11月13日、秋の牝馬中長距離戦線のトップを決めるエリザベス女王杯(GⅠ、阪神・芝2200m)が行なわれ、単勝4番人気のジェラルディーナ(牝4歳/栗東・斉藤崇史厩舎)が大外から差し切って優勝。2着は5番人気のウインマリリン(牝5歳/美浦・手塚貴久厩舎)と、12番人気のライラック(牝3歳/美浦・相沢郁厩舎)が同着となった。

 1番人気の三冠牝馬デアリングタクト(牝5歳/栗東・杉山晴紀厩舎)は6着に敗退。また、今年の秋華賞(GⅠ、阪神・芝2000m)で1、2着を占めた高野友和厩舎(栗東)の2騎、2番人気のスタニングローズ(牝3歳)は14着。3番人気のナミュール(牝3歳)は5着に沈んだ。

 予報より長い時間、朝から降り続いた雨がレースの結果を大きく左右した。第3レース(2歳・未勝利、芝1400m)では「良」だった馬場状態が、第4レース(2歳・未勝利、芝1600m)には「稍重」になり、さらに第8レース(3歳上2勝クラス・芝2200m)からは「重」と発表された。

 その結果、馬場の内外でかなりのトラックバイアスが生じることになる。具体的に言うと、それまでは芝が傷んでいたものの、なかなか”止まらなかった”インコース。特に、内ラチから3〜4頭分までのコンディションが一気に悪化し、逆に芝が生え揃った外目を通る馬が伸びる、いわゆる「外差し有利」の馬場に変化したのである。
  ゲートが開くと、内の2番枠から飛び出したローザノワール(牝6歳/栗東・西園正都厩舎)が先頭を奪い、アイルランドから参戦した外国馬マジカルラグーン(牝3歳/J・ハリントン厩舎)が2番手に付ける。その後ろからウインキートス(牝5歳/美浦・宗像義忠厩舎)とウインマイティー(牝5歳/栗東・五十嵐忠男厩舎)が追走。ウインマリリンやスタニングローズは先団の好位置をキープし、デアリングタクトとナミュールは中団の前目、ジェラルディーナはゲートを”出たなり”で後方の外目を進んだ。

 1000mの通過が1分00秒3という速めのラップを刻みながらレースは進んだが、第3コーナー付近からタフな馬場にスタミナを奪われたマジカルラグーンやウインキートス、ウインマイティーらの鞍上の手が動き始め、後方待機の面々も前との差を詰めながら馬群は直線へと向かった。

 逃げ粘るローザノワールを馬群の中から伸びてきたウインマリリンが交わしにかかる。しかし、その外からマクって豪快な末脚で強襲したのがジェラルディーナ。ウインマリリンを捉え切ると、最後の外目から伸びたライラックをものともせず、1馬身3/4差を付けて快勝。GⅠ初制覇を成し遂げた。 結果を見ると、1着から5着までの馬番は18→13→15→14→11と、すべて2桁番号の外枠に入った馬たち。降り続けた雨の影響によって極端なトラックバイアスが出現していたことが明らかになった。

 ジェラルディーナは、父が16年天皇賞(秋)などGⅠ6勝を記録したモーリス、母が2013・14年ジャパンカップ連覇などGⅠ7勝を挙げたジェンティルドンナ(父ディープインパクト)という超良血。誕生の際には「13冠ベビー」と表現されるほどだった。

 ただし彼女は、能力の高さを感じさせるものの、その反面で気性面の難しさもあって初勝利が3戦目になるなど順調に出世コースに乗ることができず、クラシック戦線には加われなかった。

 母のジェンティルドンナを管理した石坂正調教師(栗東)が定年で引退を迎えたのちは、有馬記念など4つのGⅠを制したクロノジェネシスで知られる斉藤崇史調教師のもとへ転厩。その初戦となった城崎特別(3歳上1勝クラス)では折り合いを欠いて逸走し、勝ち馬から3秒5差で敗れるなど、斉藤調教師はその後の苦心を覚悟したという。 それでも厩舎、育成牧場、ジョッキーの三者が一体となって主に彼女のメンタルの成長をサポートしたことが実を結び、マカオジョッキークラブトロフィー(3歳上1勝クラス)から3連勝を記録してオープン入り。以後は重賞戦線で好レースを続け、今年9月のオールカマー(GⅡ、中山・芝2200m)でデアリングタクトや牡馬の一線級を抑えて重賞初勝利を達成した。

 その勢いを駆って臨んだエリザベス女王杯でのGⅠ戴冠は、まさに「良血開花」と表現すべき鮮やかな勝利だった。体重もデビュー当時の440㎏から470㎏へと成長。心身とも大人になったジェラルディーナに斉藤調教師は、「これからが楽しみ」と期待に胸を膨らませていた。 グレード制導入の1984年以降、史上初めてGⅠでの2着同着となった2頭、ウインマリリンとライラックは、タフな馬場状態を味方に付けて好走を見せた。

 ウインマリリンは一昨年のオークス(GⅠ、東京・芝2400m)でデアリングタクトの2着に入った実力馬。昨年は牡馬に混じって日経賞(GⅡ、中山・芝2500m)とオールカマーを制しており、そのポテンシャルを活かした積極的な競馬で、いったんは先頭に立つ見せ場十分のレースを見せた。

 ライラックは春のクラシックで大敗し、前走の秋華賞も10着だったこともあって12番人気という低評価だったが、馬場のいい外を回って自慢の末脚を爆発させた。タフな馬場も苦にしなかった父オルフェーヴルの仔らしく、「今回のような柔らかい馬場の方が良かった」とミルコ・デムーロ騎手がコメントしたように、予想を超える降雨もライラックに味方したようだ。
  一方、馬場コンディション悪化をモロに受けたのが上位人気馬で、1〜3番人気に推された馬は全て馬券圏内から消えてしまった。

 4番枠から出たデアリングタクトは、直線で伸びかかったものの、好調時の走りには至らず6着止まり。故障を境に走りに迫力を欠いた印象は否めず、往時の力を取り戻す困難さを感じる結果となった。

 秋華賞馬スタニングローズは10番枠と、それほど内目ではなかったが、道中は外から被せられて思うように外へは出せず、「4コーナーで、すでに手応えがなかった」(坂井瑠星騎手)というように、直線はズルズルと後退する一方で惨敗に終わった。馬場適性の差はもちろんだが、秋華賞で激しいレースをした反動もいくらかあったのかもしれない。

 残念だったのは、苦しい展開のなかで5着まで追い込んだナミュール。11番枠から出ると馬群に入って進んだが、「向正面と1コーナー、3〜4コーナーと、3回(他馬に)ぶつけられる不利があった」と横山武史騎手は悔しがる。これからは牡馬相手のレースが増えるだろうが、立て直しての活躍を期待したい1頭となった。

 なお、海外からの参戦となった愛オークス馬マジカルラグーンは果敢に先行したものの、最後の直線ではバテて最下位に沈んだ。馬場の悪化よりも、日本の競馬スタイルへの適性に問題があったのかもしれない。当初はジャパンカップにも参戦する予定だったが、14日、今回の結果を受けて回避を決めた。

文●三好達彦

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