■続けることの大事さは改めて感じました

結成10周年を迎えたindigo la Endのメジャー6thアルバム『夜行秘密』。川谷絵音が描く恋愛模様は、繊細なバンドアンサンブルとメロディー、そして余白の多い文学的な歌詞によって、さらに切なさを高めている。アルバムタイトルに表われているが、「夜」をテーマにした曲が多く収録されている。

川谷絵音(Vo・G)「そもそもindigo la Endには夜のイメージがあったんですけど、アルバムタイトルに夜って言葉をつけるのは8年ぶりですし、『夏夜のマジック』がヒットしたこともあって、ハードルは高かったんですね。でも、今回は最初に配信した『チューリップ』を作ったときに、『良いアルバムができるかも』っていう手応えがすごくあった。
自分たちを鼓舞する意味もありますし、最初にバンド内で『夜行秘密』というアルバムを作ってるんだっていう共通認識があるだけでも、その後の制作が違ってくるんです」

長田カーティス(G)「毎回自分たちの中でも曲のハードルは上げていってますし。タイトルは目指す先にあるだけという感じですかね。これまで積み重ねてきたものをどんどん更新してるっていう」

2015年にシングルのカップリングとしてリリースした「夏夜のマジック」が2019年にヒットしたことによって、10代・20代のファンが一気に増えた。

川谷「自分たちとしては、聴いてくれている人が少し増えたくらいの認識なんですよね。ありがたい話ですけど、僕らが何か仕掛けたわけじゃない。長く続けてきたからこそのヒットだと思うので、続けることの大事さは改めて感じました」

佐藤栄太郎(Dr)「『夏夜のマジック』は、アーリー80‘sのちょっとシャッフルしてるビートの曲がこれから来るかなってときに作ったんですよね。ceroの『Summer Soul』とほぼ同じ時期で、その後にSuchmosさんやAwesome City Clubとかが出てきて。未だによく聴かれている音楽性ではあるので、こんなにブームが続くとは思ってなかったですね」

川谷「おしゃれっていうか、BGMにしやすかったっていう。時代は回っていくから、ああいうちょっと古いものを新鮮に感じる世代が出てきたっていうこと。あと、『夏夜のマジック』って意外とふわっとした歌詞で、あまりラブソングって感じでもないのが逆に良かったのかなって思います。でも、『夜行秘密』に影響はなく、作りたいものを作ったって感じです。『チューリップ』は前のアルバムが出てすぐ作ったんですけど、そうやって創作意欲が湧くのも早かったし、聴いてくれる人が増えたことは、もしかしたらやる気には影響しているのかもしれないです」

佐藤「『チューリップ』で新しいエンジニアさんと一緒にやってみて、録っているときにみんなのギアが入った感じはありました。今までのエンジニアさんが悪いってことじゃなくて、『こういう世界もあるんだな』っていう手応えによって結構バイアスがかかった。個人的には、『夏夜―』のサウンドプロダクションって意外と攻めていて。他に比べて、こもったサウンドでコンプ感もあって。それがあそこまで受けたので、『じゃあ攻めていいんだ』って思ったところはありました」
■やっぱりスピッツっていう、それをやらない完成形の先輩がいて。
だから僕は、そこを目指したいんです

川谷が描く文学的な歌詞は、より余白が多く、芸術的ですらある。

川谷「一人称と二人称を以前より減らしたところはあります。1曲目の『夜行』の歌詞も、最後に『あなた』っていうのが一回出てくるだけで。あまり状況説明をせずに、ちゃんと想像してもらえる歌詞にすることを念頭に置きました。余白を残し過ぎるとわけわかんない歌詞になっちゃうし、ただただおしゃれな歌詞を並べるだけになっちゃうので、そうならないようにちゃんと間を取る。そういう意味では、前作の『濡れゆく私小説』とは違う書き方ですね」

後鳥亮介(B)「『夜行』は特に文学的だと思いましたね」

川谷「『華にブルー』も、『好きだ』って言ってるけど、一人称も二人称も全然出てこなくて、最後に『あなただけ』っていう二人称が出てくる。とりあえず無駄を省きたくて。
自分としては『濡れゆく私小説』の反省点を活かしたりもしていて。言葉ってすごく難しくて、『歌詞を書くならこうあるべきだ』みたいなものの、自分の中の完成形のアルバムかもしれないですね。
世の中の『君が好きだよ』ってことを、わかりやすく何かに例えている歌詞とかが、すごく恥ずかしくて。どうしてもストレートなものが流行りやすいっていうのがあるんですけど、僕はそれだけは絶対にやりたくないんです。Jポップとしてはそれをやった方が伝わるのかもしれないですけど。でもやっぱりスピッツっていう、それをやらない完成形の先輩がいて。だから僕は、そこを目指したいんです」

