“メイウェザー狂騒曲”が再び日本にやってきた。

 フロイド・メイウェザー(アメリカ)は、9月25日に『超RIZIN』さいたまスーパーアリーナ大会に出場する。対戦相手は日本屈指の人気選手である朝倉未来(トライフォース赤坂)。ルールはボクシングルールに準じるスタンディングバウト。3分3ラウンドで、契約体重なしのエキシビションだ。

 メイウェザーの日本でのファイトは、2018年の大晦日以来。RIZINのリングで、那須川天心を今回同様のルール(契約体重はあり)で倒している。ただし、この時もエキシビションのため、公式記録には残ってはいない。

 前回も、そして今回も、本当に不思議なシチュエーションである。

 メイウェザーのプロボクシングレコードは50戦50勝。無敗のまま世界5階級も制覇した。無論、史上初の快挙だ。そして現役引退後もエキシビションでリングに上がり、ファイトマネーを稼ぎ続けている。現役のボクサーではないから、ボクシングのリングでなくてもいい。ボクサーではない那須川や未来とも拳を交える。それがメイウェザーの「エンターテイメント」なのだ。45歳になった元世界王者は言う。

「私はキャリアを終えた後、エキシビションで楽しんでいる」
  ボクシングの公式戦でもなければ、ボクシングのリングでもない。相手もキックボクサーやMMAファイター(総合格闘家)ばかり。アメリカではボクシングのプロライセンスを持つ人気YouTuberのローガン・ポールとも2021年6月にエキシビションを敢行し、話題を提供した。

 会見では舌戦も展開する。先月30日にハワイで行なった未来との2度目の会見には、RIZIN参戦中の元K-1ファイター・平本蓮を連なって登場。未来とは常にSNSで煽り合っている平本がメイウェザーの「通訳」を買って出て、未来をこき下ろした(本当にメイウェザーがそう言っていたのかは分からないが……)。

 あらゆる面で、コアで、真面目なファンが望む“厳粛な真剣勝負”とは違っている。ゆえにメイウェザーのエキシビション路線に批判的な者もいるし、とりわけ今回の未来戦は“茶番”とも言われている。那須川は少なくとも打撃の専門家だったが、未来はMMAファイター。今はオールラウンダーに近い。ボクシングをやらせたら誰がどう見てもメイウェザー有利。本来はやる意味のない、話題性だけの闘い。だから茶番だと言うわけだ。

 確かにその通りだ。しかし、である。メイウェザーvs.朝倉未来を見たいか見たくないかと言われたら、やはり見たい。メイウェザーの圧勝、あるいはフルラウンド闘って内容で圧倒という結果になる可能性は高いかもしれないが、そこで何が起きるのかを確かめたい。そういう気持ちを持つ人間が数多くいるからこそ、大会のチケットは売れている。そして、こうして原稿のオファーも来る。これだけ話題になっているというのは、そこにある“何か”を人々が感じ取っているからに違いない。

 では、その“何か”とはどんなものだろう。筆者は“幻想”だと考えている。 言うまでもなく、メイウェザーは超一流のアスリートだった。現在45歳、引退して実力は衰えているとはいえ、それでも今なお一級品だと言われている。対する未来はと言えば、“不良出身”だ。10代の日々はケンカ三昧。ついには少年院送りとなると、そこから『THE OUTSIDER』で頭抜けた強さを見せ、RIZINでも勝利を重ねてトップ選手になった。対戦相手を研究して“丸裸”にしてしまう戦略眼も優れている。

 そんな未来なら、つまり“競技”とはまた別の軸を持つ男なら、メイウェザーをたじろがせることができるのではないか。そういう“幻想”があるのだ。

 もし、未来のパンチが当たって、メイウェザーが少しでもよろめくようなことがあれば世界が驚く。そのために未来はボクシングルールの練習を重ねてきた。とはいっても、ボクサーを招いてのスパーリングはしていないそうだ。どんな選手とやっても“仮想メイウェザー”にはならず、他でもない本人もボクシングをやる気はないからだ。

「メイウェザーのパンチは無視。きれいに闘おうとしたら相手の土俵になってしまうので。フィジカルを使って、もらいながらでもどんどん(距離を)詰めていこうと」
  カウンターを狙って取れるような相手ではない。それは未来も分かっている。だからこそ被弾しながらでも距離を詰め、乱戦、混戦に持ち込もうというのだ。そこで少年時代に打ち込んだ空手が役に立つとも考えている。MMAのパンチ、空手の突きはボクシングとは別物。間合いや軌道が違う。

 もし、未来がメイウェザーの経験値にない攻撃ができたら――。それがつまり“幻想”だ。可能性は決して高くないだろう。しかし“万が一”を引き寄せられるのではないかというのも、未来が持つ幻想だ。だからこそ、彼はメイウェザーの相手に選ばれたのである。

 メイウェザーが現実を見せつけるか、未来の幻想が爆発するか。「どうせメイウェザーの圧勝だろ」と冷めた目で見るよりも「未来なら何かやってくれるんじゃないか」と思ったほうが楽しいではないか。

取材・文●橋本宗洋

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