イチローが2001年のルーキー・イヤーにア・リーグ新人王とMVPをW受賞して以来、メジャーリーグにやって来た日本人野手たちは、米国のメディアやファンから常に期待されてきた。

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 メジャーでは「新人」であるにもかかわらず、彼らはラインアップに毎日その名前が書き込まれるべき存在=「主力選手」として期待され、それぞれの役割を果たしてきた。

 過去には中島裕之(現巨人)や西岡剛のように、マイナーで米国でのキャリアを終えた選手たちもいるが、ドミニカ共和国出身選手の数などと比べると、圧倒的に前例=サンプルが少ない中で、数多くの日本人野手が活躍してきたわけだ。 そのリストには、2009年ワールドシリーズMVPの松井秀喜、2005年、ホワイトソックス88年ぶりの同シリーズ優勝の立役者となった井口資仁、控え外野手としてカーディナルスで2度の同シリーズ優勝を支えた田口壮、それぞれチームのリーグ優勝に貢献した松井稼頭央(07年ロッキーズ)、岩村明憲(08年レイズ)、青木宣親(14年ロイヤルズ)らが名を連ねている。

 08年、カブス地区優勝に貢献した福留孝介(現中日)や、02年、絶対的なレギュラー選手というわけではなったが、ジャイアンツの一員として日本人野手初のワールドシリーズ出場を果たした新庄剛志、控え選手ながらチームメイトや地元メディアから驚くほど愛され、15年のブルージェイズの地区優勝を陰で支えた川﨑宗則らも、それぞれ違った状況の中で存在感を発揮してきた。

 ただし、そういった選手たちですら、その成績が契約内容にマッチしなくなると、地元メディアから「小言」を言われてきたのも事実だ。 11年の夏、シカゴの番記者からこんなことを言われた。

「コウスケがいい外野手なのは間違いない。だが、今年の彼の年俸は1400万ドルだ。メジャーリーグではかなりの高額で、今の彼の成績に見合っていない」

「コウスケ」とは福留のことで、同年7月下旬にカブスからインディアンスにトレードされたことを受けての発言だった。

 07年オフに福留がカブスと交わした4年総額4800万ドルの契約は、1年目が700万ドル、2年目から1250万ドル、1400万ドル、1450万ドルと変動する内容だった。

 つまり、1年目は「期待の新人」で良かったのだが、2年目以降は「年俸1400万ドル」に見合う「主力選手」の活躍を期待されていたわけだ。

 年俸と成績に明確な基準など存在しないが、11年の年俸1450万ドル前後の選手の主な顔ぶれを見れば、福留にどんな期待がかけられていたのかがよく分かる。
 1473万ドル デレク・ジーター(ヤンキース)     
1460万ドル アラミス・ラミレス(カブス)      
1451万ドル アルバート・プホルス(カーディナルス)  
1450万ドル 福留孝介(カブス)           
1425万ドル デビッド・ライト(メッツ)      
1400万ドル エイドリアン・ベルトレ―(レンジャーズ)
1400万ドル マーク・バーリー(ホワイトソックス)
1400万ドル JD.ドリュー(レッドソックス)
1400万ドル チッパー・ジョーンズ(ブレーブス)
1400万ドル ティム・リンスカム(ジャイアンツ)
1250万ドル デビッド・オティーズ(レッドソックス)
(万ドル以下は四捨五入)

 ちなみにこの年のMLB最高年俸はアレックス・ロドリゲス(ヤンキース)の3200万ドルで、カブスでは06年に40−40(46本塁打&41盗塁)を達成した元広島のアルフォンソ・ソリアーノの1900万ドルが最高だった。日本人最高はイチロー(マリナーズ)の1800万ドルで、MLB全体では18位に相当する。

 福留は前年の10年、メジャー自己最多の13本塁打を放ち、打率/出塁率/長打率が.263/.371/.439でOPS.809を残している。11年も、前半戦は.273/.374/.369でOPSも.742とまずまずの成績だった。 だが、その年俸から彼の獲得の是非が地元紙で取り沙汰され、その過程で当時全盛期でMVPも獲得していたプーホルスや、後の殿堂入り選手チッパー・ジョーンズと比較されてしまった。

「もしもコウスケが年俸1400万ドルじゃなくて500万ドルだったら、我々メディアやファンもあれこれ言うことはなかったと思うんだよ」

 件の番記者がそう言った時、我々がよく言う「メジャー挑戦」という言葉を考え直した。メジャーリーグにおける「新人」でありながら、「主力選手」の活躍を期待されている日本人野手にとっては、「メジャー移籍」と呼ぶ方がしっくり来るからだ。

 過去の日本人野手の誰もが活躍したわけではない事実を考えると、「高額契約を交わしたんだから活躍して当たり前」と考えるのは、新しくメジャーに来る日本人野手にとってはフェアではないとも言える。そしてそんな状況は、事実として今もまったく変わっていない。 今年はカブスの鈴木誠也が、かつてのイチローのように、米国メディアやファンから常に期待される存在となっている。

 4月18日のレイズ戦で初めて4番で出場した鈴木は、4回の左前打でデビュー戦から9試合連続安打を記録した。それは07年の岩村と並ぶ日本人最長記録でもあった。

 この日の試合前には、ナ・リーグ週間MVP(4月11〜17日)に選出されたことが発表されていた。日本人のルーキーが4月に同賞に選出されたのは18年の大谷以来だそうで、鈴木はその間、12日のパイレーツ戦で2本塁打を放つなど6試合で打率.412、3本塁打、5打点と際立った活躍を見せていた。 鈴木が打つか、打たないかでカブス打線がまったく違う破壊力になることもあって、地元メディアはすでに「1年目からオールスターに選出されるのではないか?」と書いているし、日本のメディアも「18年の大谷以来の新人王になるのではないか?」と期待する。

 だが、鈴木の「メジャー挑戦」ならぬ「メジャー移籍」はまだ始まったばかりだ。焦ってはならない。そもそも、鈴木を獲得したカブスのジェド・ホイヤー編成総責任者が入団会見の席でこう言っている。

「(メジャーリーグへの適応に)「その過程が痛みを伴うものだとしても、心構えはできている」 事実、日本人野手では史上最高額の5年8500万ドルという契約も、今季は福留の1年目と同じ700万ドルに過ぎず、「主力選手」級となるのは2年目の1700万ドルからだ。3年目の2000万ドル最高額(4、5年目は1800万ドル)となっていて、これは3年目の24年に大活躍してくれればいいというメッセージでもある。

 今はただ、山あり谷ありの長いシーズンを、彼が一歩一歩、確かな歩みを経て乗り越えていく姿を、目に焼き付けておくだけでいいのではないかと思う。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO