夏休みにはもってこいの空間

 周囲のほとんどを陸地に囲まれながらも、東西3方で外洋とつながる瀬戸内海。独自の環境が多様な生物を育て、豊かな海の幸をもたらす。世界的にも珍しい閉鎖性海域である瀬戸内海の魅力を共同研究の成果で紹介する特別展「瀬戸内海の自然を楽しむ」が、大阪市立自然史博物館(大阪市東住吉区)で開催されている。干潟で共生する生き物たちや、地域に伝わる漁法や漁具。同館が2012年から瀬戸内海沿岸の博物館や水族館と連携し、5年間で収集した情報や標本を中心に、瀬戸内海の魅力や現況を多角的に検証するなど、夏休みにはもってこいの空間が広がっている。

「なにわホネホネ団」仕上げたザトウクジラ骨格標本の愛称募集

 もっとも大きくて目立つ展示は、ザトウクジラの全身骨格標本。2015年9月、瀬戸内海の東の出入り口にあたる大阪府岬町の海岸に死んだ状態で漂着したもので、全長約7メートルのオス。骨の様子からまだ子どものクジラで、成長すれば10数メートルに達する。

 瀬戸内海には小型のクジラであるスナメリが生息しているが、大きなクジラが迷い込むのは珍しい。それでも明治期には香川県内で捕鯨会社が設立され、捕鯨に使用されたとみられるモリが会場に展示されている。

 縄文時代のザトウクジラの骨が大阪の地下から見つかっているが、近年の大阪湾で発見されたのは初めて。同館スタッフと標本作りの市民グループ「なにわホネホネ団」団員が、漂着現場でクジラを解体して同館へ持ち帰り、骨格標本に仕上げた。同館では標本に愛着を持ってもらうため、愛称を募集中だ。

ヘルメットのような甲羅のカブトガニ

 周囲をほとんど陸地に囲まれた海を閉鎖性海域と呼ぶ。多くは地中海のように外洋との海水の出入り口はひとつだが、瀬戸内海には紀伊水道、豊後水道、関門海峡の3つの出入り口がある。

 瀬戸内海全域には700を超える島々が存在する一方、島がほとんどないエリアと密集するエリアに分かれている。複雑な潮の流れや特徴的な地形、独特の生態系が形成され、多様な生物を育て、人には豊かな海の幸をもたらしてきた。

 砂浜、干潟、磯、アマモやガラモなどの藻が群生する藻場。それぞれの環境に適応した生物たちが生息している。砂浜は植物には厳しい環境だ。風で砂が動き、塩分が多く、栄養分が少ない。展示されているイネ科のケカモノハシは根を地中の四方八方に広げて、乾燥や砂の移動に耐え抜く。根の長さは1メートルを超え、懸命さがひしひしと伝わってくる。

 干潟ではハゼ類とアナジャコなどの甲殻類の共生関係が成り立つ。甲殻類の掘った巣穴を、ハゼ類が生息や産卵の場として利用する。潮が引いても巣穴には海水が残っているためとみられるが、特定の甲殻類の巣穴には特定のハゼ類と、相方が決まっているという。巣穴の砂の粒の大きさなどで、好みが合うらしい。地道な研究成果だろうか、展示されているハゼ類と甲殻類の巣穴利用相関図が興味深い。

 ヘルメットのような甲羅やとがった尾が印象的なカブトガニ。節足動物で、エビやカニではなく、クモに近い仲間とのこと。岡山県笠岡湾の生息地が国の天然記念物に指定されている。