2015年10月にサービスを開始し、2020年に5周年を迎えた民放公式テレビポータル「TVer」。2020年7月以降は毎月の動画再生回数は1億回を超え、同年9月にはMAU(マンスリーアクティブユーザー、ビデオリサーチ調べ)が最高値となる1350万を記録した(2021年1月27日プレスリリースより)。

全国15〜69歳を対象とした調査でも、認知率(2020年12月、マクロミル調べ)は61.3%となり、サービスの規模、認知度ともに拡大を続けている。

コロナ禍による動画配信サービスの需要の高まりの中、また民放各局も独自の配信に力を入れる中で、「TVer」は今後どのような計画をしているのか。「TVer」を運営する株式会社TVerのTVer事業室長・中島和哉氏にインタビューを行い、5年間の歩みや現状、そして今後の展望について話を聞いた。

■開始当初は“違法動画の撲滅”の意味合いが強かった「TVer」

――2015年10月のサービス開始時は、在京の民放キー局5局からのスタートでしたが、大まかにこの5年の変遷をご説明いただけますでしょうか。

「TVer」は2015年10月26日にスタートしました。当時は在京5局のコンテンツのみで、毎週およそ50番組程度の配信から始まったサービスになります。それまで放送局はいわゆる「SVOD」と言われる月額課金制の有料モデルは運営していたんですけども、放送本編の無料配信サービスというのは、いろいろな権利やビジネスモデルの問題がある中で、実現できていませんでした。“放送局が共同で無料の番組配信サービスを行う”ということが、「TVer」の一番の特徴になったかと思います。

サービス開始から5年たちまして、今では在京局だけでなく、在阪局の皆さまをはじめ、ローカル局も含めて40を超える放送局の皆さまからコンテンツのご提供をいただいており、毎週およそ300番組が常時配信されているという状況になっています。再生回数でいうと1カ月で1億回を超えるサービスにまで成長しました。

当初は配信する番組のジャンルや時間帯に偏りがありましたけれども、今はゴールデンタイムのドラマ・バラエティを中心に過去のドラマ作品などアーカイブの配信も行っています。例えば、長瀬智也さん主演、宮藤官九郎さん脚本の「俺の家の話」(毎週金曜夜10:00-10:54)の放送開始に合わせて「池袋ウエストゲートパーク」(2000年)や「うぬぼれ刑事」(2010年、以上TBS系)といった同じタッグで制作された作品の無料配信をTVerでは行いました。

配信オリジナルコンテンツというのも一部ですが始めています。放送に乗らなかったディレクターズカットや、広告主さまと連携させていただいたスポンサードコンテンツなど、そういったものも行っております。

また、オンデマンド配信に限らず、ライブ配信も本数としてはかなり増えてきております。直近で申し上げますと、「全国高校サッカー選手権大会」(日本テレビ系)では、各都道府県の決勝と、全国大会の予選から決勝までほぼ全ての試合を配信させていただきました。

他にも「24時間テレビ」(日本テレビ系)の募金ルームの模様をライブ中継したり、「ロンドンハーツ」(テレビ朝日系)の“50PA”こと、ぺこぱ・松陰寺太勇さんの生配信ライブをやったり、そういうことも手掛けておりましして、ドラマのイメージが強いサービスかと思うんですけれども、スポーツやバラエティーといったジャンルもかなり拡張してきています。

――サービスの方向性として変わったところはあるのでしょうか。

始まった当初とは目的が変わってきました。サービス開始当初、放送局が課題と感じていたのは、違法動画だったんです。ですので、正規のコンテンツを安心安全な環境で配信するという、違法動画の撲滅の意味合いが最初は割と大きかったです。

加えて、“放送”からどんどんお客さまが“インターネット”にシフトしていくというのが、いろいろなデータから分かっていたのですが、インターネットの中に“放送”のコンテンツというものがものすごく少ないことも課題でした。有料で見られるものはあっても、無料で見られる放送局のコンテンツというものは、当時ほとんどなかったんじゃないですかね。

放送本編を無料で見られる場所をわれわれが用意することで、インターネットで見て、次はテレビで見ていただくという、テレビ視聴への回帰というのも大きな役割でした。その2つが5年前の大きな目的でしたね。

ですが、2020年7月に、それまで「TVer」のサービス運営を担ってきた株式会社プレゼントキャストに在京5社が資本増強し、社名も株式会社TVerに変更して、体制が大きく変わりました。それまでの放送局の事業を受託している会社から、放送局自身が事業を進めていく会社になり、体制もメンバーも強化されました。

テレビ放送の価値の維持や違法動画対策というのは引き続きあるんですけども、今はそれに加えて、新しい広告ビジネスを放送局と一緒に考えたり、社内では「パーソナルタイムシフト」と呼んでいるんですけども、番組表に沿って番組を見るという視聴形態から、ユーザーの皆さんがご自身の都合の良いときに、いつでもどこでもテレビコンテンツにアクセスしたいという欲求に応えられるサービスを拡張したりしてきています。

具体的に申し上げますと、時短ニーズに合わせる形で本編を最大1.75倍速で見られる倍速再生、消音にしていても見られる字幕機能、このシーンから見て欲しいをSNSでシェアできるシーンシェア機能、スマートフォンを縦持ちにしたまま見られる縦型再生機能などを実装しております。

■テレビデバイスからの視聴にも対応 割合もパソコンを超える

――2021年1月のプレスリリースではF1(20〜34歳女性)、F2(35〜49歳女性)層の利用者が多いとありましたが、それ以外に判明している利用者の属性はあるのでしょうか。

