現地時間5月12日、ニューヨーク・ニックスとマイアミ・ヒートによるイースタン・カンファレンス・セミファイナル第6戦は、ホームのヒートが96−92でニックスを下し、4勝2敗でシリーズに終止符を打った。

 これまでプレーオフで5度の対戦経験があり、特に1997〜2000年には4年連続で最終戦までもつれ込む大激戦を演じてきた両チーム。現在ニックスで指揮を執るトム・シボドーHC(ヘッドコーチ)、ヒートのエリック・スポールストラHCはいずれもその時代に、それぞれのチームでアシスタントコーチを務めた人物でもある。

 今回のシリーズではそんな当時の因縁を感じさせるように、90年代にニックスとヒートの双方で指揮官を務め、現在はヒート球団社長のパット・ライリーをはじめ、ニックスの主力だったパトリック・ユーイングやジョン・スタークス、ヒートの大黒柱アロンゾ・モーニングといった球団OBが会場に姿を見せるなど、対戦を盛り上げた。
  そんななか、第6戦ではジミー・バトラーが24得点、8リバウンド、4アシスト、バム・アデバヨが23得点、9リバウンド、2スティールと両輪の活躍に加え、マックス・ストゥルースが14得点、6リバウンド、カイル・ラウリーが11得点、9アシスト、3スティールをマークしたヒートが勝利。第1シードのミルウォーキー・バックスを4勝1敗で下した1回戦に続き、第8シードからカンファレンス準決勝も突破してみせた。

 ここ4年間で3度目のカンファレンス決勝へ駒を進めたヒートは、現在3勝3敗で並んでいるボストン・セルティックスとフィラデルフィア・セブンティシクサーズの勝者とNBAファイナル進出をかけて競い合うこととなる。

 一方、2年ぶりにプレーオフへ帰ってきたニックスはカンファレンス準決勝で敗退。それでも、シボドーHC仕込みの粘りの下、ヒートが突き放そうとした場面で必死に食らいつき、最後まで奮闘した今季の戦いは称賛されるべきだろう。

 なかでも第4戦で32得点、11アシスト、第5戦では48分間フル出場で38得点、9リバウンド、7アシストをマークしたジェイレン・ブランソンは、第6戦でも約45分のプレーで41得点の大暴れ。3試合連続でゲームハイの得点を叩き出してみせた。 ニックスの選手がプレーオフで3試合連続の30得点以上を奪ったのは90年のユーイング以来。昨季ダラス・マーベリックスのカンファレンス決勝進出に大きく貢献した男は、移籍1年目で強烈なインパクトを残した。

 これには敵将のスポールストラHCも、「なぜあの男がオールスターやオールNBAに入っていないんだ?」と絶賛した。

「彼は入るべきだ。彼がまだウエストにいてくれたらと思うくらいだ。競争相手としてリスペクトしなければいけないね。まるでロッカールームにいるこのチームの選手たちみたいだよ。彼には強固な意志がある」

 ブランソンはレギュラーシーズンで自己ベストの平均24.0点、3.5リバウンド、6.2アシストを残すと、プレーオフではさらにその数字を伸ばし、11試合で平均27.8点、4.9リバウンド、5.6アシストをマーク。

 ヒートとのシリーズでは厳しいマークに遭うも、両チームトップの平均42.4分の出場で、31.0点に5.5リバウンド、6.3アシスト。フィールドゴール成功率50.4%、フリースロー成功率89.1%に加え、ターンオーバーを平均1.8本に抑えるなど、ニックスのベストプレーヤーとしてチームを引っ張った。
 
 シボドーHCも、そんなブランソンに対して最大級の賛辞を送っている。

「このプレーオフを観ていれば、彼がリーグでもベストプレーヤーの1人だと分かるはずだ。彼はコートに立って毎晩活躍している。ヒートは素晴らしいディフェンシブチームなのだから、そのなかで彼がこなしたことは称賛に値する。彼は若い(26歳)から、もっと上手くなっていくよ」

 2018年のドラフト2巡目全体33位でNBA入りしたブランソンは、今季がキャリア5年目。ニックス加入1年目はオールスターやオールNBAチーム入りこそできなかったものの、両指揮官から絶賛されるほど選手としての評価を高めたことは間違いない。

 そのブランソンはシリーズ終了後、今季をこのように振り返っていた。

「この組織の一員になれて本当に嬉しい。ニューヨークは素晴らしいね。ファンのみんなが最高なんだ。すでに来年が楽しみで仕方ないよ。きっと楽しいことになる。僕らはチームメイトとして互いに証明することがたくさんある。ニューヨークのみんな、僕らにとって最高の年になった。自分たちのゲームを磨き続けて、自信を植えつけていきたい。そしてもっと前進し、一丸となってやっていきたい」

 昨年のプレーオフに続き、新天地でも大舞台で躍動してみせたブランソン。ジュリアス・ランドルやRJ・バレット、ジョシュ・ハート、ミッチェル・ロビンソン、クエンティン・グライムズといった現メンバーとともに、来季もこの男がニックスを引っ張っていくだろう。

文●秋山裕之(フリーライター)