支配下、育成合わせて126人の選手が指名された昨年のドラフト会議。プロ入りした選手の中にはキャンプ、オープン戦で既に存在感を示している選手もいるが、その一方でプロ志望届を提出しながらも残念ながら指名がなかった選手も少なくない。今回はそんなプロ入りに向けて再スタートを切ることになった選手の進路と、プロ入りへの課題についてまとめてみたいと思う。

 まず最も大きな話題となったのが山田健太(内野手・立教大→日本生命)だ。大阪桐蔭では根尾昂(中日)、藤原恭大(ロッテ)などと甲子園春夏連覇を達成。立教大でも早くから中軸を任せられると、現役選手では最多となるリーグ戦通算85安打をマークし、大学日本代表でも主将を務めるなど活躍した。プロ入りに対していわゆる“順位縛り”などはなかったとのことだが、東京六大学のスター選手は下位で指名しづらいという暗黙のルールもあったせいか、結局最後まで名前が呼ばれることはなかった。それでも大学での実績は抜群だけに、すぐに多くの企業からオファーが届き、最終的に近畿地区の名門である日本生命への入社が決まったと報じられている。下級生の頃に比べると最終学年では少し打撃が小さくなり、窮屈なスイングが目立っていただけに、社会人では持ち味である長打力を更に伸ばせるかが重要になりそうだ。
  大学生でもう1人、上位候補と見られながら指名が見送られたのが野口泰司(捕手・名城大→NTT東日本)だ。地方リーグながら強打の捕手として早くから注目を集め、全日本大学野球選手権では3年春に打率.727、4年春も打率.500、1本塁打と全国の舞台でも見事な活躍を見せている。ネックになったと考えられるのが守備面だ。地肩は決して弱くないものの、スローイングには少しムラがあったことも事実だ。またベースカバーの動きなど、フットワークの面でも甘い部分が目立った。ただ、元々の能力が低いわけではなく、打撃に関しては常に結果を残し続けてきたのは立派である。入社予定のNTT東日本には保坂淳介という社会人でも上位の力を持つ選手が正捕手として活躍しているが、保坂からレギュラーを奪えるくらいの結果を残せば再びプロ側も評価を見直すことになりそうだ。

 その他の指名漏れとなった大学生は投手では増居翔太(慶応大→トヨタ自動車)、羽田野温生(東洋大→パナソニック)、神野竜速(神奈川大→東芝)、漢人友也(中京大→Honda鈴鹿)、西隼人(関西学院大→三菱重工West)、野手では石伊雄太(捕手・近大工学部→日本生命)、下山悠介(内野手・慶応大→東芝)、斎藤大輝(内野手・法政大→東芝)、小中健蔵(内野手・西南学院大→西濃運輸)、道原慧(外野手・立教大→NTT東日本)、松下豪佑(外野手・武蔵大→日立製作所)などの名前が挙がる。東芝の神野、下山、斎藤などは既にオープン戦で結果を残しており、1年目から主力としてかかる期待も大きい。
  高校生ではともにU18侍ジャパンにも選ばれた川原嗣貴(投手・大阪桐蔭→Honda鈴鹿)、海老根優大(外野手・大阪桐蔭→SUBARU)が揃って社会人に進むことが発表された。特に川原はU18W杯でも4試合全て無失点と好投していただけに、指名がなかったことは意外だったが、完成度の高さもあるだけに社会人という選択肢はプラスのように感じる。入社予定のHonda鈴鹿は投手育成に定評のあるチームで、近年でも松本竜也(広島)が高校から入社してプロへ進んでいるだけに、川原も早くから結果を残して3年でのプロ入りを目指したい。

 一方の海老根も早くからオープン戦で起用されているが、打撃に関してはまだ確実性に課題が残る印象だ。ただそれでも強肩と俊足を備えており、右打ちの強打者タイプというのもプロからの需要は高い。昨年は外野手が豊作だったという点も不運だっただけに、社会人で打撃を伸ばせばチャンスは十分にあるだろう。

 兄の影響もあって高い注目を集めた村上慶太(内野手・九州学院→日本大)も指名はなく、日本大へ進学することとなった。芯でとらえた時の打球の勢いは魅力だが、まだ体の割れが不十分で、対応力には課題が残る。打つ以外のプレーも特徴がないのが気になるところだが、やはりスケールの大きさは魅力で、オープン戦でも代打で早くも起用されている。チームは部員数も多く、競争も激しい環境だが、持ち味を生かして早期のレギュラー獲得を目指してもらいたい。
  海老根のところでも触れたが、昨年は高校生の外野手が豊作で、指名漏れとなった選手も多く、主なところでは田中多聞(呉港→JFE西日本)、黒田義信(九州国際大付→東日本国際大)などの名前が挙がる。この中では田中が早くもオープン戦で起用されて結果を残すなど、チームの期待の大きさが窺える。

 高校、大学で高い評価を得ることができなくても、その後の進路で大化けし、プロでも主力となった選手は多い。それだけにここで挙げた選手たちも、進んだ先で更にスケールアップし、2年後、3年後、4年後のドラフト戦線を賑わせてくれることを期待したい。

文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。