秦 基博デビュー15周年のタイミングでリリースされる弾き語りベストアルバム第二弾『evergreen2』。DISC1は2015年以降のシングル曲を中心に代表曲を網羅、DISC2はリクエストを実施し、その結果をもとに選曲した。秦にとって弾き語りは音楽活動の原点であるが、弾き語りアルバムを作るに至ったのは、定期的に開催しているアコースティックライブ・シリーズ「GREEN MIND」の存在が大きい。

「もともとアコギをもって弾き語りで曲を作るっていうところから音楽活動を始めたんですけど、デビュー以降、ライブはだんだんバンドセットになっていって、音源もアレンジして世界観を構築していくことが増えていったんですよね。逆転現象が起きていったというか。そこで、原点にある弾き語りを大切に、アコースティックでのんびり聞いてもらえるライブができたらいいなというところから『GREEN MIND』を立ち上げたんです。その時点で30分ぐらいの尺のライブは弾き語りでやったことあったんですけど、2時間を超えるワンマンは一人でやったことがなくて。いざ、やり始めてみると思っていたよりハードルの高いことをやろうとしてるんだなって気付きましたね。

アコギ一本でどれだけ成立させるかとか、どうやってお客さんを波に乗せていくか、逆に引き込んでいくかっていう、そのダイナミクスを一人でコントロールしていくことの難しさや面白さに挑戦していくというライブになっていって。ダイレクトにお客さんのそのときのムードを感じてビート感を変えたり。曲に入る前の間合いを変えたり。2008年に『GREEN MIND』を始めたんですけど、2009年は一人で全国21カ所弾き語りで回るツアーをやって。武者修行みたいな感じでかなり鍛えられました。その後、『GREEN MIND』を重ねていくにつれて秦 基博なりの弾き語りのスタイルがどんどんできていって。その中で1枚目の『evergreen』を作ったっていう流れでした」
■秦 基博の弾き語りはこういう曲が聴きたいというイメージは割とストレートに皆さんの中にあるのかなと思いました

初めて『evergreen』をリリースしたのは約6年半前に遡る。

「音楽をいろんな形で作るようになっていくと、弾き語りを想定して作ってない曲もあって。例えば曲を作るときに頭の中でいろんな楽器が同時に鳴っていて、その上でアレンジした曲もあるので、それを改めてギター1本でアレンジし直すときに、どんなふうに緩急をつけて聴いてもらえるかを考えて。その作業は自分の音楽的にも糧になりました。そうやって蓄積されたものを一つにまとめるという意味でも大きかったアルバムだと思います。弾き語りってすごく余白のある表現で、言葉やメロディーの聞こえ方も変わってくるし、そういう魅力は『evergreen』を作ったことで再認識しました」

『evergreen2』では前作と違い、リクエストを募った。

「『evergreen』はデビューからそのタイミングまでのシングル曲を集めた2枚組だったので、同じボリュームにしようと思うと今回はシングル曲だけでは明らかに曲数が足りないんですね(笑)。それでDISC2はリクエストを募ろうということになって。皆さんが弾き語りで聴きたい曲を募集してその中から選曲すると、15周年も総括できるし、皆さんから弾き語りというものに対する思いも受け取れるので、そういう形にしました」

リクエストの1位は、映画『さよならくちびる』の劇中で主演の小松菜奈と門脇麦が歌うことを想定して作られた「さよならくちびる」。

「リクエスト結果を見たときに、全体的に弾き語りが似合う曲が並んだ印象は強くて。いわゆるオリジナルのアレンジが割と弾き語りに近いような曲というか、ギャップがあまりない曲が選ばれたなと。なので、秦 基博の弾き語りはこういう曲が聴きたいというイメージは割とストレートに皆さんの中にあるのかなと思いました。あと、今までのオリジナルアルバムの最後の曲が多く入っていて。その時々の作品の最後を締める曲って結構重要な曲が多いので、その曲たちが選ばれたことも印象深かったです。

『さよならくちびる』に関しては、以前『提供曲はもうあげたものだから、自分で歌う気はない』ってはっきり言ったことがあるんです。それもあってか今回リクエストの候補曲の中に入っていて、今回を逃すともう機会はないと思われたのか、ダントツの得票数だったんですよね(笑)。劇中でハル(門脇麦)が作った曲をハルとレオ(小松菜奈)の二人で歌うっていうテイの曲として提供したので、秦 基博が女性二人組に書く曲というより、ハルから生まれた曲のように聞こえなきゃいけないという普段の提供曲ともまた違った面白さがあった曲でした。秦の歌で聞いてみたいっていう声も以前からあったし、スタッフにも『一応リストには入れましょう』と言われたので、『一回歌わないって言ってるから何だか嫌だな』と思いつつ渋々入れたんですね。そうしたら、結果一位だったという (笑) 。『さよならくちびる』を作った当初意識していたのは、女優さん二人が歌うということで、歌い上げるというよりはセリフを言うように歌える曲が良いんだろうなということでした。イメージしていた曲になったと思ったんですけど、それをいざ自分が歌うとなると、やっぱりすごく難しさはありました。曲との距離感っていうんですかね。いろんなニュアンスを試しながら、最終的に収録されてるものにたどり着きました」
■歌っている僕自身はやっぱり曲を作ったときとは違うので表情の変化は出てくるんですけど、臨む姿勢は変わらなかった

今回改めて弾き語りという形で曲と向き合ったことで見えてきたものとはどんなことだったのだろうか?

「自分のキャリアの中でもいろんな年代の曲が収録されていて、作ってから10年以上経っている曲もあるんですけど、歌うときの心情や情景描写は変わらないんだなって思いました。『恋の奴隷』とかそれこそすごく前に作った曲ですけど。歌っている僕自身はやっぱり曲を作ったときとは違うので表情の変化は出てくるんですけど、臨む姿勢は変わらなかったですね」

前作にあたる、2019年にリリースした6枚目のオリジナルアルバム『コペルニクス』は転換作で、大きなトライアルがたくさんあった。

「やっぱりいつも前作とは違うベクトルのものをやりたくなるっていうのはあるんですよね。揺り返しというかそれで『コペルニクス』みたいなものの後にはミニマムな弾き語りがやりたくなったところもあって。自分の中でいろんな音が鳴っているのを構築していくモードと、逆に引き算して歌と詞の世界を聞いてもらうモード、どちらも音楽を表現するっていう意味では必要で。ライブに関しても、しばらく一人で弾き語りをやってると、バンドで合奏したいなってなるし、バンドばっかりやっているとそろそろ一人でやってもいいかなって思うし(笑)。
でも、大きく言うと全部一緒なんですね。音楽という大枠の中で、そのときに自分がやりたいことをやっているということ。結局自分の歌と詞とメロディーを一つにして届けたいということは同じで。無理やり何かを作り出そうとしてもそもそも浮かばないし、出来たとしても良いものだと思えない。僕は過去のストックを引っ張り出すことも少なくて、やっぱりそのときの自分にとって新鮮なものを作りたいという感覚なんですよね。だから、そのとき自分が何をやりたいかということをいつも自問自答してる感じなんです」

取材・文=小松香里