1月27日に発売される秋山黄色の1stシングル「アイデンティティ」はアニメ『約束のネバーランド』(フジテレビ)Season2のオープニング曲だ。秋山黄色は、原作漫画を連載当初から愛読していたという。
■曲によって生まれる今後の可能性が一晩かかって実感として襲ってきたんです
「『オープニングに決まったよ』ってスタッフの方に言われたときは、作品が好き過ぎて、全然実感がわかなくて。その『オープニングに決まったよ』って言葉をSiriで検索しないと意味が分からなかったくらいで(笑)。落ち着くためにとりあえず一回寝ました。自分は今24歳で曲を出す立場になっているわけですけど、子供のとき、自分より2まわりくらい歳上の人たちの曲を生活の一部になるくらい聴いていたんですね。今回の曲によって、自分もそういう立場になっていくかもしれないんだって思って。僕のことを知らないけど作品が好きで曲を聴いてくれるパターンもあると思うし。実際僕は『けいおん!』ってアニメを見て楽器を買って、音楽を始めたので、そういう風に誰かの人生に影響を与えることもあるんだろうなって。そういう曲によって生まれる今後の可能性が一晩かかって実感として襲ってきたんです。今、シングルのジャケットがアニメの絵柄でできあがったり、実際放送が始まったりして、やっと嬉しさが混み上げてきています」

 かなり思い入れのある作品への書き下ろし曲。曲を書く際にどのくらい作品のストーリーを意識したのだろうか。

「僕、タイアップ曲の場合、振り切って作品に寄せることもあるんですけど、今回は僕の音楽と『約束のネバーランド』のテーマの基本が一緒だと思ったので、ほぼ意識しないで作ったんです。『約束のネバーランド』の根底には食糧問題があって。肉食獣に『肉を食べるな』って言ったら世界はどうなるのか?という現実にもある問題をフィクションとして書いている。そこを『生き物を殺すことがダメだ』ってストレートに書くのではなくて、どういう手段を用いて人に考えてもらうことができるかという点と向き合ってるのが僕の曲と一緒だと思ったんです」

■目的地をそのまま書いちゃうと、人を動かす力にならない

「アイデンティティ」はパワフルなバンドサウンドを軸にしているが、トラックの展開や歌にも激しい緩急がついていて、とてもアグレッシブな曲だ。

「このアニメに、すごく疾走感や風を感じたんです。だからそれが音にも表れていて。でも僕にとって作曲って、頭にあるものを模写している感覚なんですね。元々あるものを聞ける音にしているだけっていうか。だから、作っているときはこうしようとか意識してなくて、さも当然かのように自然にできていくんです。あとで聴き返して、『何だこの展開は?』って思ったりしますし。『アイデンティティ』でイメージしたのは、草原があって母屋があって。『となりのトトロ』で、まっくろくろすけが登場するシーンで、風がふわって吹くようなシーンがあるんですけど、あの感じがずっと頭にあって。Aメロとかに、そういう叙情的な景色が結構出てるんじゃないかな」

過酷な運命の中で必死に生きて行こうという強い意志が歌われている歌詞。一番大事にした感情は?

「『アイデンティティ』というタイトルもそうなんですけど、自分が自分であるための存在意義を獲得するのにもがいてるというか。(『約束のネバーランド』の)主人公たちは番号で管理されてるんですね。ある種僕らもそうだなって。そもそもは誰にも名前なんてなくて。僕も勝手に秋山黄色って名前をつけて活動していますけど(笑)。でも、人間って自分らしさやアイデンティティが、なんでそんなに欲しいんだろうって考えると、優しさに辿り着いて。人ってことごとく優しさで傷ついているなって思うんです。何一つ正解がない世界に放り出されて、よりかかる部分が必要だから、人には誰かが必要で。でも、その誰かに向かって何かを口に出すと、やっぱり他人だから自分との違いがあって、傷つけたりしてしまう。そこで何で傷つけてしまうのかを明確にするためには、自分って何なのかを考えないといけない。それが存在意義を求めるってことで。この曲はそれが核になっているんですけど、そう思ったことを歌詞にストレートには書かないんです。目的地をそのまま書いちゃうと、人を動かす力にならない。だから、導く可能性だけは書いておこうっていう。それをアニメと無意識にすり合わせてこういう歌詞になったんです」
■「何でも書くアーティスト」っていうのは伝わってほしいなって
秋山黄色にとって初のフィジカルシングルということで、初のカップリング曲「日々よ」が収録されている。

