中日の根尾昂の投手転向が決まった。

 ここまで一軍で2試合に登板した根尾はともに無失点に抑えている。しかし、いずれもあくまで敗戦処理としてのもの。立浪和義監督は将来的には先発として使いたい意向を明言しているが、今回の措置については「遊撃手として育てるべき」「中途半端」といった批判も少なくない。

 果たして、根尾の起用法はどうあるべきなのだろうか。これまでのキャリアを客観的に振り返り、そこから見える可能性について考えてみたい。

 まず打撃からだ。根尾はここまで一軍で通算259打席に立ち、打率.172、出塁率.249、長打率.220。客観的に見て、一軍の投手相手には通用していない成績と言える。
  根尾が通用していないのは一軍だけではない。二軍でも通算510打席で打率.220、出塁率.292、長打率.327。二軍で好成績を残して一軍に昇格したというよりは、将来性を見込んで使ってもらっていた感は否めない。現状は打力不足がレギュラー獲得のネックになっている。

 守備はどうだろうか。根尾の本職は遊撃手。150キロを計時する強肩をはじめとした高い身体能力で、守備でも大きな貢献を果たすショートストップになることが期待された。ただ、プロでの遊撃守備はそこまで評価が高いわけではない。立浪監督の「ショートの守備は京田(陽太)に勝てない」というコメントも報道されている。

 実際、同ポジションのリーグ平均選手と比べ、どれだけ失点を防いだかを表すUZR(Ultimate Zone Rating)という指標で守備力を確認してみると、根尾は二軍で592.1イニング遊撃を守り、UZRが3.2。プラスではあるが、二軍の平均的な遊撃手と比較しても大幅に優れているというほどではない。一軍で毎シーズン優秀な値を記録し続ける京田と比べて劣るという評価は、データ的に見ても妥当なものだ。 一方で根尾は2年目以降、外野での起用が増えている。中日は外野が弱点ということもあり、その穴を埋める働きを期待されてのものだろう。前述した通り、打撃成績は振るわなかったものの、守備面については素晴らしかった。

 2021年は一軍で左翼を262イニング、中堅を5イニング、右翼を142イニング守り、左翼でのUZRは6.7、右翼では2.6を記録。リーグ随一のペースで守備貢献を積み上げていた。

▼根尾昂の2021年外野守備成績(一軍)
左翼 262イニング    UZR6.7
中堅   5イニング    UZR0.1
右翼 142イニング    UZR2.6

「外野手・根尾」が特に本領を発揮するのが相手走者の進塁阻止だ。自慢の強肩を生かし、昨季はシーズンの半分にも満たない外野出場で4つの補殺を記録。しかもそのうち3つはカットマンなしの直接送球でアウトにしている。UZRで高い評価を得たのもこの送球による部分が大きい。このため、内野よりも外野に適性があると考えるのも自然だ。
  また、チーム状況も変わってきている。18年のドラフト指名時、根尾は将来、遊撃手としてチームの中心になることが期待されていた。しかし、その2年後のドラフトで同じく高卒遊撃手の土田龍空が入団。

 土田はルーキーイヤーの昨季、二軍で打率.240、出塁率.310、長打率.343を記録、守備でも遊撃468イニングでUZR7.4と好成績をマークした。特に守備面については、根尾を凌ぐプレーを見せている。有望株・土田の存在により、根尾の遊撃起用にこだわる必要が小さくなっているのも事実だ。

 果たして、根尾は今後どのポジションで起用されるべきなのだろうか。ここで考えてみたいのが、根尾が守れるポジションの多さだ。

 入団当初の構想にあった遊撃はそつなく守れる。二軍では二塁、三塁を守る機会もあった。ゆえに内野はどのポジションも一定のレベルにはありそうだ。加えて、素晴らしい進塁抑止能力がすでに証明されている外野。そしてさらに投手として登板し、それなりの投球を見せる。これほどマルチな選手が過去にいただろうか。
  MLBではかつてレイズなどでプレーしたベン・ゾブリストがユーティリティ・プレーヤーの地位を大きく押し上げた。

 ゾブリストは09年に打率.297、出塁率.405、長打率.543と超一流の打撃成績を記録。これほどの数字を残しながら、投手と捕手を除く全ポジションで出場する汎用性の高さでもチームに貢献した。

 ゾブリスト以降、MLBでは多くのポジションを守れる選手の価値が認識され、今では守備のポジション別表彰でユーティリティを別枠で評価するほどにその地位は上がってきている。

 そして根尾はこのゾブリストのようになり得る、NPBでも数少ない存在だ。MLBで異彩を放った名手のようにほとんどの野手ポジションが守れるうえ、投手までこなすことができる、まさにスーパーユーティリティだ。こうした選手がいれば、チームはベンチメンバーの運用が非常に楽になる。非常事態の多くは、根尾のポジション変更でカバーすることができるからだ。
  もちろんユーティリティとはいえ、現状の打力で常時出場は難しいだろう。最優先課題は間違いなく打撃力の向上だ。ただ、それが達成されれば、根尾はチームに弱点が生まれる度、その弱点を塞ぐ、あるいは強みに変えることができる選手になる。

 今季は外野手登録に変更、内野手再転向、投手挑戦と目まぐるしいシーズンを送っている根尾。その方針を中途半端と見る向きもある。しかしその「中途半端」さこそが、ほかの選手にはない根尾昂という男の最大の武器でもある。その意味では、投手専念もまた根尾の良さを殺す結果になってしまう気もするが果たして。

※データは2022年6月12日終了時点
文●DELTA(@Deltagraphs/https://deltagraphs.co.jp/)

【著者プロフィール】
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』の運営、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート5』(水曜社刊)が4月6日に発売。