春の東京、GⅠシリーズの掉尾を飾るマイル王決定戦、安田記念(GⅠ、東京・芝1600m)が6月4日に行なわれる。

 今春は毎週末の天候不順に悩まされたが、今週もどういう馬場状態で日曜を迎えるのか不明瞭な状況だ。大型の台風2号が日本列島に沿って位置する前線を刺激。金曜の朝から西日本で降り始めた豪雨は冠水などの被害を出しながら、時間の経過によって東日本へ移動している。東京でも警戒レベル4の警報が発令されるほどの雨量を記録し、予報では土曜の昼頃まで降り続くとみられている。

 JRAホームページでは金曜夕方の段階で、すでに馬場状態はダートと芝がともに「不良」と発表されている。日曜は晴れて、最高気温は26℃まで上がる予報が出ていて、どこまで馬場状態が良化するのかは未知数だ。

 ただ、馬場が「良」となっても、それは「稍重」に近く、かなりのタフさが要求される状態となるのではないか。時計にすれば、1分33秒台を切るのは難しいのでは、という見立ては立つ。本稿はそうした馬場読みの前提に進めていきたい。
  出走18頭中、GⅠウィナーが10頭という過去最多記録を更新する豪華メンバーとなっただけに、目移りする、いや、どこからでも買えると言ってもいいほど難解な一戦となった。

 土曜の早朝時点での前売り単勝人気をみると、シュネルマイスター(牡5歳/美浦・手塚貴久厩舎)がオッズ4.3倍の1番人気だったが、15時過ぎにはソダシ(牝5歳/栗東・須貝尚介厩舎)が4.7倍で逆転トップに。以下、6番人気のソウルラッシュ(牡5歳/栗東・池江泰寿厩舎)までが、オッズ10倍を切る混戦模様となっている。

 そうしたなかで主力視したいのが、着実に力を付けて、GⅠタイトルまであと一歩のところまで来たソウルラッシュだ。重賞初出走はデビュー10戦目となる昨年のマイラーズカップ(GⅡ)だったが、それを13番手から一気の追い込みで優勝。その後は安田記念が13着、富士ステークス(GⅡ)が2着、マイルチャンピオンシップ(GⅠ)が4着と、まずまずの成績を収めて22年シーズンを終えた。

 今年の始動戦となったマイラーズカップは3着に敗れたが、これは勝ったシュネルマイスターにクビ差+クビ差の僅差で、タイムも0秒1差。ステップとしては上々の結果だった。

 その後はひと叩きされた効果もあってか、追い切りでは素晴らしい伸び脚を見せた。能力がGⅠ級であることは疑いなく、稍重だった昨年のマイラーズカップを勝ち切っているように道悪にも対応できるのは強み。大事に使われてきた素質馬がいよいよ本格化し、大ブレイクするのはここだと見ている。 対抗格には人気薄のナミュール(牝4歳/栗東・高野友和厩舎)を取り上げたい。3歳の昨年は、チューリップ賞(GⅡ)を制し、桜花賞(GⅠ)では1番人気に推された存在だ。ここは10着に敗れたが、それでも勝ち馬とは0秒3差であり、以後、掲示板を外したのは不利を受けた前走のヴィクトリアマイル(GⅠ)のみ。オークス(GⅠ)が3着、秋華賞(GⅠ)が2着など、他はすべて馬券圏内に健闘してきた。

 今年は初の牡牝混合戦となった東京新聞杯(GⅢ)で勝ったウインカーネリアン(牡6歳/美浦・鹿戸雄一厩舎)とアタマ差2着とした。その後はいったん休養に入り、約3カ月ぶりの復帰戦となったヴィクトリアマイルではスローペースに泣かされ、末脚不発で7着となったが、こちらも1回レースを使われて動きに素軽さが加わり、順調に調子を上げている。東京での実績も〔1・1・1・1〕と得意なコース。昨春から手綱を取り続け、ナミュールを手の内に収めている横山武史騎手の手腕にも、あらためて期待したいところだ。
  高配当が狙える「押さえ」については、人気サイドのグループと、穴馬サイドのグループに分けてみる。

 人気サイドから見ると、昨年の2着馬で、一昨年のNHKマイルカップ(GⅠ)覇者であるシュネルマイスター。前走のヴィクトリアマイルを制し、2連覇に向け意気揚々と臨んでくるソングライン。そして、昨年のヴィクトリアマイルを勝ち、今年も2着と、3つのGⅠタイトルを持つソダシ。この実績馬3頭はぜひ押さえておきたいところだ。

 穴馬サイドからは、セントライト記念(GⅡ)勝ち馬で、前走のマイラーズカップ2着を経て臨むキタサンブラック産駒のガイアフォース(牡4歳/栗東・杉山晴紀厩舎)。東京コース3戦3勝で、前走のNHKマイルカップを制した勢いを持って古馬に挑むシャンパンカラー(牡3歳/美浦・田中剛厩舎)。

 同じく〔4・1・0・1〕と東京コースを得意とし、マイル重賞2勝の実績を持つイルーシヴパンサー(牡5歳/美浦・久保田貴士厩舎)。コツコツと勝ち鞍を積み重ね、前走の京王杯スプリングカップ(GⅡ)で重賞初制覇を成し遂げたロードカナロア産駒のレッドモンレーヴ(牡4歳/美浦・蛯名正義厩舎)。手広く狙いを広げるなら、この4頭を加えるのも一考だ。

 最後に、初のマイル戦となるジャックドール(牡5歳/栗東・藤岡健一厩舎)と、ドバイ遠征からの帰国初戦となるセリフォス(牡4歳/栗東・中内田充正厩舎)のGⅠ馬2騎は不安要素の大きさから狙いを下げた。

文●三好達彦

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