2021年に開催された東京五輪で、バレーボール日本女子代表「火の鳥NIPPON」は25年ぶりに予選ラウンド敗退を喫した。2012年ロンドン大会で日本女子を銅メダルに導き、ミドルブロッカー(MB)を1枚にして攻撃力を増やす「MB1」や、ポジションにとらわれずどこからも攻撃が出来る「ハイブリッド6」など、新戦術を編み出し世界と戦ってきた眞鍋政義監督は、2024年パリ大会までの極めて短い期間に、どのような戦略でこの難局に挑むのか。新チームは、6月1日午後8時(現地時間)から米国ルイジアナ州、シュリーブポート・ボージャーシティで開かれる国際大会「ネーションズリーグ(VNL)」に臨む。

「パリ五輪まで2年6カ月。非常に短いスパンだが、パリでメダルを獲得するためには、日本は5つの目標を達成しなければならない」。5月6日に東京都内で開かれた女子代表チームの記者会見で、眞鍋監督はパリ五輪に向け日本の武器となる5つの目標設定を発表した。

 4月10日から「味の素ナショナルトレーニングセンター」で国内合宿を始めて約1カ月。昨年10月22日の監督就任会見や、今年3月31日の代表チーム登録メンバー39人が決定した際の会見では、「強化プランや目標設定は東京五輪を振り返り、現状把握をしてから」と繰り返してきた指揮官が、初めて明かした具体的な目標だった。

 設定された目標は以下の5つだ。
1:サーブで、各大会で日本人選手が個人ランキング10位以内に6人が入る
2:サーブレシーブで、各大会で日本人選手が個人ランキング10位以内に3人が入る
3:ディグ&アシストで、世界一になる
4:失点の少なさで、世界一になる
5:団結力

 2番目までが個人の目標で、3番目以下はチームの目標だ。
 「まず東京五輪を振り返り、評価する。数値やデータを、時間をかけて取り組む。一番大事なことは現状把握。これを間違えると目標設定が狂う。客観的なところから振り返り、世界と比較して、何がよくて何が悪かったのか。日本のストロングポイントをつかんで、そこから日本のオリジナルを考えたい」と、これまで繰り返してきた眞鍋監督。5つの目標は、その分析から導き出した答えだ。

 1番目にサーブを挙げたことについて眞鍋監督は、「ブレイクで一番初めにスタートするのがサーブ。日本のブロックは低いので、サーブが非常に大事になる。データを見ても、サーブが世界に比べて劣る。戦術的なサーブが必要」と説明した。

 目立たないが、最も深い意味が込められているのは、3つ目の「ディグ&アシスト」の「アシスト」だ。ディグは、サーブレシーブ(レセプション)を除くレシーブのことで、多くはスパイクレシーブのことを指すが、「アシスト」はバレーでは聞き慣れない言葉でもある。

「普通、バレーの用語では、『つなぎ』と言うが、あえてアシストという言葉を使った。サッカーでいうアシスト。アシストしても3本目が決まらなければポイントにならない」と眞鍋監督。

 サッカーでは、いくらよいパスを出しても得点にならなければ、ボールを出した選手に「アシスト」の記録はつかない。具体的に「アシスト」という目標を設定することで、つなぐという意識を明確にさせるとともに、アタッカーにはこれまで以上に責任を持って得点することを求める。
  そして「世界の中で平均身長が低い日本が、団結力なしには目標を達成することは出来ない。目に見えない力が必要になってくる。アシストの意識に加え、打つ人が責任を持つことが、5番目の団結力につながるんです」と明かす。

 東京五輪で、日本女子はサーブ、サーブレシーブともにトップ10入りした選手はおらず、高い目標設定だが、眞鍋監督は「サーブは、命。サーブレシーブでは、女子で優勝した米国が、10位以内に3人(1、4、5位)も入っている」とサーブレシーブの重要性を説く。

