ベルーナドームに隣接されたライオンズトレーニングセンターに足を運ぶと見慣れない機器が設置してあった。

 正確には1軍施設でも見かけたものもあったのだが、その日が「入団テスト」だと聞いていたから尚更、奇妙な機器の存在にこのテストが先進的なもののように見えた。

 リーグ優勝23回、日本一13回を誇る西武が昨年に続いて入団テストを行なった。この入団テストは秋のドラフト会議で指名する新人選手や外国籍選手の人材発掘を行なうためだが、一般的に想像できる「入団テスト」とは様子が異なっていた。
  もともとイメージしていたのは希望者を集めた「トライアウト」のようなものという認識だった。脚力や遠投の距離を測り、その基準値をクリアしたものだけが、実戦のテストを行う。入団テストとはそういうイメージだ。

 しかし、午後の実戦形式(ライブBP)の前に行なわれた午前の部は、完全に計測重視のテストだった。それも先に挙げた見慣れない機器を使用した一般的ではないものばかり。

 ある場所では四方に光電管の機器を置いて、その反応をもとにアジリティを計測。敏捷性だけでなく反応も見ているようだった。メディシンボール投げのタイム計測や垂直跳びも高さではなく速度を計測。50メートル走はただ走るだけでなく、スタートは反応速度も測っていた。午前の部の最後には自転車を数秒間全力で漕ぐことによって最大出力を数値化していた。また、午後は実戦形式と並行して遠投テスト。こちらも距離ではなく球速やコントロールなどを計測するなど一味違っていた。

 実技テストのなかで、様々な角度からアスリートとしての能力を測る理由は球団の浅からぬ狙いがある。

 2017年の2月から老朽化した2軍選手寮や球場、室内練習場などを改装。2019年には3軍制度までを設置した西武は大掛かりな育成改革に着手しているのだ。2023年度からさらにブラッシュアップ。マネジメントやコーチング学、チームビルティングなど多岐に渡り、その一環として、この日のような入団テストがあった。

 チームの統括部長市川徹氏はいう。
「(ドラフト)コンバインのようにしたいなというのをイメージしていますね。単純にスピードを図るのではなくて、加速力はどうであるのかとかを見極めていく。走力があるとか、パワーがある選手というのはたくさんいると思いますが、そうではないところを見極めていければと思います。今回で2回目ですけど、これで決まりではなく、よりいいものを取り入れていきたい」
  ドラフト・コンバインとはメジャーでも数年前に始まったドラフト前に開催する候補者たちを集めて身体能力の測定や面談などを行なうものだ。日米の双方でのスカウティングは試合でのパフォーマンスを見極めて評価していくが、それだけではなくさまざまな数値を見ることによって、選手の潜在能力を可視化していく。

 この入団テストもまさにその要素が組み込まれていた。西武には優秀なスカウトが地方に点在しているが、その眼力とは異なる数値で測れるもので能力を発掘していくというものである。この日の参加者への趣旨説明などを行なったファーム・育成グルーブリーダーの田代裕大氏は「スカウトが試合などでは測ることができない数値を見て才能を発掘できないかと思っています」と語っており、球団が細かなデータ収集へ目線を向けているのが見て取れた。

 次の説明を聞くと、確かにスカウトでは測れない才能があるということが理解できる。ファームのヘッドS&Cコーチの坂本忍氏はこう語る。

「数値を測るだけでなくて、どこにリンクしているかは見ていかないといけないんです。例えば、スピードはあるのに敏捷性がよくない選手は、どこをトレーニングで変えてやれば、改善するのか。うちのファームの選手と比較しながら、見ていく感じですね。また、体の大きさもあるので、ワットバイクは最大出力を測りますが、体重割でも比較が必要になります。例えば、1軍の選手では源田や金子、若林の出力は全体で見ればそれほど高くないんですけど、体重の割合で見ていくと、ものすごい高いことがわかる」

 一方、参加する選手の意気込みはさまざまだった。
  元独立リーグ出身で、今はフリーだという中岡康平選手は立命館大の陸上部で走り方や栄養学を研究。個人の活動を主としてきて、この日のテストに臨んだ。

「まさか一次審査で受かると思っていなかったんですけど、自分、体の勉強とか栄養とか、陸上について勉強めっちゃしていたんでそのことをしっかり伝えたら、多分そこを見てくれたのかなと思います。走り方を研究してきて足に自信があります。一芸やったら負けへんと思ってやってきて、コーチの方からいい走り方をしているねと言ってもらえた。そこは良かったかなと思います」

 35名の参加者の多くは独立リーガーだったが、今年は5名の高校生がいたことも今回のテストの特徴だった。昨年は10月に開催したため、高校生は進路が確定しているケースが多かった。今回はターゲット層を広めることにも成功していた。

 日大藤沢の田上優弥選手はドラフト候補としても騒がれるが、「夏の大会で自分のいいところを出せなかった。結果を出せなかった後悔もあった」と受験を決意。攻守に潜在能力の高さを発揮した。また、「高いレベルでやってみて自分がどれだけレベルについていけるか知りたかった」と広島の私立・武田高校の梶山暖選手は持っている力を発揮。「身体は自分が一番小さかったし、数値的には(どう評価されるか)分からないですけど、 (プロのレベルに)ついていけるっていう感覚的なものを持てたかなと思いました」と手応えを掴む選手もいた。杓子定規的な計測ではないだけに、選手たちもどう評価されたかは気になったことだろう。 ファーム育成ディレクターの秋元宏作氏は、この日のテストをこう総括した。
「反応系の数値は単純にスプリントの速さとは比例しないのがわかった。これはポジションの特性もあったりするので、 そういった部分はうちの選手たちも測定しているんですけど、単純にテストだけじゃなくて、育成の中での材料としてもどんどん活用していきたいと思いました。遠投は今年からは40メートルにして、プレーの中で必要になる低い球を計測しました。球質だったり、コントロール、あとは球速を測って、意外と面白いものが見れました」

 実戦形式のライブBPの結果だけの評価なら、この入団テストはそれほど驚くべきものではないだろう。しかし、これまで述べているように、さまざまな数値から選手の能力を可視化して獲得しようという姿勢には、西武の育成面への心意気が見えるというものである。
  坂本、秋元両氏のコメントにあったように、西武の選手はほとんどこれらの数値を計測している。入団テストは「スカウティング」の一環だが、その数値を比較して見定めようとしているあたりは、「スカウティング」と「育成」は同時進行であることを感じているからこその指針だろう。

 秋元氏は続ける。
「編成から育成まで、大きなまとまりの中で一緒にできないかというところを感じていて、(この試みは)始まりの段階でもあります。実際、うちのスカウトの見る目というか、スカウト力は本当にすごいものなので、 逆に、そこにプラスアルファでもっと何かできないかというのがあって、今チャレンジを始めたところです。これが正解というわけではなく、もしかしたらテストのやり方自体、計測しているメニュー自体も本当にもっと良いものがあるかもしれない。一生懸命データを集めながら、方向性を見つけていこうと思います」

 本当の意味でも“育成の西武”と自他ともに認められるために――。

 入団テストを通して、西武がさらなる育成の発展を目指しているのが伝わってきた。

取材・文●氏原英明

【著者プロフィール】うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『SLUGGER』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設。このほど、パ・リーグ特化のWEBマガジン「PLジャーナル限界突パ」を創刊した。
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