現地時間11月5日に行なわれたワールドシリーズ第6戦に4対1で勝利し、アストロズが世界一を決めた直後、フィールド上でダスティ・ベイカー監督とジャスティン・バーランダーが長い間抱き合っていた。2日前の第5戦で、バーランダーはメジャー17年目にして初めてワールドシリーズでの白星を挙げた。そしてベイカーは監督生活25年目、73歳にして初めて世界一の栄誉に浴したのだ。

 ベイカーはすでに名将としての地位を築いている。5球団(ジャイアンツ、カブス、レッズ、ナショナルズ、そしてアストロズ)をプレーオフに導いた史上唯一の監督だ。データ分析に精通しているわけではないが、人心掌握術に優れた人格者として知られ、ジャイアンツ時代には独善的な性格のひねくれ者だったバリー・ボンズですらも巧みに操縦した。

 だが、ワールドチャンピオンにはなかなか縁がなかった。ジャイアンツ時代の02年は、エンジェルスとのワールドシリーズで3勝2敗と王手をかけ、第6戦も7回表まで5対0とリードしながらそこかから逆転負け。第7戦も落として王座を逃した。

 カブスを率いた03年も、マーク・プライア―&ケリー・ウッドの若手エースコンビを擁してリーグ優先寸前まで行きながらそこから逆転負け。その後もポストシーズンではなかなか勝てず、“悲運の名将”扱いされるようになった。

 ナショナルズの監督を退き、もう引退かと思われた19年オフ、思わぬ転機がやってくる。過去のサイン盗みスキャンダルが発覚し、信頼が地に落ちた直後のアストロズの指揮官に選ばれたのだ。

 就任会見でベイカーは「選手たちは(不正行為を)認め、謝罪した。時間はかかるだろうが、我々はこのネガティブな事件からポジティブなものを得ることはできるはずだ」と、批判にさらされ続けるアストロズの面々を、温かい言葉で鼓舞した。

 そしてベイカーはこの時、「これは私にとってゴールを達成する最後のチャンスなんだ」とも述べていた。名将と呼ばれながらも世界一経験がなかったことには、ベイカー本人も忸怩たる思いがあったのだろう。不正に手を染めていたとはいえ、すでにリーグ屈指の強豪だったアストロズは、最後のピースを目指すのに十分なチームでもあった。
  就任1年目の20年は、短縮シーズンで29勝31敗と負け越しながらも、枠の多さに助けられてプレーオフ出場。リーグ優勝決定シリーズまで進出して手応えを得た。そして、昨年はリーグ優勝を達成したが、ワールドシリーズでは2勝4敗でブレーブスに敗退。そして今年、5月に史上12人目の監督通算2000勝に到達すると、秋の大舞台でようやく悲願を成就させた。

 ワールドシリーズ優勝が決まった瞬間、ベンチにいたアストロズのコーチ陣やチームスタッフは一斉にダスティに群がった。ミニッツメイド・パークを埋め尽くした大観衆の中にも、「ダスティを世界一に」と書かれたボードを持ったファンが数多くいた。誰からも愛され、まさに「火中の栗を拾う」ように窮地のアストロズを救うべく乗り出したダスティに、野球の神様が微笑んだ瞬間だった。

「最高の気分だよ。(中略)このチームは最高のメンバーが揃っていた。スプリング・トレーニングで絶対に優勝すると言ってくれたんだ!」

 トロフィーが授与された直後のインタビューで「ようやく世界一になりましたね」と水を向けられたベイカーは、選手たちへの感謝を述べた。”球界屈指の人格者”であるベイカーらしい言葉だった。

 ベイカーとアストロズの契約は、今季が最終年だ。だが、ベイカーは世界一を手土産に勇退するつもりはないという。自身にとって最大の目標を達成した今でも、ベイカーは次を見据えている。来季も引き続きアストロズの指揮を執ることになれば、今度は「世界一連覇」を選手たちと一丸となって目指すだろう。

構成●SLUGGER編集部

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