何よりファンにとって待望の一戦が実現した。3月6日に都内のホテルで記者会見を実施したボクシングの前世界バンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)は、5月7日に神奈川・横浜アリーナでWBC&WBO世界スーパーバンタム級2団体統一王者スティーブン・フルトン(米国)に挑戦することを正式発表した。

 今年1月にスーパーバンタム級に階級を上げた井上。約1か月前にバンタム級で4本のベルトを手にしたばかりだったが、「自分の強さを追い求めていきたい、挑んでいきたいという気持ちがあるからこそスーパーバンタム級に上げていきたい。まずバンタム級でやっていくにはモチベーションが渋いかなというのがあった」と、新たな挑戦を選択した。

 もっとも、2団体を統べ、キャリアの最盛期にある王者とのマッチメイクは容易ではなかった。プロモートに携わった帝拳ジムの本田明彦会長は6日の会見後の取材で「向こう(フルトン陣営)のトレーナーは全員が反対した」と交渉の舞台裏を明かした。

 交渉が始まったのは、井上が4団体統一した昨年12月のポール・バトラー(英国)戦の翌日。すぐにフルトン陣営に連絡をしたところ今年2月24日に21年11月にタイトルマッチを行なったブランドン・フィゲロア(米国)と再戦する方向で話を進めていたという。
  コンディション面も考慮していたのだろう。それでも猛反対をしたトレーナーたちを押し切ったのは、6日の会見で「今までファンから『あいつとの対戦を避けている』とか『あの人から逃げている』とたくさん言われてきた。俺はそうでないことを証明するためにもイノウエとの対戦を熱望していた」と豪語したフルトン本人の意向だった。

 百戦錬磨の本田会長は、こう続けた。

「尚弥はアメリカ人も認めている選手。(敵地の)日本でもやる価値がある。交渉の前提で最初から日本でやるということだった。これだけの(日本人の)興行はできないですし、フルトンが勝てば、とてつもないことになる。メリットが大きいと判断したのではないだろうか」 軽量級は興行規模が小さくなりがちだ。「ボクシングの本場」アメリカでは、世界的に人気のある中量級と重量級の方が、資金的にも大規模なイベントが組まれやすい現状がある。

 そうしたなかで、アメリカのトップファイターであり、現役チャンプを呼び寄せた。それは井上が世界的スターである証とも言える。本田会長は「カネロと同じレベルってことじゃないでしょうか。どの選手も指名試合などがあり、ずっと待ってくれる団体はなかなかない。それだけのスーパースターということ」と訴え、「日本では史上最大のイベントになる」とフルトン戦の価値を強調した。
 「今回の試合は(昨年4月のゴロフキンvs村田諒太のWBAスーパー&IBF世界ミドル級王座統一戦)のファイトマネー(20億円以上と言われる)は超えませんけど、内容、興味、期待など全ての要素を入れれば、日本では史上最大のイベントになるでしょう。やっぱり、なかなかアメリカ人は見てくれませんから。でも、今回はアメリカ人の世界王者が来る。それと試合は世界で配信される。海外でこれだけ話題になる試合はない」

 抜群のカリスマ性と強さ、そして確かな実績を誇る“怪物”だからこそ実現したビッグマッチ。その舞台裏では、「世界最強」を求める猛者たちの想いが交錯した。

取材・文●羽澄凜太郎(THE DIGEST編集部)

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