秋の牝馬中長距離路線の頂点を決めるエリザベス女王杯(GⅠ、阪神・芝2200m)が11月13日に行なわれる。今年は久々に外国馬も参戦し、馬券の人気も割れが予想されている。その勢力地図を見ていこう。

 やはり、最初に触れるべきなのは一昨年の三冠牝馬、デアリングタクト(牝5歳/栗東・杉山晴紀厩舎)に対する評価だろう。

 無敗の5連勝で秋華賞(GⅠ、京都・芝2000m)を制したのち、ジャパンカップ(GⅠ、東京・芝2400m)でアーモンドアイ、コントレイルに続く3着と健闘。昨年はステップとして挑んだ金鯱賞(GⅡ、中京・芝2000m)を2着とした後は、香港に遠征。クイーン・エリザベスⅡ世カップ(GⅠ、シャティン・芝2000m)に臨み、ラヴズオンリーユー、グローリーヴェイズに次ぐ3着に敗れた。このあと右前肢に繋靱帯炎を発症していたことが判明し、約1年間の休養を余儀なくされている。

 復帰戦となった今春のヴィクトリアマイル(GⅠ、東京・芝1600m)は直線で伸び切れず6着に敗戦。続く宝塚記念(GⅠ、阪神・芝2200m)は、よく追い込んだものの勝ったタイトルホルダーから4馬身離された3着に終わった。そして、秋シーズン初戦のオールカマー(GⅡ、中山・芝2200m)を6着として、エリザベス女王杯に臨むことになった。
  振り返ると、秋華賞を勝ってから2年以上、計6戦も勝ち星から遠ざかっているデアリングタクト。特に繋靱帯炎からの復帰後を見ると、宝塚記念の3着があるものの、このレースとて勝ち馬から4馬身、タイムにして0秒6差も付けられては、”勝ち負け”に絡んだとは言い難い。

 6着に敗れた前走のオールカマーでも”三冠牝馬らしさ”が見られず、追い切りでの上昇気配も薄いことから、そのポテンシャルは理解しても、復活劇を望むのも難しい。今回は良くて連下(△)、または思い切って「切る」という決断も一考の意味があるだろう。 主軸に据えたいのが秋華賞の1・2着馬であるスタニングローズ、ナミュールという高野友和厩舎(栗東)の3歳2頭である。

 スタニングローズは馬券圏内から外れたのが、昨年8月の新潟2歳ステークス(GⅢ、新潟・芝1600m)と11月のデイリー杯2歳ステークス(GⅡ、阪神・芝1600m)の5着だけで、他のレースではいずれも好位差しの安定したレースぶりで、【5・2・2・2】という抜群の成績を残している。

 こうしたレースセンスの良さは、直線が短い阪神の内回りコースにぴったりで、勝利に一番近い存在であるだけでなく、仮に敗れたとしても馬券圏内から消えるケースは、大きなトラブルでもない限り、なかなか考えづらい。印を打つなら「本命」ということになろう。

 オークス(GⅠ、東京・芝2400m)が3着、秋華賞が2着と、GⅠでの着順を上げてきているナミュールも全成績が【3・1・1・2】と、展開に左右されがちな追い込み脚質に似合わぬ安定ぶりが目立つ。ちなみにスタートで後手を踏んで10着に敗れた桜花賞(GⅠ、阪神・芝1600m)も、タイム差では勝ち馬と0秒3差と、大きく負けているわけではない。阪神の内回りコースは秋華賞で経験しており、引き続き横山武史騎手が手綱をとるのも心強い点。展開次第では”頭”まである対抗馬としてみたい。
  他の有力馬は横一線と見えるが、そのなかでオッズ的に妙味があるのは、ウインマイティー(牝5歳/栗東・五十嵐忠男厩舎)。今週から短期免許で来日するライアン・ムーア騎手を鞍上に確保したアンドヴァラナウト(牝4歳/栗東・池添学厩舎)と、良血の開花を感じさせるジェラルディーナ(牝4歳/栗東・斉藤崇史厩舎)だ。

