2022年のスポーツ界で印象的な出来事を『THE DIGEST』のヒット記事で振り返る当企画。今回は昨年のカタール・ワールドカップで、話題を呼んだVAR判定を取り上げる。

 カタール大会から新たに半自動オフサイドテクノロジーが登場するなど、サッカーの判定にはますますAIなどの技術が導入されることとなったが、公正さにおいては、まだクリアすべき課題も多く見受けられたシーンがあった。

記事初掲載:2022年12月2日

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 現地時間11月30日に行なわれたカタール・ワールドカップのグループCとDの最終節、2つのVARをめぐる判定が物議を醸すことになった。

 先に行なわれたグループDでは、首位フランスがチュニジア相手に3連勝を狙った一戦で、後半アディショナルタイム、1点ビハインドのフランスはオーレリアン・チュアメニがクロスを入れると、チュニジアのモンタサル・タルビの頭でのクリアが中途半端なクリアになったところをアントワーヌ・グリーズマンがダイレクトで押し込んだ。

【動画】田中碧が執念の逆転弾! VARチェックの末に、スペインを混乱に陥れたゴールをチェック そしてマシュー・コンガー主審は試合を再開、間もなくしてタイムアップの笛を吹いたが、その直後にVARでの検証が行なわれた結果、クロスの際にグリエースマンがオフサイドポジションにおり、またタルビのヘディングは意図したプレーではなかったとの判断によって得点は認められず、試合はオフサイドのところから再開となり、最終的にフランスは伏兵相手に今季初黒星を喫することとなったのである。

 これについてフランスは、プレーの直後ではなく、試合が再開した後にゴールを取り消したことが規定に反するものだとして、FIFAに異議申し立てを行なうとも報じられており、その成り行きが注目されている。

 一方、グループCでは、アルゼンチンがポーランドの一戦で36分、前者の攻撃で左からのクロスに対し、ポーランドのGKヴォイチェフ・シュチェスニーが懸命にパンチングで逃れたが、その勢いで伸ばした腕がリオネル・メッシの顔面に接触。守護神からすれば避けようのないプレーに見えたが、VARの結果、アルゼンチンにPKが与えられた。

 ここでシュチェスニーは、メッシとの11メートルの対決に勝利し、サウジアラビア戦に続いてのPK阻止。自ら与えたPKを防いだのは、1986年メキシコ大会におけるフランス代表のジョエル・バツ以来(キッカーはブラジルのジーコ)ということで、大いに名を上げる結果となったものの、判定についてはあまりに厳しすぎるとして、こちらも議論の対象となっている。
  この同日に巻き起こった、VARによる判定をめぐる論争に対し、今大会これまでにVARが介入した全てのプレーを検証している米国のスポーツ専門チャンネル『ESPN』は、フランスのゴール無効については、試合再開後にVARでオフサイドの確認を行なうことはできないことを指摘した上で、主審とVAR審判の間でのコミュニケーションに問題があった可能性を示唆した。
  一方、アルゼンチンのPKに対しては、「確かにシュチェスニーのグローブはメッシの顔に触れたが、接触は最低限のものだった。経験豊富なダニー・マッケリー主審はVARを拒否していれば誰もがすっきりした気分だっただろう。守備の選手の局面でのプレー(ファウル)については常に議論があるものだが、これは全く重要でないケースだ」と、明らかに不要なものだったと結論付けた。

 W杯でのVAR導入は前回ロシア大会に続くもので、今大会は新たに半自動オフサイドテクノロジーも登場するなど、ますますサッカー界の判定にはAI等の技術が介入することになるが、現時点ではまだ公正さにおいてクリアすべき課題は多いように見える。

 ドイツの国際放送『DW』は、「VARは公平なものではなく、正しく機能していない」と訴えており、前述のメッシのPKについても「アルゼンチン人以外、それがPKだとは誰も思わなかった」と指摘。「オフサイドは測定可能だが、ハンドやファウルはそうではない」とも綴り、「エラーを犯す人間によって操作されている、欠陥のあるシステム」とVARに否定的な姿勢を示した。

 さらに、「VAR を支持する者たちは、これによって重大なエラーが排除され、より合理的な判定が可能になると示唆しているが、ここまでのPKをめぐる判定は混乱を招き、説明も不十分で不公平なものだ。多くの場合で、VARはエラーを排除するのではなく、エラーを生み出している」として、「現場の審判が自分たちで下すよりも良い判定が得られない場合、果たしてVARには何の意味があるのだろうか」と疑問を呈している。

構成●THE DIGEST編集部