25歳でテニスを始め、32歳でプロになった市川誠一郎選手は、夢を追って海外のITF大会に挑み続ける。雑草プレーヤーが知られざる下部ツアーの実情を綴る転戦記。

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 前回は、ブレーク直前の有望株が下部ツアーにはごろごろしていること、そして化ける選手はあっという間に上のステージへ上がっていくという話をしました。

 逆に元トップ選手が下部ツアーに再び出場することもあります。

 昨年はアレクサンダー・ズベレフ選手の兄、ミーシャ・ズベレフ選手(世界ランク最高25位)がチュニジアのITFツアー25,000ドルに出場し、私も何度か練習したり、トレーニングメニューなどを教わったりしました。

 今年の1月にはマルティン・クリザン選手(最高24位)もチュニジアのITF15,000ドルに出場していましたし、2016年のウインブルドンで一躍有名になったマーカス・ウィリス選手も、昨年ギリシャの大会で会いました。こうした元トップ選手らはコーチとして来ていることも多いです。

 コーチではないパターンは、ケガまたは出場停止によってランキングを失い、下部ツアーから出直すというケースです。以前にスペインのパブロ・アンドゥハル選手(最高32位)が下部ツアーから出場しているのを見ました。また、この1月にはポーランドのカミール・マイフシャク選手(最高75位)、ドイツのニコラ・クーン選手(元174位)が同じ週にチュニジアのITF大会に出場していました。
  日本ではタブー視されるかもしれませんが、海外ではドーピング、ドラッグで出場停止になる選手が結構いて、そこからカムバックしてくるケースもあり、マイフシャク選手はドーピングからの復帰でした。彼は2019年の全豪オープンで錦織圭選手を相手に2セットアップまでいったこともある選手です。

 海外では元トップ選手らも気取らず過ごしているので、声を掛けて予定が空いていれば普通に練習できます。練習して感じるのは、必ずしもそうした選手のボールが他の選手より飛び抜けてパワーがあったり、返せないわけではないことです。

 もちろん質の高い球なのは当然ですが、トップであっても、ショットでゲームを作る選手もいれば、そうでない選手もいます。ミーシャ・ズベレフ選手などはボレーやスライスこそとても質の高い球でしたが、ストロークは浅くて飛んでこないとさえ感じました。

 ですがもちろん、とびきり強いです。自分のゲームが完全に確立されていたり、打ち方は独特でもすごく精度が高かったりするのです。トップまで行っても、必ずしも「ショットのパワー=強さ」ではないことを肌で感じることができます。

 こういうことは、まさに百聞は一見にしかず。実際にトップの選手と打ち合って、その世界に直接触れることで、世の中に出回っている様々な誤った先入観が取り払われ、テニスの本質、テニスの世界を見渡すことができるようになります。

文●市川誠一郎

〈PROFILE〉
1984年生まれ。開成高、東大を卒業後ゼロからテニスを始め、32歳でプロ活動開始。36歳からヨーロッパに移り、各地を放浪しながらITFツアーに挑んでいる。2023年5月、初のATPポイントをダブルスで獲得。Amebaトップブロガー「夢中に生きる」配信中。ケイズハウス/HCA法律事務所所属。

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