今年のNBAドラフト1位指名権はオーランド・マジックが獲得。過去、マジックは3回1位指名権を得たことがあり、1992年のシャキール・オニールと2004年のドワイト・ハワードはいずれも大黒柱へと成長し、チームをNBAファイナルまで導いた。

 だが、残るもう1回――1993年に1位指名したクリス・ウェバーは、その直後にトレードされてマジックのユニフォームを着ることはなかった。ウェバーの代わりにマジックへ加入したのは、同年の3位指名だったアンファニー・ハーダウェイ。”ペニー”のニックネームで親しまれた彼は、人気と実力を兼ね備えたシャックの最高のパートナーとして、1990年代後半のNBAで最も輝いていた選手のひとりだった。
 ■メンフィスのスラム街から来た、本人公認の“マジック2世”

 ハーダウェイについては、その名前にまつわる誤解がいろいろとあったので、ここで整理しておこう。まず本名の“アンファニー”は、「“アンソニー”のスペル間違い」との説もあったようだが、実際は母親の高校時代の友人の名前から取ったもの。ニックネームの“ペニー”の由来も、幸運の1ベニーコインから来たものなど様々に言われていたが、彼を育てた祖母ルイーズの“プリティ(可愛い)” の発音が“ペニー“と聞こえたというのが真相である。また、彼と同時期に活躍したオールスター選手で、同姓のティム・ハーダウェイ(元ゴールデンステイト・ウォリアーズほか)とは何の縁戚関係もない。

 ハーダウェイが育ったのは、テネシー州メンフィス市でも特に治安の悪い地域だった。プレーグラウンドでバスケットボールをしていても、銃を持った連中が周囲をうろついているような、恐ろしい環境だった。

 それでも彼が悪の道へ入りこむことがなかったのは、ルイーズが愛情を持って厳しく彼をしつけたおかげだった。

「夜遅くまで遊び歩いている仲間たちがうらやましいこともあった。でも、今では祖母が厳しく育ててくれたことに感謝している」
  メンフィス州大(現メンフィス大)へ進学後も、強盗に襲われ銃で足を撃たれた経験がある。彼が懸命にバスケットボールに打ち込んだのは、暴力や麻薬が日常化していた、苛酷な環境から抜け出すためでもあった。

 幸い、ハーダウェイには天賦の才能があった。201cmの長身でありながら自由自在にボールを操り、コートビジョンやパスセンスも一級品。当時の大型PG(ポイントガード)の常として「マジック・ジョンソンの再来」と言われるようになった。

 1992年には大学選抜チームの一員としてドリームチームと練習試合で対戦。当のジョンソンからも「彼のプレーは、自分自身を鏡で見ているようだ」と称賛の言葉を受けた。3年生時には平均22.8点、8.5リバウンド、6.4アシストと文句のつけようのない成績を残し、プロ入りの機は熟した。
 ■シャックとの黄金コンビで2年目にはファイナル進出

 1993年のドラフトではウォリアーズがハーダウェイを3位で指名し、前述の通りウェバーを指名したマジックへトレードされた。マジックは前年シャックを獲得しており、ビッグマンを2人揃えるよりも、シャックを生かせる優れたPGを欲しがっていたのだ。

 実は、ハーダウェイの獲得をマジック首脳陣に働きかけたのは、ほかならぬシャックだった。彼ら2人は同い年で、高校時代には選抜チームで一緒にプレー。その時は友人関係となるまでは至らなかったが、シャックがプロ入りし、ハーダウェイが大学最終年の時に『ブルー・チップス』という映画で共演する機会があった。

 大学バスケットボール選手をテーマにしたこの映画の撮影中に2人は意気投合。ハーダウェイ自身もドラフト前夜に、マジックの選手たちを交えたトライアウトで実力を披露し、「リバウンド、パス、得点と何でもできる。彼がいればこの先10年、PGは要らない」と、ジョン・ガブリエルGM(ゼネラルマネージャー)に指名を決意させた。

 1年目は正PGのスコット・スカイルズがいたため、ハーダウェイはSG(シューティングガード)としてプレーする時間も多かったが、平均16.0点、6.6アシストと上々の成績をマーク。ウェバーを放出したことに不満で、当初はハーダウェイにブーイングを浴びせたオーランドのファンも、すっかり彼のプレーに魅せられていた。
  スカイルズがワシントン・ブレッツ(現ウィザーズ)ヘトレードされ、本来のPGに戻った2年目は平均20.9点、7.2アシストと成績を伸ばす。オールスターにファン投票で選出されただけでなく、レギュラーシーズン終了後にはオールNBA1stチームの栄誉に浴した。

 シャック、ハーダウェイに加えてニック・アンダーソンやデニス・スコットらのアウトサイドシューター、そしてシカゴ・ブルズ3連覇時のパワーフォワードだったホーレス・グラントが加わった1994−95シーズンのマジックは、57勝をあげイースト最高勝率を記録する。
  プレーオフでもマイケル・ジョーダンが復帰したばかりのブルズ、そしてインディアナ・ペイサーズを倒し、NBAファイナルに進出。アキーム・オラジュワン擁するヒューストン・ロケッツに4連敗を喫したものの、ハーダウェイはファイナル4試合で平均25.5点、8アシストと大舞台でも存分に実力を発揮した。(後編に続く)

文●出野哲也
※『ダンクシュート』2009年9月号原稿に加筆・修正

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