最後までやることなすことすべてうまくいった。その強さが勢いだけでないことが分かっているから余計に凄みを感じる。2位・カープににつけたゲーム差は11・5。2023年の阪神タイガースは、圧倒的な強さでペナントレースを制した。率いたのは、15年ぶりの復帰となった岡田彰布監督。卓越した野球観と熟練の采配を駆使し、ブランクを感じさせない手綱さばきで若手主体のチームを日本一まで導いてみせた。

 岡田野球の特色はいくつかある。開幕前に指揮官の発案で決めた年俸における四球への査定率アップ。「四球を選べ」ではなく「ボール球を振るな」という、同じようで実は少し違う指示のもと選球眼が研ぎ澄まされたチームは今季、12球団最多494個の四球を選んで得点機を生み出した。昨年までの盗塁のグリーンライトを廃止し、一部の選手を除いては監督のサインで走らせたことも1つ。昨秋から着手した二塁・中野拓夢のコンバートや一塁・大山悠輔の固定もハマった。守りの野球が前提ながら、色とりどりの“岡田色”が随所にかみ合って他球団を圧倒。ただ、本稿では少し切り口を変えて分析してみたい。
  ここ数年のチームは長年中核を担ってきたベテランがチームを去り、若手主体。65歳の現役最年長監督がどのように“今どき”の選手たちとコミュニケーションを取ってひとつにまとめていくのか――。就任当初、そんな部分に注目していた。それは、前任の矢野燿大監督の選手への対応を目にしてきたからだ。矢野監督はキャンプ中から積極的にミーティングを開催し、自身の考えや野球選手のあり方などを自身の言葉で伝達。時に他業界の講師も招くなど、選手たちの現役引退後のセカンドキャリアまでも見据えていた。一方でグラウンドでは「超積極」「諦めない」「誰かを喜ばせる」の3本の矢を就任時から掲げて、選手が秘める潜在能力の開花を促しながら指揮。先述の盗塁のグリーンライトで言えば矢野監督は選手の積極性にかけ完全フリーとした。また、選手が無気力に見えるプレーを目にした時には試合後に涙を流して叱責。情にも訴えながら勝利を目指して戦っていた。
  今年の岡田監督はその対極だった。シーズンを終えた今でも「監督と話したことですよね...本当にあんまりないんですよね」と苦笑いで振り返る選手は珍しくない。キャンプ中、試合前練習でも指揮官はノックバットを手にしてひたすら練習を凝視。動きと言えば内野後方→ベンチ前と見守る位置が変化することぐらいだった。チームのミーティングでも積極的に発言することはもちろんない。当初は戸惑う選手も多かったが、これが岡田監督のスタイルとわかり始めればそこに拒絶は生まれなかった。

 しかも、監督は対話を遮断していたわけでもなかった。選手にもう少し深く聞いていけば、絶妙なタイミングと間で声かけを行なっていた。ブルペンで奮闘した岩貞祐太は春先に打ち込まれた試合後のことが印象に残っているという。「打たれて映像を見返していたんですけど、そこに監督が通りがかって“気にするなよ、そんなん。大丈夫”やといきなり声をかけられて。あれですごく楽になったというか、引きずらなくなりましたね」。

 今季35セーブを挙げた岩崎優は想像もしない時に監督から声が飛んだ。8月9日のジャイアンツ戦。3点リードの延長11回にマウンドへ上がるため、ブルペンから三塁ベンチを通ってグラウンドへ向かう左腕を監督が呼び止めた。「明日は休みや」。常に冷静沈着な男も「ここで声をかけるんだ」と戸惑ったそうだ。その試合がシーズン42試合目とフル回転を続けていたクローザーは監督の宣言通り翌日は試合前練習にも参加せず一足早く帰阪。寡黙な将から“夏休み”をプレゼントされ「あそこで声をかけられたのは驚きでしたけど、休んだ分、またしっかり仕事をしようと思った」と力に変えていた。
  今年、指揮官の囲み取材で何度も耳にしたフレーズが「普通にやるだけやん」――。それは「当たり前のことを当たり前に」とも言い換えられる。監督と選手のコミュニケーションが少なくても、この言葉だけはナインにしっかりと浸透していた。これは、143試合を戦う長いシーズンのなかで安定した戦いを続けるキーワード。日本シリーズ直前、岩崎は「普通にやるだけと思う。ブルペンの皆にもいつも通りやろうと伝えていますので」と岡田監督を代弁するようにシンプルな意気込みを口にした。

 距離を置き、表立った対話が見えなくても揺るがぬ指針をじわじわと広めて選手たちをひとつの方向に導いた指揮官。岡田野球の強みはこんなところにもある。

取材・文●チャリコ遠藤

【著者プロフィール】
1985年生まれ、大阪府出身。春日丘高、関西大を経てスポーツニッポン新聞社に入社。2010年から現在に至るまで阪神タイガース担当一筋。趣味は釣りで主なフィールドは大阪湾、明石、淡路島。100センチ超えのブリが目標。PRIDEからハマり格闘技も観戦する。

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