現地時間6月1日、コロラド州デンバーのボール・アリーナで、今季の王者を決めるNBAファイナルが開幕。デンバー・ナゲッツがマイアミ・ヒートを104−93で下してシリーズ1勝目を手にした。

 第8シードからイースタン・カンファレンスを勝ち上がり、ファイナル進出を果たしたヒートは、ミルウォーキー・バックスとのファーストラウンド、ニューヨーク・ニックスとのカンファレンス・セミファイナル、ボストン・セルティックスとのカンファレンス・ファイナルで、いずれも敵地で初戦を制していた。

 大事なシリーズ初戦を前に、ナゲッツのマイケル・マローンHC(ヘッドコーチ)はそのことを選手にしっかりと話していたという。

「相手はミルウォーキーで第1戦に勝った。ニューヨークの(マディソンスクエア)ガーデンで勝った。ボストンで行なわれた第1戦にも勝ったんだ。だから我々は自分たちのコートで彼らに主導権を握られたくなかった」
  試合はナゲッツが後半に最大24点リードを奪う展開に。最終クォーターにヒートが巻き返し、残り2分34秒に9点差(96−87)まで迫ったものの、ショットが決まらない時間帯をニコラ・ヨキッチがつなぎ、残り2分11秒にはケンテイビアス・コールドウェル・ポープがヨキッチのアシストからジャンパーを沈めてすぐさま11点差。以降は2桁点差をキープして危なげなく勝利を収めた。

 球団初優勝まであと3勝としたナゲッツは、ペイントエリアを攻め立てたアーロン・ゴードンが第1クォーターだけで12得点、続く第2クォーターではジャマール・マレーが10得点、マイケル・ポーターJr.が7得点を残し、前半を終えて59−42とヒートを圧倒。

 ヨキッチはフィールドゴール3本、フリースロー4本をすべて決めて10得点と“控えめ”だったものの、10アシストでチームメイトの得点機会を演出。前半を終えた時点でマレーが18得点、ゴードンが14得点、ポーターJr.が10得点と、初舞台でも持ち前のバランスのいいオフェンスを存分に発揮した。「僕がシュートする必要はない。それに試合へ影響を与えるために点を取る必要がないことも分かっている」

 そう語ったヨキッチは、後半に17得点を記録し、終わってみれば今プレーオフ9度目のトリプルダブル(27得点、10リバウンド、14アシスト)と圧巻のパフォーマンス。

 ファイナルのデビュー戦でトリプルダブルを達成したのは、2002年にロサンゼルス・レイカーズと対戦したニュージャージー(現ブルックリン)・ネッツのジェイソン・キッド(23得点、10リバウンド、10アシスト)以来21年ぶり。NBA史上2人目の快挙で勝利に花を添えた。

 試合後、『TNT』の番組に出演したヨキッチは、シャキール・オニール(元レイカーズほか)から「第1戦に勝ったことですごく興奮しているんじゃないか?」と聞かれるも、いたって冷静にコメントした。

「正直、そんなことはないんだ。僕は本当に集中していたし、相手がどれだけ凄いのかを知っているからね。彼らは僕らよりもいい戦績を残した素晴らしいチームを倒してきた。特に彼らはどのラウンドでも初戦で勝っていたから、僕らにとってこの勝利は本当に重要なんだ。チームとして、僕たちはマイアミ・ヒートのことをものすごくリスペクトしている。だからリラックスすることなんてできないよ」
  今プレーオフで初めて初戦を落としたヒートは、バム・アデバヨが26得点、13リバウンド、5アシスト、5本の3ポイントを決めたゲイブ・ヴィンセントが19得点に5アシスト、ヘイウッド・ハイスミスが18得点、2スティール、カイル・ラウリーが11得点、5リバウンド、5アシストを記録。

 だがジミー・バトラーが13得点、7リバウンド、7アシストと不発に終わったほか、マックス・ストゥルースが3ポイント9本をすべてミスして無得点、カンファレンス・ファイナル第7戦で26得点を奪ったケイレブ・マーティンが3得点と沈黙。チーム全体でフリースロー試投数は2本のみと、プレーオフ史上ワースト記録に終わっていた。

「長いシリーズなんだ。(優勝するための)4勝のうちの1勝じゃないか。アジャストしてみせるし、僕らはこの敗戦から学んでいく」。試合後にヴィンセントがそう話していたように、ヒートはエリック・スポールストラHCの下、4日の第2戦に向けて対策を練ってくることだろう。

 敵地での1勝を狙うヒートと、ヨキッチを中心に決して気を緩めることのないナゲッツ。シリーズはまだ始まったばかりだ。

文●秋山裕之(フリーライター)