春のマイル女王決定戦、第18回 ヴィクトリアマイル(GⅠ、東京・芝1600m)が5月14日に行なわれ、単勝4番人気のソングライン(牝5歳/美浦・林徹厩舎)が3番人気のソダシ(牝5歳/栗東・須貝尚介厩舎)をアタマ差交わして優勝。昨年の安田記念(GⅠ、東京・芝1600m)に次いで、2つ目のビッグタイトルを手に入れた。

 1番人気のスターズオンアース(牝4歳/美浦・高柳瑞樹厩舎)は追い込み届かず3着に敗れ、2番人気のナミュール(牝4歳/栗東・高野友和厩舎)は道中に受けた不利が影響して7着に終わった。

 GⅠシリーズが始まって以来、週末になると雨に祟られるというサイクルが続いているが、先週末もやはり降雨に悩まされた。前日の深夜から降り始めた雨は、本降りにこそならなかったが、小雨がずっと降り続けた。

 ただ、水はけの良い東京コースだけあって、第9レース(芝1800m)までは「良」発表で行なわれたが、そのあと降りが強くなったため、メインレースは「稍重」に近い良馬場のコンディション。極端に馬場状態が悪化したとまでは言えない状態のなか、刻一刻と発走時間が近づく。
  単勝オッズが10倍を切ったのは4頭。昨年の牝馬クラシック二冠馬であるスターズオンアースがオッズ2.5倍の1番人気に推され、悲願のGⅠタイトルを狙うナミュールが4.2倍で2番人気。以下、白毛のアイドルとしてお馴染みのソダシが4.6倍の3番人気、昨年の安田記念を制したソングラインが7.6倍の4番人気となって、ゲートインの時間を迎えた。

 ゲートが開くと目立つほどに出遅れる馬はおらず、各馬が他の出方を見ながら位置取りを探る。そんな流れのなか、大外の16番枠から出たソダシが前目の位置を取ろうと急激にインへと進路をとったため、内にいた数頭が押圧されて不利を受ける。なかでもナミュールは鞍上の横山武史騎手が立ち上がって手綱を引かざるを得ないほどの大きな影響を被った(レース後、ソダシのダミアン・レーン騎手はこの斜行によって過怠金5万円の制裁を受けた)。

 向正面での隊列は、逃げるロータスランド(牝6歳/栗東・辻野泰之厩舎)をソダシがマークし、ルージュスティリア(牝4歳/栗東・藤原英昭厩舎)、サウンドビバーチェ(牝4歳/栗東・高柳大輔厩舎)、ナムラクレア(牝4歳/栗東・長谷川浩大厩舎)、スターズオンアースらがそれを追走。序盤で不利を受けたナミュールは中団の後ろ目まで下がってしまった。 1000mの通過ラップは58秒5。馬場状態を考慮すると、やや速めのミドルペースというところ。ただ、逃げ・先行勢も無理して飛ばしている印象はなく、前に有利な流れのように見えた。

 勝負の直線。ジョッキーたちはインコースもさほど馬場状態が悪化していないことを把握していたため、距離損を防ぎながら一斉にスパートに入った。内ラチ沿いでロータスランドが逃げ粘るところへソダシが襲い掛かって、坂上で先頭に躍り出るが、そこへ内からソングライン、外からスターズオンアースも猛追。3頭の追い比べとなるなか、終いにグイっとひと伸びしたソングラインが粘るソダシをアタマ差退けたところでゴール。前年に同じ舞台で行なわれた安田記念を制した女帝が、その力を見せつける格好となった。

 優勝したソングラインは父キズナ、母ルミナスパレード、母の父シンボリクリスエスという血統。字面では、どちらかと言えば中長距離向きと思われるが、一貫して短距離からマイルを使われ、堅実な走りを見せてきた。東京のマイル戦に限れば、未勝利勝ちをはじめ、NHKマイルカップ(GⅠ)が2着、富士ステークス(GⅡ)が優勝、そして昨年の安田記念(GⅠ)が優勝と、いわゆる”自分の庭”とでもいうべき得意舞台だった。

 今年は2月末のサウジアラビア遠征から帰国後、疲労をとってからじっくりと乗り込んで丁寧に仕上げた林調教師は「サウジでファンの皆さんに申し訳ないレースをして(10着)、何とか巻き返したいと運動量を増やすなどしてきっちり仕上げ、祈るような思いでレースに臨みました」と感無量の様子。

 5歳ではあるが、キャリアはここまで14戦と大事に使われてきており、これからもまだまだ活躍が望めるソングライン。「調子を見ながら」(林調教師)ではあるが、今後は昨年と同じサイクルで安田記念への出走を予定しているとのことだ。
  ソダシは約半年ぶりのレースだったが、マイルGⅠを3勝している能力を如何なく発揮して、さすがの走りを見せての2着。こちらもまだまだマイル戦線でトップクラスの力に衰えがないところを示した。

 1番人気ながら3着に敗れたスターズオンアースは、クリストフ・ルメール騎手が「じりじりと伸びているが、マイルのスペシャリストが相手では分が悪かった」と語るように、終いの脚で切れ負けした印象。桜花賞を勝ってはいるが、仮に距離不適であっても、3歳春には地力の高さでマイナス面をカバーしてしまうことがある。ルメール騎手が「この馬は2000m以上が合っている」というように、次走、宝塚記念に出走してくれば迷いなく”買い”だろう。

 7着に終わったナミュールは、「あれだけの不利を受けてしまっては厳しかった」という横山武史騎手のコメントがすべてだろう。本来は中距離が得意な馬ではあるが、マイルに対応できたことは、残念なレースのなかにあって、わずかな希望だったと言える。もちろん、次走以降もマークを怠れない存在であることは間違いない。

 また、15番人気という低評価を覆し、外々を回りながら0秒2差の4着に食い込んだディヴィーナ(牝5歳/栗東・友道康夫調教師)の上がり最速の追い込みには驚かされた。出遅れ癖が解消されれば、さらなる躍進が望めるのではないか。

文●三好達彦

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