伊藤沙莉、泣く芝居は苦手も黒木瞳の一言で「荷が軽くなった」<Interview>
同作は、脚本家・小説家の内館牧子が「源氏物語」を題材に、長編小説「十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞」を実写化した映画。
平安時代の異世界にトリップしたフリーターの青年・雷が、奔放で強い女性・弘徽殿女御(こきでんのにょうご)に仕えて翻弄(ほんろう)されながらも、倫子(りんし)を妻に迎えて成長していく姿を描いていく。
今回、主人公の妻であり、外見にコンプレックスを抱える女性・倫子を演じた伊藤沙莉に、出演の感想や理想の女性像などについて語ってもらった。
――本作に出演した感想はいかがですか?
十二単が出てくる平安時代の登場人物を演じたのは初めてでした。時代劇の中でも古い時代を取り上げているので、触れたことのない世界観を経験させていただけたことはとてもうれしかったです。
しかも、監督の黒木瞳さんは美しく見せるということに関してすごくプロフェッショナルな方なので、楽しみでわくわくしていました。
――黒木さんが監督を務めることで感じたことはありますか?
ご自身も女優さんなので、演じる側の気持ちを分かっていただけることに心強さを感じました。
例えば、今回演じた倫子はすごくピュアで感情を豊かに表現する人だったので、泣くお芝居がかなりあったんですよ。私は涙を流すことがそこまで得意ではないので、そのことを瞳さんに伝えたら「私もよ」ってさらっと口にされて。
大先輩の方がそれを言ってくださったことで、私だけができないわけではないことに気付かされて一気に荷が軽くなったというか、たったその一言でやりやすさがすごく変わったなと思いました。
――逆に、俳優業の先輩ということで緊張はしませんでしたか?
最初は「何でこれができないの?」と思われたらどうしようとか、自分の劣っている部分に不安を感じていました。でも、そんな思いは初日で打ち砕かれましたね。
どんと構えられていて女優ということは忘れて構わないという感じでいてくださったので、ちゃんと監督として接することができました。
――演出に関して監督からどんな指導がありましたか?
そこまでがちがちに縛るというわけではなく、見せ方に関しては美しく見える方法をご指導いただいたんですけど、他の部分に関してはどちらかというと自由にやらせていただいた感じです。
演技の過不足に関して微調整して下さいましたが、基本的にはこちらを尊重してくれていたと思います。
■大泣きしなければいけなかったのは大変でしたね
――演じる中で難しかったことは何ですか?
初日は雷との出会いのシーンからだったので、大泣きしなければいけなかったのは大変でしたね。
映像で見れば倫子が最初のシーンから泣くことに驚く人もいるかもしれませんけど、倫子の人生で考えればずっと自信のなかった自分の容姿を雷が優しく包み込んでくれたので、その優しさに触れて涙を流すことはごく自然なことだと思います。
でも、1シーンの中では突然。しかも、悲しくて泣くわけではなく、どちらかといえば感動なんですよ。優しくしてもらったことに対するうれし泣きなので。
そうすると、演じる上でマイナスな気持ちで泣くことは違うので、そこが本当に難しくて。でも、この時代だと恋愛結婚はないはずなので、きっと自分に当たった人はかわいそうだと思いながら生きてきた人だと思うんですよ。
そんな中で自分の人生に光を当ててくれる人が現れたと考えたら、救われた気持ちになるんだろうなと思って演じました。
――弘徽殿女御は現代のキャリアウーマンを彷彿(ほうふつ)とさせる強い女性でしたが、伊藤さんは強い女性に憧れますか?
一般的に分かりやすい強さのようなものだけでなく、私は今回の倫子も最後の言葉を含めすごく強い女性だと個人的には思うんです。もちろん、弘徽殿の方が強い女性に見えるとは思うんですけど…本当に強い女性はちゃんと弱さも持っていてそこを否定しない人、強がらない人なんじゃないかなと思っています。
でも、普通に生きていく中で強がらなければいけない場面も多いので、バランスが難しいですね。ありのまま、揺らがない信念みたいなものがある人は格好良いです。
――役の中でバックハグやキスをされるシーンがありましたが、個人的にされてみたいと思うものはありましたか?
後ろからハグは意外とされたことないかも。「うわ〜びっくりした!」というのはやってみたい感じはしますよね。キッチンで料理していて後ろからいきなりとか。
「クレヨンしんちゃん」でみさえとひろしが前にやっていたのを見てすごくうらやましくて。私、ひろしと結婚したいんです。だからバックハグは格好良いと思ってしまって。
後ろ姿を見ていとおしいと思われたい(笑)。どちらかというと、そう思わせる女性になりたいです。
――最後に読者の方にメッセージをお願いします。
「どういう自分でいたいか」「どういう自分であるべきか」という人生のあり方を決めることについて、人は時間をかけていいはずなんですよ。
自分の思う正解に早くたどり着くことがえらいわけではないので、作品を通して自分と向き合うきっかけを持ってもらえたらうれしいです。
この作品は恋より愛がテーマだと思うので、人は意外と自分の気付かないところでなんだかんだ愛されているんだよということが伝わるといいなと思います。
◆取材・文・撮影=永田正雄