 データ分析をもとに、打つコースやボールの回転数、変化を加える戦術的なサーブや、レシーブも正確にセッターに返す精度を高めたり、オーバーハンドパスの技術を磨くことで、活路を開くことが出来るだろう。ハードルは高いが、裏を返せばサーブとサーブレシーブでトップ10入りをしないことには、「身長が低い日本が、世界と同じことをしても勝てない。日本のオリジナルを追求したい」という眞鍋戦略は絵にかいた餅になりかねない。

 男子バレーからのヒントもあった。東京五輪の解説で見た優勝のフランスと、3位アルゼンチンの戦いぶりだ。「両チームとも、身長は低いがアタックのシャット率は低く、サーブミスも少ない。失点も少なく結束力も高い。女子バレーのヒントがたくさんあり、日本のお手本になった。小よく大を制す、です」と振り返る。
  コートサイドで、iPadを片手に選手に指示を出す姿で、お茶の間でもお馴染みとなった眞鍋監督。日本のデータバレーの先駆者とも言われ、今回も、アナリストとしてロンドン五輪でチームに貢献した渡部啓太さんが、監督付特命情報戦略ディレクターとしてチームを支える。

 データ分析から弱点を補い、長所を伸ばす戦術を生み出すのが眞鍋バレー。パリ五輪に向け「MB1」や「ハイブリッド6」を発展させた戦術が予想されるが、眞鍋監督は「今回はMB1をする必要が、ないんです」と意外なことを言う。

「ミドルブロッカーの攻撃力が、これまでの代表は低くて点数が取れなかったのですが、今のミドルはいい選手が揃っているんですよ」。

 VNL登録メンバー25人のうち、MBはベテランの島村春世(NEC)ら7人。このうち、小川愛里奈(東レ)はV1リーグレギュラーラウンドでアタック決定率3位で、日本人選手トップの49.5%。山田二千華(NEC)は全体で6位、日本人選手で2位の46.7%だ。

 ブロック決定本数でも、横田真未(デンソー)は全体の9位(日本人選手3位)、山田は全体で12位(同4位)の数字を残している。184センチの山田は東京五輪メンバーだが出場機会は少なく、小川(178センチ)、横田(177センチ)は代表初選出。しかし、V1リーグでの実績をもとに眞鍋監督の期待は高く、この3人は島村とともに予選第1週のアメリカ大会と第2週のフィリピン大会の遠征メンバーに選ばれた。
  MBを生かすためにも急務なのが、チームの司令塔・セッターの育成。今年度の登録メンバー39人中、セッターは7人で、VNL登録は宮下遥(岡山)、松井珠己(デンソー)、関菜々巳(東レ)、柴田真果(JT)の4人。

 宮下以外に4大大会に出場経験はないが、2度目の代表登録メンバー選出の松井は速い攻撃とMBを生かすトスが持ち味で、「前回より自信を持って参加している。テンポのよい攻撃と強気のプレーでチームに貢献したい」と語り、関も「MB攻撃を世界に通用する武器に磨き、多彩なトスワークでファンをワクワクさせるプレーを見せたい」と意気込む。

 東京五輪で主セッターを務めた籾井あき(JT)は、今回のVNLメンバーから漏れたが、眞鍋監督は9月の世界選手権に向け今後、起用する意向を持っており、高いレベルでの競争を促す考えだ。

 5つの目標に加え、もうひとつのキーワードが、「オールジャパン体制」だ。その中でも眞鍋監督の秘策のひとつが、ロンドン五輪銅メダルメンバーに代表の練習への参加や助言を求める「アントラージュ from ロンドン」で、メダルを取るためにどの様な準備をして、どう臨んだのかを当時のメンバーに語ってもらう。