「TVer」のランキングで上位を占めることが多いドラマは、作品によって多少増減はありますが、一般的にF層(女性)の方の視聴が多いです。一方、バラエティーはM層(男性)の方に多く見られているデータがあります。

かつバラエティーについては、テレビデバイスでよく見られるということも分かってきました。「TVer」は2019年4月からテレビデバイスでの視聴にも対応しましたが、今はこの視聴比率がパソコンを上回る形になりまして、大体15%くらいあります。メインはスマートデバイスと言われているスマートフォンやタブレット端末で約75%、残り10%くらいがPCからの視聴になります。

また、興味深かったのは、「全国高校サッカー選手権大会」のライブ配信は他の番組に比べると10代の方に多く見ていただいておりました。新型コロナの影響で準決勝、決勝は無観客で行われましたので、応援に行けない高校生が「TVer」を使って見てくれたものと分析しています。

視聴されている番組のジャンル別の割合で申し上げますと、ドラマが大体6割、バラエティーが3割、アニメや報道、ドキュメンタリー、スポーツが合わせて残りの1割ですね。

――その他に特徴と取れる点はありますか?

時間帯ですね。「TVer」における利用時間帯のゴールデンタイムは夜11時台になっています。おそらく、仕事や学校を終えてご自宅に帰られて、ご飯を食べて、お風呂に入って、ベッドに入る手前のすきま時間に使っていただいているんじゃないでしょうか。

あと、日中は他の時間帯に比べてPCからの利用率が高く、会社や学校からパソコンで見ていただいているユーザーが多いことも読み取れています。

――「TVer」のビジネスモデルは広告収入型ですが、掲出場所としての特徴はありますか?

配信しているコンテンツは放送局が地上波で流したものになりますので、非常に安全安心なコンテンツという点でしょうか。他の媒体の比較調査結果によりますと、「TVer」の場合は本編だけでなくCMもきちんと見てもらえているという結果が出ています。

特に「有音完視聴率」という、音を出したまま最後までCMを見ていただいている率は84.6%にもなりまして、この数字は他の動画広告と比べても圧倒的に高い数字だと広告主さまから高い評価をいただいております。

地上波番組のCMと同じタイミングで広告が入っているということで、その嫌悪感や違和感というものが他のサービスに比べると少なく、ユーザーの皆さんにも受け入れられているのだと思います。

――各局が自前の配信サービスを持っている中で、共存するためにしていることや、差別化を図るためにしていることはありますか?

各局のサービスと比べて「TVer」には全局の番組がそろっている、東京だけでなくローカルの番組も幅広く配信されているという特徴があると思います。ユーザーには各局のサービスも使っていただきつつ「TVer」も使っていただくことで、両者のすみ分けがうまくできるのかなと思っています。

■今後は「パーソナルタイムシフト」への対応やレコメンド機能の充実を

――最初は在京民放5局からのスタートで、2016〜2019年にかけて系列の関西の民放5局が加わりました。構想としては最初からこれくらいのスピードを考えていたのでしょうか?

2015年10月のサービス開始の段階では、ユーザーの反応がどうなるかというのは、放送局自身も予想がついていませんでした。インターネットの中に放送局のコンテンツをもっと増やすことを、まずは「やってみよう」というところから始めたと思っています。

TVerが立ち上がってからさまざまな反響やご意見をいただき、思った以上にこのようなサービスをユーザーが求めていらっしゃったということが開始から半年間くらいの間で分かってきて、そうした中で在阪局にもお声掛けさせていただきました。

当時はまだまだ在京局のコンテンツ数も足りなかったですから、在阪局のコンテンツを増やすということで、よりユーザーのニーズに応えられるんじゃないかというところでお声掛けさせていただいて、そこから北海道から九州、沖縄まで、日本全国の放送局にご参加いただいております。

――ここまで5周年を迎えた「TVer」に歩みや現在地をお伺いしましたが、さらに5年後、10年後と、長期的に見据えている目標はありますか?

先ほど申し上げました「パーソナルタイムシフト」、ユーザーの行動や要望に合わせて、最適なタイミング、最適なチャネル、最適なコンテンツを提供していく、このこと極めたいと思っております。何よりもユーザーファーストで、お客さまの声に耳を澄ませて、寄り添ってサービスを改善していきたいと考えています。

あとは放送の同時配信ですね。2020年の10月から12月まで、日本テレビ、読売テレビ、中京テレビの3社で取り組まれたトライアル配信を「TVer」で請け負わせていただきました。権利者の皆さまのご理解とか、ビジネスモデルの構築であるとか、課題は多いのですが、ユーザーニーズが高いことは承知しています。

また、番組表の中には入り切らないコンテンツというものも、放送局には意外とたくさんありますので、これも今後拡張していきたいと考えております。

システム的なところで申し上げますと、レコメンド機能を磨いていきたいですね。他の動画サービス、配信サービス等でいろいろ研究もさせていただいておりますので、ユーザーがより使いやすいサービスにしていきたいです。

例えば、「マイリスト」という機能があるんですけれども、この機能をもっと分かりやすく、使いやすくしていきたいと思っています。マイリストは番組だけでなく、タレントごとにも登録することができて、気になるタレントのマイリスト登録をしておけば、そのタレントが出ている配信番組がマイリスト画面で一覧表示されたりするんですね。

そういった機能がまだユーザーの皆さんに十分認知されていないんじゃないかというところも課題としては感じているので、使いやすくするためのブラッシュアップもやっていきたいと思っています。

TVerという会社が放送局と一緒にテレビの未来の形を作っていかないといけないと強く感じていますので、引き続き放送局や広告主の皆さまと連携しながら、ユーザーニーズをかなえるサービスであり続けたいと思っています。