バージョンアップした。

 2015、19年に2大会連続でラグビーワールドカップ(W杯)に出場した日本代表の松島幸太朗は、そう実感する。

「身体が大きくなっているのでフィジカルの部分で疲れにくくなっているし、疲れを感じていてもやれる、という(感触)のがある」

 約8年在籍した東京サントリーサンゴリアスへ2季ぶりに復帰したのは22年7月。それまでの2シーズンはASMクレルモン・オーヴェルニュの一員として、フランス・トップ14に挑んだ。

 タフなぶつかり合いの多い欧州で、体重は挑戦時より「6キロ」も増えた。おかげで、昨年12月中旬に開幕した国内リーグワンにあって「フィジカル」での好感触を掴めている。
  1月14日の第4節でサントリーは敵地のノエビアスタジアム神戸に乗り込み、コベルコ神戸スティーラーズと激突した。2018年の旧トップリーグ覇者である老舗チームを39-19で下すまでの間、来月で30歳を迎えるフルバックは骨太の走りを繰り出した。

 前半15分、松島は敵陣中盤の左の狭い区画で突進。南アフリカ代表経験のあるマルセル・クッツェーとぶつかりながら、捕まらずに1歩、2歩と前に出る。続く25分にも、敵陣10メートル線付近の中央あたりで元日本代表のアタアタ・モエアキオラ、南アフリカ出身のJD・シカリングといった、自身より大きなタックラーへ順にクラッシュした。前進し、一度は倒れ込みながらもすぐに起き上がり歩を進めた。

 昨秋の日本代表期間は、松島にとってやや消化不良気味だった。怪我明けで、かつ十分なトレーニングを積めなかったからだ。もっとも、今は古巣の施設で腰を据えてトレーニングを行ない、故障のケアに努められる。おかげでコンディションは右肩上がりで、フランスで得た財産をパフォーマンスに反映させやすくなった。

「身体は(秋の)ジャパンの時に比べて強くなっています。ウエイトも毎日、やれていますし、それがグラウンド(でのパフォーマンス)に出ています。週の前半にしっかり下半身を鍛えて、後半は上半身を。すごく充実はしています」
  特に前半の「下半身」が肝のようだ。スクワットなどで臀部、足を鍛えることで、以前あったハムストリングスの怪我はしづらくなった。かねて「スーパーカー」と謳われた速さ、しなやかさに、”強さ”も付け加えたうえ、戦列を離れるリスクを減らしている。

 さらに注視されるべきは、ラン以外の場面でも特色を発揮していることだ。チーム公式サイトでは身長178センチ、体重87キロの松島は、ナショナルチームではタッチライン際のウイングを主戦場とする。

 ただし、桐蔭学園高校時代から松島は最後尾のフルバックに拘りを持つ。原則的には与えられたポジションで最善を尽くしたいと話すのだが、行く先々でフルバックを任されるための最善も尽くす。そのために目下、足技に関する技術と判断力を高めようとしている。プレーの幅を広げるためにも。

 また、最近では相手の反則で得たペナルティーキックをタッチラインの外へ蹴り出す役目を自ら率先して担うようになった。ときにはそのボールを、あえてインフィールドの穴場に放ち、対戦相手を慌てさせる。その狙いを、松島は次のように力説する。

「裏(のスペース)が空いていたらカオス(混沌)を作れる。ああいうのって、結構ダメージを与えられる」
  現在29歳。松島は今秋のW杯フランス大会で望む結果を得るべく、リーグワンで新境地を切り開いている。日本が誇る快速フルバックは「今年ワールドカップがある。自分の持っているものを全部出し切る気持ちではいます」と9月8日に開幕する大舞台に向けて意気込む。

 また、松島は渡仏中に結婚。2021年大晦日にはインスタグラムで第1子の誕生を報告している。家族を持って国内プロ生活を楽しむのは今回が初めてだ。独身時代との違いを問われると「オフの日の過ごし方は、変わりました。あんまりゴロゴロはできない」と淡々とした口調で笑いを誘う。

 ラガーマンとして大きく進歩しても変わらない、この男のチャームポイントが垣間見えた場面だった。

文●向風見也

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