提供することができたからね」

 そして、スパーズでユドカを選手として指導し、彼がアシスタントコーチとなった初年度はともにコーチングスタッフとして働いた経験を持つ現ミルウォーキー・バックスのHC、マイク・ブーデンホルツァーも、ユドカを高く評価する1人だ。

「私が知る限り、最もタフで、頭がよく、強い選手の1人だ。もの静かだが、その裏には大いなるタフネスがあった。おそらくセルティックスが求めていたのはそこだろう。高い知性がありながら、同時にタフネスも備えた指導者。そして選手とコミュニケーションがとれて、彼らとつながりを持てる方法を知る人物だ。その点において、彼は素晴らしい手腕を持っているからね」
  もちろん、ユドカの采配だけで成果を上げているわけではなく、元セルティックスのアービングは彼らの善戦は、「チームの継続性」にもあると指摘している。

「このチームは成熟している。シーズンやシリーズを共に過ごし、共にさまざまな戦いを乗り越えてきた仲間だ。彼らは4、5シーズン一緒にやっているからね。その彼らにとっての瞬間がまさに今だ。彼らにチャンスの時が来ているんだ」

 指揮官は新任とはいえ、前任者がGMとしてチームを見守っている。そして中心選手であるマーカス・スマート、ジェイレン・ブラウン、ジェイソン・テイタムは、ユドカがポポビッチのアシスタントを務めた2019年のワールドカップ・アメリカ代表のメンバーだ。

 しかしアシスタントコーチとHCでは、任務も、責任の大きさもまったく異なる。

 すでに熟成されたチームを新米HCが率いるとなれば、なおさら厳しい点もあるはずだが、ブーデンホルツァーが語ったようなユドカのタフネス、知性、そして選手と距離感をとる巧さが機能していることは間違いないだろう。

 対照的にネッツのナッシュは、マイク・ダントーニ(ペリカンズのアドバイザーに就任)とユドカの、2人のアシスタントを失い、得点源のハーデンも去るなど、状況に恵まれていない点もある。

 昨シーズンも両者はプレーオフ1回戦で対戦し、4勝1敗でネッツが勝利した。この昨年を含めた過去3回のプレーオフでの両者の対戦は、いずれもネッツが勝者となっている。

 4度目の対戦となった今プレーオフ、タフな新人HC、ユドカを迎えたセルティックスはシリーズ突破まであと1勝。このまま雪辱を果たせるだろうか。

文●小川由紀子