15年ぶりに岡田彰布監督の就任が決定した阪神。10月20日のドラフト会議は支配下と育成合わせて7人を指名し、そのうち4人が高校生と将来性を重視したものとなった。

 その顔触れのなかで、早々に1軍の戦力になるとして期待されているのが、1位の森下翔太(中央大)だ。今回は彼の高校と大学でのプレーぶりから阪神の救世主となる可能性と課題を探ってみたい。

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 森下の名が世間で初めて大きく報じられたのは、東海大相模に入学した2016年である。1年夏の神奈川大会の初戦でいきなり名門の4番を任せられると、その秋からは完全に中軸に定着。甲子園出場は2年春の1回だけだったが、3年生時には夏の神奈川大会5試合で5割を超える打率を残すなど関東でも屈指の強打者として評判となった。もし、高校3年生時にプロを志望したとしても森下は、支配下で指名されていた可能性は高かった。
  結局、彼はプロ志望届を提出することなく中央大へ進学。大学でも1年春からレギュラーに定着すると打率.304、2本塁打と活躍しいきなりベストナインを受賞。リーグ戦後に行なわれた日米大学野球では田中幹也(亜細亜大→中日6位)とともに1年生ながら大学日本代表にも選ばれている。ちなみにこの時の代表候補合宿で測定した野手のスイングスピードでは多くの上級生を抑えてトップの数字をマークしていた。

 順調なスタートを切った森下の大学生活。だが、すべてが順風満帆でドラフト1位候補になったわけではない。1年春から3年秋までのリーグ戦の成績を並べてみると以下のようになっている。

1年春:14試合 15安打 2本塁打 9打点 1盗塁 打率.306
1年秋:10試合 7安打 0本塁打 2打点 0盗塁 打率.241
2年春:新型コロナウイルス感染拡大の影響でリーグ戦中止
2年秋:8試合 5安打 1本塁打 3打点 0盗塁 打率.179
3年春:12試合 5安打 2本塁打 6打点 1盗塁 打率.128
3年秋:10試合 7安打 0本塁打 0打点 1盗塁 打率.219

 1年秋以降の4シーズンで打率1割台は2度もあり、最高でも.241と1年春の活躍が嘘のようにそのバットから快音が聞かれなくなったのだ。 3年春には開幕戦の対立正大戦でいきなり2本のホームランを放ち、いよいよ才能の開花かと思わせたが、その後の11試合で生まれたヒットは3本のみ。打率は1割台前半と極度の不振に陥った。

 当時の森下は全身を使ったフルスイングは迫力十分で、芯で捉えた打球の飛距離は圧倒的なものがあった。だが一方で、ボール球になる変化球に空振りを繰り返す姿が強く印象に残っている。3年終了時点で上位候補として考えていた球団は少なかったはずだ。

 そんな森下がそのポテンシャルを再び発揮し始めたのは今春からだった。開幕週でチームが連敗を喫したなかで2試合連続ホームランを放つと、その後もヒットと長打を量産し、打率.311、3本塁打、11打点で1年春以来となるベストナインにも輝いたのである。

 とくに成長が感じられたのが打球方向だ。3本のホームランはレフト、右中間、センターと見事に3方向へ打ち分けたものであり、ボールをしっかり呼び込めるようになったことがよく表れている。7月に大学日本代表として挑んだオープン戦で吉村貢司郎(東芝→ヤクルト1位)から死球を受けて右手首を骨折し、秋のリーグ戦ではその影響からやや成績を落としたが、放った10安打のうち5本が長打(二塁打4本、本塁打1本)と持ち味をしっかり発揮。これが大きなアピールになったのは間違いない。
  ちなみに4年間のリーグ戦通算打率は.240と高くはない。だが、3年時までが.220だったの対して、4年時の2シーズンの合計は.282と大きく改善している点はプロで生きていくうえでもプラス要因だ。また、3年秋までの5シーズンで3盗塁だったのが、4年時は春秋連続で3盗塁ずつをマークしており、走塁に対する意識が高くなっている点も評価できる。

 しかし、だからと言って、いきなりプロで1年目からレギュラーとして活躍できるかと言われれば、その可能性は高くはない。同じ中央大の2年先輩で、1年目から大活躍を見せた牧秀悟(DeNA)の大学3年春から4年秋の3シーズン(4年春は新型コロナウイルス感染拡大の影響でリーグ戦中止)の合計成績を見てみると、打率は.370と圧倒的なものがあり、44安打中20安打が長打となっている。当時の牧と比べると打撃の確実性に関してはかなりの差があるというのが現状だ。

 また、タイプ的に近いのは牧ではなく、プロでチームメイトとなる佐藤輝明の方が近いと言える。そんな佐藤もリーグこそ違うものの、大学時代は3割近い通算打率を残しており、それを考えても森下の確実性の低さは大きな課題になると見て間違いない。 ただ、森下にとって最大の追い風となりそうなのが、他でもない岡田“新監督”の存在である。

 岡田監督は前政権時にも就任1年目からルーキーだった鳥谷敬(←早稲田大学)を積極的に起用し、2年目以降は完全なレギュラーにまで昇華させた。就任決定以降の発言からも、右の強打者を育てたいという意欲が強く感じられるだけに、森下を1軍で抜擢する可能性は十分に考えられる。このルーキーを除いて若手の、それも右の強打者タイプは井上広大しかいないという阪神のチーム事情も大きな幸運と言えるだろう。
  仮に積極的に起用された際に重要になるのが、まずは打率よりも長打力をアピールするという点であり、その点で「最高のお手本」となるのが佐藤ではないだろうか。佐藤も1年目はリーグ最多となる173三振を喫しながら24本塁打を放っている。これと同じ数字を目指すのは簡単ではないが、100試合程度に出場して2桁本塁打を記録できれば、まずは第1段階クリアと見ていい。

 ちなみに阪神の日本人選手の右打者が最後に30本塁打を記録したのは岡田監督自身であり(1985年に35本塁打)、現在の主砲である大山悠輔も自己最多は2020年の28本塁打である。そういう意味でも森下への注目度や期待値は高い。長所を伸ばして甲子園で大きく成長してもらいたい。

文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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