「チームの弱点は、国際大会の経験が少ないこと。目標達成のためには、我々スタッフだけの力では無理。私がアドバイスをするより、成功体験を現役選手に直接、アドバイスした方が当然、選手のモチベーションが上がります」と狙いを話す。
  5月20日までサンアリーナせんだい(鹿児島県薩摩川内市)で行なわれた第3回国内合宿には、当時のセッター竹下佳江さん、ウイングスパイカーの迫田さおりさん、リベロの佐野優子さんらが練習に参加した。当時のメンバーと眞鍋監督は、LINEグループで繋がっており、アントラージュのメンバーには五輪開幕直前に肉親の病気で緊急帰国した石田瑞穂(現デンソー・アドバイザリースタッフ)も含まれている。

 帰国する石田にチームメートがお守りを贈り、迫田は石田のユニホームを重ね着していたという結束力が当時のメンバーにはあった。メダルメンバーではない石田を、今もメンバーとして迎えるあたりは、団結力を大切にする眞鍋監督らしいところ。

 チームの監督付戦略アドバイザーも務める竹下さんには、ロンドン五輪以降、固定出来なかったセッターへの指導も委ねる。眞鍋監督は「(代表セッターは)トスの安定と視野が広いこと。世界の一流はディフェンスがいい」といい、「彼女の鋭い観察力で早くセッターを固定したい」と期待を込める。

 また、「女子バレーを知り尽くしている」と眞鍋監督が評する、V1女子岡山シーガルズの河本昭義監督ら、指導者の助言や指導も求める考えだ。そこには、すべての力を結集して「日本女子バレーの緊急事態」(眞鍋監督)を乗り切る「オールジャパン体制」の考えがある。
  眞鍋監督のパリ五輪に向けての取り組みについて、ロンドン五輪でコーチとして支え、その後、日本女子の年代別代表監督を務めU-19アジア選手権で金メダルに導いた安保澄さん(現ヴィクトリーナ姫路GM)は、「就任直後は五里霧中、暗中模索状態だったと思うが、メダルを取るためにはどのような道を進めばいいのか、具体的に示している。当時も『サーブミスは1セット、何本以内』など数値目標も明確だった。今回もマネジメントをしっかりやって一致団結し、メダルを取るチーム作りが出来ているのではないか」と期待を寄せる。

 そして「成功するために、考えてやれることはすべてやる、というのが眞鍋さんのスタイル」とも語る安保さん。ロンドン五輪の前にはミュンヘン五輪で金メダルを獲得した男子代表の松平康隆監督(前日本バレーボール協会名誉会長)に、五輪に臨む心構えを話してもらったり、国際審判としてアテネ五輪決勝で主審を務めた伊藤博之さんをスタッフが訪ね、上位進出したチームの試合中の気持ちの切り替え方などを教えてもらったりするなど、精神面の情報収集も怠りなかったという。

 チームスローガンは「Breakthrough」。「世界への突破口を開こう」(眞鍋監督)との思いが込められている。
  眞鍋監督は、「我々の目標は、パリ五輪でメダルに挑戦すること。目標達成のために、来年の五輪世界予選(3会場で各8チーム出場し各2チームが出場権を獲得)でオリンピックの出場権を獲得したい」と意気込む。

 これまでの世界最終予選(OQT)がなくなり、試合ごとのポイントが世界ランキングに反映され、2024年のVNL予選ラウンド終了時点での世界ランクで出場権を得るのが最終手段となる。

 1試合の重要性が高まる中、「毎試合、毎試合、勝利を追求していきたい」。選手、監督として最もプレッシャーのかかるOQTを計4度、経験し、メダルに導いた眞鍋監督の新たな挑戦が、いよいよ始まる。

文●北野正樹(フリーライター)
【プロフィール】きたの・まさき/1955年生まれ。2020年11月まで一般紙でプロ野球や高校野球、バレーボールなどを担当。南海が球団譲渡を決断する「譲渡3条件」や柳田将洋のサントリー復帰などを先行報道した。関西運動記者クラブ会友。