25歳でテニスを始め、32歳でプロになった市川誠一郎選手は、夢を追って海外のITF大会に挑み続ける。雑草プレーヤーが知られざる下部ツアーの実情を綴る転戦記。

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 前回は、下部ツアーには元トップ選手も出場してくること、その中には出場停止処分からの出直しもあるということを述べました。今回はその続きです。

 選手は国際ツアー出場の登録や更新時に、ドーピングや八百長など禁止事項についての講習動画を見ることが義務付けられています。

 日本はとてもクリーンな国で、ドラッグなどタブー視される文化ですが、ヨーロッパやアメリカでは合法化が進み、受け入れられ方は異なっています。しかし法律上は合法でも、プロテニスツアーで禁止指定されているドラッグもあるため、選手が試合会場や抜き打ちテストで陽性になれば、もちろん出場停止になります。ある程度一般的に受け入れられてきているだけに、ドラッグで出場停止になる選手は一定数います。

 また、ドーピングで出場停止になる選手も意外と多いです。ドーピングと聞くと、筋肉増強、ステロイドといったものが頭に浮かびますが、運動能力向上だけでなく、精神的な安定(緊張、イライラしづらくなる)、集中力向上(周囲のことが気にならなくなる)といった薬物もあるようで、こうした部分の効果がテニスにおいて非常に重要になることは、テニスをしたことがある方ならすぐにわかるでしょう。

 ドラッグ、ドーピングで出場停止になったことのある選手には、ツアーを回っていれば年に何度かは出会います。
  もう1つ、出場停止になる大きな理由はマッチフィックス(八百長)です。

 海外ではプロスポーツへの賭博は選手や関係者でなければ基本的には合法で、ヨーロッパではベッティングがかなり広く行われています。国によっては街中にパチンコ屋みたいにたくさんベッティングできるお店があります。海外にはパチンコはないので、その代わりのようなものかもしれませんが、スポーツへのベッティングはカジノのようにかなり大きなビジネスなのです。

 こうしたベッティングは、ほとんど観客の入らない下部ツアーの試合に対しても全然行なわれています。むしろ客の入らない下部ツアーは、オンラインでのベッティングによってビジネスとして成立しているとさえ言えます。

 客のいない下部ツアーでライブ配信が行なわれているのはこのためです。選手の戦績やデータはウェブサイトですぐに全て確認できるので、下部ツアーの無名選手でも賭け事に使うことができます。試合が終わるたび、選手のSNSアカウントに賭けで負けた客から年中ひどいDMが送られてくるのは、プロ選手の知られざる日常の1つです。

 話はそれましたが、こうしたベッティングが行なわれると当然出てくるのが八百長です。試合に負けなくても、1セット落とす、といった取引が行なわれることもあります。下部ツアーであれば大抵の選手は稼げておらず、特に途上国の選手はリアルな問題としてお金が必要で、生きるためにこうした八百長を受け入れてしまうことがあるようです。

 八百長はドラッグに比べてもかなり罪が重く、罰金や出場停止期間も容赦ありません。永久追放になることもあるため、八百長をした選手にツアーで会うことは少ないですね。

文●市川誠一郎

〈PROFILE〉
1984年生まれ。開成高、東大を卒業後ゼロからテニスを始め、32歳でプロ活動開始。36歳からヨーロッパに移り、各地を放浪しながらITFツアーに挑んでいる。2023年5月、初のATPポイントをダブルスで獲得。Amebaトップブロガー「夢中に生きる」配信中。ケイズハウス/HCA法律事務所所属。

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