2022−23シーズンのMVPに選出されたのは、フィラデルフィア・セブンティシクサーズのジョエル・エンビード。2年連続で受賞していたデンバー・ナゲッツのニコラ・ヨキッチは、エンビードの後塵を拝し得票ポイントで2位に終わった。

 今季のエンビードは2シーズン続けてリーグトップとなる平均33.1点をマークしたほか、10.2リバウンド、4.2アシスト、1.7ブロックと立派な数字を記録。シクサーズをイースタン・カンファレンス3位の54勝28敗(勝率65.9%)へと牽引した。

 一方のヨキッチは、平均24.5点、11.8リバウンド、9.8アシスト、1.3スティールにフィールドゴール成功率63.2%、フリースロー成功率82.2%と、平均トリプルダブル級の成績をマーク。ナゲッツをウエスタン・カンファレンス首位の53勝29敗(勝率64.6%)へ導いた。
  もっともプレーオフでは、シクサーズはカンファレンス・セミファイナルでボストン・セルティックスに3勝2敗と王手をかけながら、そこから2連敗で敗退。一方のヨキッチ率いるナゲッツは、カンファレンス・ファイナルでロサンゼルス・レイカーズをスウィープで下し、球団史上初のNBAファイナル進出を決めた。

 MVP投票はレギュラーシーズン終了時点のもので、プレーオフの結果は関係ないのだが、カンファレンス準決勝で姿を消したエンビードとは対照的に、今ポストシーズンのヨキッチは15試合で平均トリプルダブル(29.9点、13.3リバウンド、10.3アシスト)と絶好調。フィールドゴール成功率53.8%、3ポイント成功率47.4%(平均1.8本成功)と猛威を振るっている。

 フェニックス・サンズとのカンファレンス準決勝ではシリーズ平均34.5点、13.2リバウンド、10.3アシスト、レイカーズとのシリーズでも平均27.8点、14.5リバウンド、11.8アシストと、2シリーズ連続で平均トリプルダブルをマーク。1967年のウィルト・チェンバレン(元シクサーズほか)に次ぐNBA史上2人目の快挙を達成したほか、単年のプレーオフで同年のチェンバレン(7度)を抜き、リーグ新記録となる8度目のトリプルダブルを達成した。 そうしたなか、現地時間5月26日にシャックことシャキール・オニール(元レイカーズほか)のポッドキャスト番組“The Big Podcast with Shaq”の最新エピソードが公開。1990年代後半〜2000年代にリーグの最強センターとして君臨した男が、セルビア出身の万能型ビッグマンを絶賛した。

「ジョーカー(ヨキッチの愛称)がベストセンターだ。彼はバスケットボールというゲームを変えた。センターの新鋭のようにプレーしていると思うね。5年前、センターのヤツらは揃ってジャンパーを打つだけだった。ジョーカーはベストなビッグマンであり、それを証明してきた」

 ナゲッツで実質的なポイントガード、オフェンスの起点となっているヨキッチは、ポストやエルボー、トップ・オブ・ザ・キー付近などあらゆるエリアからプレーメークし、得点やアシスト、中継役まであらゆる役割をこなしている。

 ただし、MVPに2度選ばれたからといって、シャックはヨキッチが自身を上回ったとは見ていないようだ。
 「よく聞け。俺よりもたくさんのヤツらがMVPに選ばれてきた。俺より上のヤツだとは到底思えない連中が、だ。3回選ばれたヤツだっているが、俺は1回、コビー(ブライアント/元レイカーズ)だって1回しか選ばれていない。じゃあそいつらが俺とコビーよりも優れていたと言えるのか?それはどうかと思うね。

 エンビードはMVPに選ばれた。だが、プレーオフで俺たちへ見せたハイライトでは、ジャンパーを打ってばかりだった。俺が考えている新たなセンター像の定義そのものだ。俺が見たいのは、スリーやピック&ポップの連発じゃない。ジョーカーはどうかって? あらゆるプレーを見せてきたはずだ」

 ナゲッツとのシリーズで敗れたサンズのケビン・デュラントが「ヨキッチはバスケットボールをプレーしたなかで、歴代最高のセンターの1人として名を残すだろう」と話したように、ヨキッチは今プレーオフの活躍によって、現役最高のビッグマンとしての地位を確立したと言えるのかもしれない。

 6月1日に幕を開けるNBAファイナルで、ヨキッチがナゲッツをフランチャイズ史上初のタイトル獲得へ導くことができれば、その評価は確実なものとなるはずだ。

文●秋山裕之(フリーライター)

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