NBAとFIBAワールドカップ、両大会でファイナルを経験した若きフォワードが、新シーズンに向けて躍動している。2022年のNBAドラフトで、マイアミ・ヒートから27位指名を受けてデビューしたセルビア人フォワードのニコラ・ヨビッチだ。

 2年連続でシーズンMVPに輝いた同胞の大先輩、ニコラ・ヨキッチと一文字違いという名前の妙も手伝って話題となったヨビッチ。しかしルーキーイヤーは腰のケガに悩まされ、レギュラーシーズン15試合、プレーオフ7試合の出場にとどまった。

 レギュラーシーズンの成績は、平均13.6分のプレータイムで5.5点、2.1リバウンド。その中で彼のシーズンベストの試合だったのは、2022年11月のワシントン・ウィザーズ戦だ。30分以上コートに立ったこの試合、当時ウィザーズに所属していた八村塁とマッチアップしたヨビッチは、シーズンハイの18得点に6リバウンドを記録している。

 この試合のあと、ヒートのエリック・スポールストラHC(ヘッドコーチ)は、ヨビッチが持つ才能についてこうコメントした。
 「彼は、パスの出し手としてだけでなく、スクリーナーとしても優秀だ。オープンスペースへの入り方、いろいろなことを繰り出せるセンス、パス、ビジョンなど、オフェンスの勘が非常に優れている。ここに来てすぐに発揮された彼の1番の強みは、周囲の選手をより良くプレーさせられる能力だ」

 またスポールストラは「彼はどんな局面でも動じることがない。実に快適そうにプレーすることができる」と、ヨビッチが強心臓の持ち主であることを指摘していたが、それはまさに、この夏のワールドカップでも発揮された。

 ヨビッチは開幕戦から決勝のドイツ戦までの全8試合にスターターとして出場し、平均10.1点、3.0リバウンド、2.6アシストというスタッツを残したが、その数字以上に印象的だったのは、相手に押し込まれている場面で、劣勢の局面を打開するようなインパクトのある得点やリバウンドだった。チーム最年少の彼のそうしたプレーがチームに挽回の活力を与え、たびたびゲームの流れを好転させた。
  さらにグループリーグの南スーダン戦では、5本打った3ポイントをすべて沈めるなど、もともと定評のあったシュート力も向上。この大会ではフィールドゴール成功率55.6%という立派な数字も残している。

 残念ながら、NBAファイナル同様、ワールドカップでも決勝でドイツに敗れて準優勝に甘んじることになったが、この夏の体験で得たものは大きかったと、ヨビッチはヒートの地元紙『マイアミ・ヘラルド』に語っている。

「ヒートでファイナルに進出したとき、僕はたぶん、自分自身に疑問を抱いていた。“自分はそんなレベルに立てる選手なのだろうか?”“世界最強のコンペティションでプレーできるのだろうか?”ってね。

 でも、ワールドカップに出て決勝に進出したことで、自分があのような大きな舞台でプレーできることがわかった。自信がついたんだ。“自分にはできる”ということがわかったこと、それがこの夏に僕が得た一番大きな学びだったと思う。
  人は常に自分に疑いを抱くものだし、周りの人からもそうした視線を向けられる。僕も、大勢の人が注目するなかでプレーするのに十分な実力があるのか、いつも自分に疑いを持っていた。でもこの夏の経験を経て、そうした戦いに挑む準備ができたと感じている」

 セルビア代表ではスポットアップシューターとしての役割を与えられ「オープンになったら迷わず打て」という指示を受けていたことも、シューティングにより自信を持てることにつながったという。

 さらにこの大会中、ヨビッチには思わぬ援軍もあった。チームUSAのコーチングスタッフに参加していたヒートのスポールストラHCからの、現場でのサポートだ。

「彼は準々決勝と準決勝は会場に見に来てくれていて、僕らのベンチの近くにいたんだ。振り返って彼の姿が目に入ると、僕はとても嬉しかった。ほとんど毎試合の後、彼は僕にメッセージをくれて、プレーの感想や『頑張れ』という励ましの言葉を送ってくれた。毎日会っていたわけではないけれど、常につながりを感じられていたんだ」
  昨季はコートに立つたびに「背中が痛くなるのではないか」という恐怖とともに戦っていたというヨビッチだが、ケガも完全に払拭し「朝目覚めて、背中が痛くないというのがひたすら嬉しい」。身体的にもメンタル的にも、完全に整った状態で新たなシーズンに臨む。

「精神的にも肉体的にも、準備はバッチリできている。シュート感覚が良くなったこともすごく助けになると思う。僕らにはジミー(バトラー)やバム(アデバヨ)のようにペイント内を支配できる素晴らしい選手がいる。ワイドオープンで3ポイントのチャンスを得たら、彼らはそれを僕らに決めてほしいと思っている。
  昨年と同じ場所を目指すには、みんなが素晴らしいプレーをする必要がある。僕もそれを常に意識して、自信を持って臨むつもりだ。僕にチャンスがきたときは、彼らは僕にシュートを打つことを望んでいるはずだからね」

 自信とシュート感覚を取り戻したヨビッチの、2年目の活躍に期待したい。

文●小川由紀子

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