テクノロジーの波は、野球界にも確実に押し寄せている。

 最近、野球中継などで「回転数」や「打球速度」、「打球角度」といったワードを頻繁に耳にするようになった。つい5年ほど前までほとんど使われることのなかったこれらの指標は、『トラックマン』『ホークアイ』、そして『ラプソード』といったトラッキング機器によって計測・数値化されるようになったものだ。

 回転数や打球速度、打球角度などの数値化が可能になったことで、どんな握りで投げれば空振りを奪えるのか、どんなスウィングが長打を生むのかも明らかになった。それによって、アメリカでは選手の指導法も一変した。そしてその流れは、緩やかに、そして着実に日本にも波及しようとしている。

 いずれも高性能のトラッキング機器という点は共通しているが、トラックマンやホークアイが球場設置型の装置であるのに対し、ラプソードは持ち運びが可能で、より“個人”に特化したデバイスという特徴がある。そのため、個人でラプソードの機器を所有する選手も少なくない。

 数年前には、ダルビッシュ有(現パドレス)が自身のYouTubeチャンネルでラプソードを使った投球練習動画を投稿して話題になった。昨年のドラフトで日本ハムに1位入団した達孝太も、天理高時代に購入して自身の投球に生かしている。2021年パ・リーグ本塁打王の“ラオウ”杉本裕太郎(オリックス)や清宮幸太郎(日本ハム)らを指導する根鈴雄次氏も、ラプソードを活用している一人だ。
  ラプソードは、打者は「HITTING 2.0」、投手は「PITCHING 2.0」という機器を使う。打者なら1回のスウィングで打球速度や打球角度、回転数、回転方向、推定飛距離、打球方向、投手なら1球で球速、回転数、回転効率、回転軸、縦と横の変化量、リリースポイントなど、さまざまなデータを計測できる。

 ラプソードのような機器はあくまでプロ向けと考える人が多いかもしれない。しかし、「中学生や高校生も含め、練習時間が限られるアマチュア選手にこそ触れてほしい」と語るのは、『株式会社Rapsodo Japan(以下ラプソード社)』のプロダクトマーケティングマネージャー・花城健太さんだ。

「進学校や公立校が名門校と渡り合うためには、効率的な練習や正しい方向への努力が必要です。ラプソードはそのために役立つはずです」と花城さんは続ける。
 「正しい方向への練習」とは何か。簡単に言えば、自分が目指す姿、目標とする到達点と直結する練習だ。 
 
 最近、「バレル」という言葉をよく耳にするようになった。これは簡単に言うと「長打になる可能性が最も高い打球」のことで、具体的には打球速度と打球角度の組み合わせから導き出される。打球速度99マイル(約158.7キロ)なら26〜30度、100マイル(約161.9キロ)なら24.7〜31.7度という具合だ。

 すでに言及したように、ラプソードを使えば打球速度や打球角度などを瞬時に測定できるので、現在の自分のスウィングが「バレル」に適したものなのかを即座に確認できる。一方で、例えば打球速度が遅い→筋量不足→ウェイト・トレーニング量を増やす、というように練習プログラムを組むこともできる。“効率的”にゴールへと向かうナビゲーションとしての機能を果たしてくれるというわけだ。

 また、花城さんは『ラプソード』を使った練習の効果の一つに「自分の特徴を知ること」を挙げる。
  本塁打や長打になる最適な打球角度は25〜35度前後とされる一方、12〜15度はライナー性のヒットが出やすいことがデータ上明らかになっている。スラッガーになりたいと思っていた選手が、自分の打球性質を知って安打製造機を目指すこともできる。

 自分の特徴、長所を踏まえた上で「目指すべき姿」を定める助けにもなるのだ。アメリカで生まれた機器ということで「ラプソード=スラッガーになるための道具」というイメージもあるが、決してそうではない。

 さらに、花城さんはラプソードの意外な活用法も教えてくれた。「故障の予防」だ。

 日々、ラプソードを使用して打球や投球を計測すると、膨大なデータが蓄積されていく。数値の推移が一目で分かるということは、同時に異変を察知できることも意味する。ある時を境に急に数値が下がるようなことがあれば、身体の異変=怪我の可能性を疑うこともできる。はっきりした自覚症状が出る前に、大きな故障を予防する効果もあるのだ。
  アメリカではメジャー全30球団はもちろん、1200以上の大学やトレーニング施設でラプソードが導入されている。さらに、MLBドラフトの候補生500人を対象としたスカウティング・レポートでも、打球速度ランキングやバレル率ランキングが発表されるほど浸透している。

 今後、日本でラプソードを普及させていく上でカギになるのは、やはり指導者の理解だろう。アメリカ流の理論や最新機器を使った指導法に抵抗を覚える指導者も少なくない中、どのように理解を広げていくのか。

 花城さんは「まだどうしても現場の方から拒否反応を感じることはあります」と言いつつ、ラプソード社のスタンスは選手や指導者への「寄り添い」であると強調する。

「故障の予防もそうですが、多くの選手を抱えているチームで、全員の特徴を理解するのはどうしても限界があります。ラプソードを使うことで選手に何が足りないのかを把握できますし、それぞれに合った練習ができるようになります」。
  5月11〜13日、東京ビッグサイトで開催された『Japan Sports Week2022』に出展したラプソード社のブースには、こんな垂れ幕が掲げられていた。

「#計測は力になる」

 計測することで、自分の現在地が分かる。自分の特徴を知ることができる。自分のパフォーマンスを向上させるためのヒントをつかめる。そして、故障の可能性もいち早くキャッチできる――。

「練習は嘘をつかないって言葉があるけど、頭を使って練習しないと普通に嘘つくよ。」

 あまりにも有名なダルビッシュのこの言葉は2010年、まだラプソードが球界に導入される前に生まれたものだ。だが、ラプソードの“本質”をこれ以上ないほど端的に言い表している。

取材・構成●新井裕貴(SLUGGER編集部)