「元々曲の原型はあったんですが、『アイデンティティ』という曲と大きく意味合いがつながるものでなければいけないとは思いました。僕の曲は一部を除いて死について歌っていて、『日々よ』も『アイデンティティ』もそうで。14歳くらいのとき、病んで『俺死ぬんだな』って思ったことを『日々よ』では書いてるんです。『アイデンティティ』はもうちょっと命サイドに目を向けていて。だからどうやって生きていくかを考えなきゃって。生きる意味なんて誰も持ってないから、結局みんな自分で手段を作っていかなきゃいけないと思うんです。でも不安とか恐怖って、それ以上に楽しいことを考えるか、それより苦しいことを考えるかのどっちかで紛らわさないといけなくて。14歳くらいから僕はずっとそういう状態なんですね。そういう精神状態で苦しいよりは、『お金がない』とかの現実的な問題の方が個人的にはマシで。だから人によって何に追い詰められるかの尺度は全く違って。『日々よ』はそういうことを書いています」

「ストレートな歌詞には基本的に抵抗がある」そうだ。

「分かりやすい詞を書きたい気持ちもあるんですけど、俺ポップスシンガーとしてあるまじきことに、分かりやすさに対して懐疑的なんです。人に何かを説明するときに簡単な言葉を使ってかみ砕いて伝えられるのが良いって言いますけど、それに対しても懐疑的で。難しい言葉が存在している意味って、難しい言葉の方が純度が高いってところもあるのかなって。難しい言葉のまま伝えて、相手もそのまま理解できるのが理想で。分かりやすく伝えることって、ポップスでは最重要項目なんですけど、僕はそれによって重要な何かが多少なりともこぼれ落ちてしまったとしたら、すごく後悔するんです。でも、分かりやすいから伝わる層の素晴らしさも知ってるので。だから、分かりやすい/難しいレベルじゃない、でも共感してもらえる、まだ言葉になってないような第三言語を目指してて。やっぱり最先端で曲を作るアーティストには、誰も知らないウルトラCみたいなものを探す義務があると思ってるんです。人の言葉を借りた綺麗な詞だけを書いていると僕は苦しいので。僕が好きなマキシマム ザ ホルモンの歌詞は第五言語くらいまでいってると思う(笑)。自分が好きな曲ってそういうのが多いのかな。そのアーティストが放つから自然で変に聴こえない言葉。それを目指すのがモチベーションになってるところもあります」

ドラマ「先生を消す方程式」(テレビ朝日系)の主題歌「サーチライト」、映画「えんとつ町のプペル」挿入歌「夢の礫」、そして「アイデンティティ」と、3カ月連続で強力なタイアップシングルをリリース中。3曲ともサウンドアプローチが大きく違う。

「『何でも書くアーティスト』っていうのは伝わってほしいなって。僕はそもそも音楽が好きで、今も書きたいときに趣味で曲を書いていて。だからいろんな音楽の楽しさを伝えたいとは思っています。同じ時期に出るということで、歌詞に関して矛盾が起こらないようにはしてて。この3曲は僕的には全部『救いたい』って気持ちを込めて書きました。昔は『人を救おう』なんてよこしまな気持ちを音楽に持ち込んじゃダメだって思ってたですけど、今はそんなことを言っている時代じゃなくて。僕コロナ関係なく、いろんな人をなくしちゃってて。だから、僕のエゴでそんなことを言ってる場合じゃない。今はみんなを助けたい。でも僕はひねくれているので、明るい時期になったら、また暗い曲ばかり書く日々に戻ると思うんです(笑)。そういう意味でも早く時代が良くなってほしいんですよね」

取材・文=小松香里