野村萬斎、名探偵・勝呂武尊シリーズの3作目に「今作の謎解きは大変でしたね」<Interview>
「死との約束」は“ミステリー界の女王”アガサ・クリスティーが1938年に発表した長編小説。今回、三谷は舞台を“巡礼の道”として世界遺産にも登録されている熊野古道に、そして時代設定を昭和30年に置き換えて執筆。三谷流の「死との約束」を作り上げた。
WEBザテレビジョンでは本作で名探偵・勝呂武尊を演じる主演・野村萬斎にインタビュー。作品の見どころや三谷作品の魅力などについて話を聞いた。
――シリーズ第3弾となりますが、勝呂のキャラクターは馴染んできましたか?
3回目にして投球方法はある程度定まってきましたね。豪華な役者さんたちとの演技のキャッチボールは私も楽しいですが、視聴者の方々も楽しみになるのかなと思っています。
三谷さんが好きな探偵はくせ者が多いかもしれないですね(笑)。ただ、(原作の主人公である)ポアロ自身が憎たらしくて、露悪的なところがあったり、卑怯だったり…かっこいい系とはちょっと違う探偵なんです。でもどこか正義感を持っているというのが、このキャラクターの魅力だなと改めて思いました。
第3弾ではありますが、この3作品はトリックが全然違う作品です。「オリエント急行殺人事件」「黒井戸殺し」「死との約束」と勝呂は共通していますが、1本1本の作品にアイデンティティーがあり、違う作品として面白いというのも魅力だと思います。
■原作に忠実でかつ面白いのが“三谷マジック”
――三谷さんの脚本の魅力を教えてください。
三谷さんのシリーズは「楽しく読み進める小説の感覚がある」という感想をよくいただきます。アガサ・クリスティーの原作を好んでいる人からすると、「ポアロってこういうちょっと嫌なやつだよね」という部分も含め、非常に原作に忠実でかつ面白い。これが“三谷マジック”なのかなと思っています。
また原作の舞台だった死海を熊野古道にしたり、作中のフレーズに出てくる“ABC殺人事件”を“いろは殺人事件”としたりというウィットに富んだ変換術も楽しいですね。
――「死との約束」は全3作の中でもかなり複雑な事件だと思います。
今作の謎解きは大変でしたね。自分でも何を話しているか分からなくなりそうなくらいややこしくて…(笑)。
オセロゲームの後半で全てをひっくり返すようなどんでん返しと、そのための伏線がよくできているなと思います。台本を読んだ段階でも面白いなと思ったので、さまざまなミスリードを含め面白いと思っていただけると思います。
――現場の雰囲気はいかがでしたか?
本堂家は松坂慶子さんから原菜乃華ちゃんまで、幅広い世代のファミリーなので、バラエティーに富んでいて面白かったですね。
松坂さんは憧れのスターの1人でもありましたし、シルビア(・グラブ)さんや山本耕史さんは舞台でもご一緒したことがなかったので、スリリングな駆け引きもできて楽しかったです。
勝呂は嫌なやつなので、わざと怒らせて相手の動きを引き出したりしますが、この駆け引きを上手くするには、はめられる人のリアクションも必要なんです。「押して押して押すけど、実はわなだった」というような演技の掛け合いも楽しめると思います。
(鈴木)京香さんも溌剌としたユニークな方なんだということが分かりました。「だから三谷さんが好きなんだな」と思いましたし、僕も非常にファンになりましたね。
三谷さんが「(鈴木演じる穂波とは)ちょっとしたラブロマンス」と言っていたので、とてもうれしく思っています。
■家族と旅がテーマになっている部分が魅力に
――勝呂の独特な話し方にはすぐに切り替えられるのですか?
さすがに3回目となり、勝呂のスタイルも確立されたので、すっと入りやすくなりました。
ひげがついていると自然と勝呂の話し方になってくるので、そういう意味ではひげも演技の助けにもなっていると思います(笑)。
三谷さんの作品でも有名なシリーズといえば「古畑任三郎シリーズ」(フジテレビ系)。三谷節をずっとやっていると、だんだん「古畑任三郎かな?」と思うような間ができてくるんですが、これは勝呂なりの間に変えられるようになってきたと思っています。
――キャラクターに入る中でひげが一番のスイッチなのでしょうか?
ひげをつけるとなんだかしゃくれた感じになりますね。
どうしてもしゃべりが中心になりますが、動きの部分でもバリエーションを出せればと思っています。初回から無声映画のチャップリンのような動きをしているのですが、なお強調したりしていますね。
今回は昭和30年という設定ですから一種の時代劇にもなっていると思うんです。様式美やパターン化した動きも許されるので、そういう楽しみ方もできると思います。
今回も衣装が素晴らしいので、大正モダニズムから戦後までの洋服の流れも楽しんでいただけると思います。みなさんすごくかっこいいんですよ。
――OA前ながら第4弾への期待の声もあると思います。
イギリス映画でポアロを演じているケネス・ブラナーに対抗していきたいですね(笑)。
三谷さんは次の第4弾をすでに構想していると聞いています。すごいセリフ劇なので戦々恐々としています。
――前2作と比較した「死との約束」の魅力はどういうところでしょうか?
やはり家族と旅がテーマになっている部分だと思います。旅の不思議さやロマンも魅力的で、その場その場で出会う偶然性も含めた旅の面白さも描かれています。
コロナ禍でなかなか旅もできない状況なので、作品で旅行の良さも味わっていただけるかと思います。
――最後に視聴者にメッセージをお願いします。
第3弾で安定していながら、これまでの2作品とは違った側面も持つ非常にスリリングな作品になっています。トリックの面白さや誰が犯人なのかといった部分を手に汗握りながら見ていただけたらと思っております。
また、事件が起こる背景も熊野古道という日本のパワースポットなので映像としても非常に楽しんでいただけるのではないかと思います。
そして何よりも三谷組おなじみの役者さんを含め、非常に熱い芝居が繰り広げられています。加えて三谷さんならではの笑えるポイントもある贅沢な作品に仕上がっております!