9月20日、去就が注目されているアンドレ・イグダーラが、ポッドキャスト番組(『Point Forward』)でタッグを組むエバン・ターナー(元ボストン・セルティックスほか)とともに、JJ・レディック(元ロサンゼルス・クリッパーズほか)のポッドキャスト『The Old Man and The Three』に出演した。

 キャリア19年を誇るウイングプレーヤーは、10月24日の新シーズン開幕まで約1か月という現段階で無所属となっている。もともと、昨年9月にポッドキャストでゴールデンステイト・ウォリアーズの一員として現役続行を発表した際に「ステフ(ステフィン・カリー)、君には知らせておく。これが最後だ」と発言していたため、昨季のプレーオフ敗退後、複数の現地メディアはイグダーラが現役生活を終えたとして、そのキャリアを祝福する投稿をしていた。

 ところが、イグダーラ本人は「僕らは自分の決断を記録してきた。しかし僕は戻ってプレーするかもしれない。もしくは、家に帰ることになるかもしれない」とレディックへ話しており、正式に引退したわけではなく、キャリア20年目を迎える可能性があることを示唆している。
  39歳の大ベテランは、これまでフィラデルフィア・セブンティシクサーズ、デンバーナゲッツ、ウォリアーズ、マイアミ・ヒートの4チームでプレー。19年のうちプレーオフには15回出場し、NBAファイナル進出7回、4度の優勝を経験している。

 ファイナルに進出した7回のうち6回はウォリアーズ在籍時のものだが、唯一異なる球団で頂上決戦へ駒を進めたのが、2020年のヒート時代だ。ヒートには2019−20シーズン後半から翌20−21シーズンまでの約1年半在籍。ジミー・バトラー、バム・アデバヨといった現在の主軸たちとともに戦い、初年度にNBAファイナルの舞台に立っている(結果はレイカーズに2勝4敗で敗退)。

 パット・ライリー球団社長、エリック・スポールストラHC(ヘッドコーチ)の下、ヒートはドラフト外の若手やリーグで芽が出ていない選手たちを育て上げ、毎年のようにタフなチームを形成して強豪としての地位を確立してきた。

 番組内で、イグダーラはその“ヒート・カルチャー”について、職人シューターとして活躍するダンカン・ロビンソンを引き合いに出してこう話していた。

「ダンカンがワイドオープンのショットをミスすると、世界の終わりかのように考えてしまう。まるで『これじゃダメだ。僕はシュートを決めるためにここにいるのに。絶対に落としちゃいけないんだ』といった風になるんだ。そのマインドセットが大好きでね。そこで私は『ダンカン、君がショットを落としても、我々が君へパスすることを止めたりはしないよ』と言うんだ」 1本のシュートに懸ける熱量を目の当たりにしたイグダーラは、「そこには(チームのカルチャーと)何らかの相関関係があるんだと思う」と語った。

 ロビンソンは2018年にドラフト外でヒートに入団。当初は2WAY契約だったが、2年目にはリーグ3位となる3ポイント270本を成功させ(成功率44.6%)、一躍トップシューターの仲間入りを果たした。

 ただ、在籍5年目となった昨季は42試合の出場で平均6.4点、3ポイント成功63本(成功率32.8%)と、キャリア2年目以降としてはワーストの成績に沈んだ。それでも、プレーオフではタイラー・ヒーロー、ヴィクター・オラディポの負傷離脱を受けてチャンスを掴み、23試合で平均9.0点、3ポイント成功50本(成功率44.2%)を記録。見事に復活を遂げ、ファイナル進出に貢献した。
  抜群の結束力と、互いを信頼することで築き上げられてきた“ヒート・カルチャー”。スポールストラHCやバトラーがモチベーターとなり、チームメイトたちの自信を高めてステップアップを促すことで、これまで苦しい状況を何度も打破してきた。一見派手な補強はなかった今季も、ロビンソンのような叩き上げの選手が台頭することだろう。

 一方39歳のイグダーラには、フルシーズンを戦う力はもう残っていないかもしれない。それでも、ウォリアーズとヒートという近年のリーグで最も成功を収めた2チームでプレーした経験があり、短期決戦を勝ち上がる術を熟知しているだけに、今季中に新たな契約を結ぶ可能性もあるのではないだろうか。

文●秋山裕之(フリーライター)