 ウインマイティーは一昨年のオークスで3着した実力馬で、その後は長く不調をかこっていたが、今年6月のマーメイドステークス(GⅢ、阪神・芝2000m)で重賞初制覇。秋初戦の京都大賞典(GⅡ、阪神・芝2400m)では牡馬相手に3着と、上々のステップを踏んで目標に臨んできた。本馬とは今回で7回目のコンビを組み、いぶし銀の騎乗でしばしば波乱の立役者となる和田竜二騎手の手綱さばきにも期待したい。

 アンドヴァラナウトは、昨年のローズステークス(GⅡ、中京・芝2000m)を勝ち、秋華賞では僅差の3着に食い込んでいる。特筆すべきは阪神競馬場での実績で【1・3・1・0】。勝利こそ一つのみだが、全て馬券圏内に絡んでいる堅実さは見逃せない。ムーア騎手がこの馬からどんな能力を引き出して見せるかという”プラスアルファ”込みで、楽しみな存在となった。

 言わずと知れた、2012年の三冠牝馬にしてGⅠレース7勝という名牝中の名牝・ジェンティルドンナを母に持つのがジェラルディーナだ。GⅠを6勝した父モーリスと合わせれば”13冠ベビー”となる超良血馬だ。

 出世には時間がかかったが、9月末のオールカマーでは先行策からの鮮やかな差し切りでデアリングタクトや牡馬勢を下して重賞初制覇を成し遂げた。直近3走がすべて重賞で2着、3着、1着と、急激に力を付けているのは歴然。こちらも短期免許で来日したクリスチャン・デムーロ騎手の腕を借りて、さらなる上積みを見込めば、一気のGⅠタイトル奪取もあながち夢とばかりは言えなくなるだろう。 その他で、押さえておきたい馬も多数いる。

 ピンハイ(牝3歳/栗東・田中克典厩舎)は、川田将雅騎手に乗り替わった西宮ステークス(3勝クラス、阪神・芝1800m)を完勝して勢いは十分。イズジョーノキセキ(牝5歳/栗東・石坂公一厩舎)は、人気薄だった前走の府中牝馬ステークス(GⅡ、東京・芝1800m)を後方一気の追い込みで制した。あの末脚は要警戒だろう。牡馬相手に重賞2勝を挙げているウインマリリン(牝5歳/美浦・手塚貴久厩舎)も地力は侮れず、この3頭らを押さえで挙げておく。

 そして、英・愛オークス馬のスノーフェアリーが衝撃的な連覇(2010・11年)を果たして以来、実に11年ぶりの参戦となる海外調教馬で、今年の愛オークス(GⅠ、カラ・芝12ハロン=約2414m)の勝ち馬であるマジカルラグーン(牝3歳/愛/J・ハリントン厩舎)に触れないわけにはいくまい。
  マジカルラグーンは、キング・ジョージ6世&クイーン・エリザベスステークスなど欧州GⅠを3勝し、引退後は日本で種牡馬入りしたノヴェリスト(父モンズーン)の半妹。父はガリレオで、こちらも英・愛ダービーやキング・ジョージを制した世界的名馬だ。ガリレオは引退後、フランケル(14戦14勝。うちGⅠ10勝)という“怪物”を輩出したチャンピオンサイアーで、血統背景は申し分ない。

 ただし、外国馬を評価する際に必ずテーマとなる「日本のスピード馬場」への適性に関しては、やはり未知数という他ないだろう。一般的にガリレオ産駒はスタミナ型と言われることが多いが、海外調教馬には日本での競馬で一気にタイムを詰めてくる馬が少なくないからだ。

 例えばスノーフェアリーが初めてエリザベス女王杯を制した2010年11月。走破タイムは2分12秒5だったが、同年6月の英オークス(芝12ハロン6ヤード=約2420m、良)を制したときのタイムは2分35秒7と、両レースの間には比較しても意味がない程の質の違いがある。むしろ、馬場の軽重を問わず勝利を挙げた能力と、環境適応力の高さに感嘆するしかない。

 陣営はそれなりの馬場適性や勝算を見込んだ上で日本に遠征してきているだろうし、その点を汲んで「押さえ」の評価を献上しておく。

文●三好達彦

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