長田「根本の川谷の歌詞はずっと変わらないと思っています。アルバムを出す度にそれがどんどんブラッシュアップされていって良い方向に進んでる。僕は付き合いも長いので、こういう歌詞をくれるから、こういう気持ちで楽曲を作れるっていうのがずっとあって」

後鳥「完成して改めて聴いて、さすがだなと思います。今回だと、『左恋』はすごく面白い。あと『たまゆら』とか『不思議なまんま』とか『さざなみ様』とか、パンチラインや良い表現だなって思うところがたくさんあって。僕にも聴く度に新しい発見があるので、聴いてくれる方にもそこを楽しんでもらえたら良いですよね」

ラストに収められている「夜の恋は」は、女性の多重コーラスが入っており、メンバー4人以外の要素も積極的に取り入れるバンドの姿勢を象徴している。

川谷「昔からあった曲なんですけど、最後のコーラスが歌ってる2行は書き足した部分で、これを俺が歌わないところに、次に向かうという意味があるんです。『濡れゆく私小説』に最後『結び様』って曲があって、『好きにならなきゃよかった』って歌詞で終わるんですけど、アルバム自体がそれで終わるっていうところもあって、そことのリンクもありますね。『結び様』と『夜の恋は』を関連づけるなら、男も女も結局同じことを思ってたけど、それを知る由もなかったっていうことになる」
■偶然の産物を楽しむのも音楽の一種

indigo la Endの他にも、ゲスの極み乙女。やジェニーハイをはじめ、複数のプロジェクトを掛け持ちする川谷。クオリティーの高い楽曲をハイスピードで生み出し続けている。

川谷「いろんな音楽が好きですし、『すぐ作ろうよ』って動くのは健康的なことだと思っています。“好きこそ物の上手なれ”みたいなことですね。何か作り終わってもすぐに違うものを作らなきゃってなるので、心は忙しいです(笑)。良いものができたときに喜びに浸ることもないので」

長田「僕としては、昔からこういうペースなので、これが普通なんですよね(笑)」

川谷「昔の方がもっとひどかった気がする」

佐藤「デモがない状態でレコ―ディングスタジオに入って、ドラムから録り始めたこともあった。BPMからまず決めたっていう(笑)」

川谷「結成当初は、ライブ当日の朝9時から作り始めた曲を、そのままライブでやったりしていたので。そういう感覚自体はそんなに変わってないというか、今は全然遅い方(笑)。プリプロまでやってレコーディングスタジオに行くので、ちゃんとやっているというか(笑)。でもそれもここ1年くらいの話なんですよね。『夜行秘密』はプリプロしたからちゃんとしているのかもしれないです(笑)。やっぱり整理できるし、レコーディングに入るときに考えることが減るので全然違う。何も決めてないからこそ面白いときもあって。偶然の産物を楽しむのも音楽の一種だし」

佐藤「確かに今回整理された部分はあるので、入り組んでいるところがより解像度が高く見えるっていうのはあるかもしれない。昔は割とぐちゃぐちゃしてた。でも、根本はあまり変わってないんですよね。自分たちのスキルが更新されたから良くなってるっていうのもあると思います」

結成10周年を迎えたが、今後のビジョンとは。

川谷「変わらない部分も必要だと思うのと、全然違うものを作りたいっていうのもあって。でも急にレディオヘッドが『OKコンピューター』から『KID A』にいったみたいな大幅な変化はしないと思うけど(笑)。急に全部ピコピコしたりとか。もっと根本的な部分で、自分たちが分かる変化で良いのかなっていうのはありますね」

佐藤「バンドである以上、ひとつの制限を背負っているところもあるので、その中でどう研ぎ澄ますかっていう」

後鳥「良い曲をたくさん作って出し続けていると思っているので、それを続けていきたいですね」

長田「楽曲の変化をするならあまりギターを弾かない曲が良いな」

後鳥「弾かないじゃなくて、弾かなくていい曲ね(笑)」

長田「そう、今回はいつもより弾こうかなって気になってやってみたんですけど、疲れました(笑)」

取材・文=小松香里